第21話 物語の主人公のように!?
なんてこった……。
見る人が見れば確かに拙い状況だっただろう……。
だけど──
いきなり心臓に向けて槍はないだろ!?
師匠いなかったら串刺しで死んでたんですけど!?
今もずっと滅多刺しする勢いで槍が放たれている。
師匠が守ってくれているからまだ余裕はあるけど、たまに攻撃がすり抜けてこちらに来る時がある。
【直感】先生と『危機察知』からの警鐘が酷い。
その為、僕も常に警戒しているけど、いつ当たるか冷や冷やしている。
どうすりゃ良いんだよ……精霊の子もいつの間にかいないしさ!
厄日なの!?
「ロイ──」
「なんですか師匠!?」
「今の『聖天』はな……実は──男は俺1人だ……」
……その情報今必要なの!?
「師匠だけですか? おわっ」
迫る槍を逸らして避ける。
「……そうだ。その理由は──エレン、あいつがいるからだ」
意味がわからないんですけど!?
「……それが今関係有るんですか? ぬおっ」
今のは『アクロバティック』が無かったら避けれないよ!
師匠、わざとこっちに攻撃やってないか!?
「つまり、あいつは大の男嫌いなんだ」
あの人が男追い出してるの!?
「致死攻撃をするぐらいに──ですか?」
そりゃー男も抜けるでしょ!
「まぁ、理由もあるんだが今話してる暇はない。隊長達が来ない以上は俺達でなんとかするしかないからな」
師匠はずっと『聖天』にいたんだ。きっと何か方法を知ってるはずだ! だって師匠は『聖天』で唯一の男でしょ!?
それに賭けよう!
「何か策があるんですね!?」
「ねぇよ……こんな状況で考えてたら俺もやられるわ! 後、二日酔いで頭がまわらねぇよ!」
なら、どうしろと!?
「やっぱり、母さん達が戻るまで粘った方が──ってあれ何です?」
エレンさんの雰囲気が変わる──
物凄い覇気というのだろうか?
『威圧』とは違うプレッシャーが僕達を襲う。
「……やべぇな──『限界突破』だ。俺も本調子じゃねぇ……お前を完全に守るのは難しい。死ぬ気で避けろ」
えぇ!? 無理無理無理無理!
どう考えても手加減無しの母さん並の攻撃が来る予感しかしないんですけど!?
「ロイきゅんガンバっ!」
この人もさっきから気の抜ける応援ばっかやめてくれませんかねぇ!?
この人からも『危機察知』がガンガン働くんですけど!?
あぁぁぁっ、どうしたら良いんだ!?
落ち着け僕!
まだエレンさんは溜めの段階だ。時間はまだあるはず!
こういう時は前世の記憶で乗り切るんだ!
ファンタジーやラブコメとかのラノベはたくさん読んでたんだ! 何か解決策ぐらいあるだろ!?
このエレンさんは男嫌い──つまり騙されたりして酷い事をされたに違いない!
こういう場合は大概、新しい男との出会いによって、その人に夢中になり──過去の男を忘れる。そんな物語が多かったはずだ!
つまり、出会いがあれば良いんだ!
ここは僕が物語の主人公になって擬似体験でそれを再現するしかないっ!
そう、僕にはそれが出来るかもしれない──
気が付けばエレンさんは準備万端ぽかった。
「──来るぞ。これを乗り越えたら──お前は一人前だ」
師匠ぉぉぉっ、防げても最初の一手が限界ですって!
しかも卒業試験みたいになってますよ!?
「死……ね──」
タイムリミットか──腹くくるか。
エレンさんは目の前から消える──
今の【視覚】レベルじゃ捉えられないが、2人の【直感】先生と教え子の『危機察知』『気配察知』達──そして、上級生となった『予測(極)』、それに『見切り』非常勤講師が僕の背中だと教えてくれる。
「ちっ、間に合わねぇ──」
師匠とほぼ同時に僕は居場所を把握するが、師匠は確実に間に合わない。
『回避』『アクロバティック』があるから、一手ならなんとか出来るだろう。それ以上は僕が反応出来ない。
問題はその後だ。
【性感度】大先生は触れていないと効果が無いから使えない。
今触れないで使えて、効果を出せる『感度操作』は──
【好感度】ぐらいだ。
もし、僕の仮説(前世の記憶)が正しければ、これで目が覚めてくれるかもしれない。
ガギンと盾で当たる瞬間に盾を斜めにして逸らす──
「ちっ──」
やっぱり完全に逸らすのは無理だったか……。
盾で逸らしはしたけど、タイミングが合わずに槍は貫通し、僕の左腕をえぐる。
【痛覚】を1にしているし、耐性系スキルが効果を発揮しているからまだ耐えられる。
そして、エレンさんは槍を瞬時に引き抜き──再度攻撃する為に槍を突き出そうとする。
このタイミングしかない──
【好感度】を最大にする──
「──痛っ──」
あちゃー、効果なかったか……。
僕じゃ物語の主人公になれないな──
腹に刺さった槍を見ながらそう思う。
でも、まだ死んじゃいない。
なんとかエレンさん止まったっぽいし、正気に戻ってくれたら解決だな!
◆
「……私は何を?」
一瞬、何かに惹き寄せられるような感覚がした?
私の手に残る感触──それは人を突き刺した時に感じる感触。
槍を伝ってくる血を辿ると──
その先にはロイド君が串刺しになっていた。
カイルさんと隊長の大切な子を私が──殺した?
「がはっ……」
血を吐き出すロイド君。
まだ生きている! 早く手当をしないと──
「──大丈夫……ですから……」
血を吐きながらも笑顔でそう言ってくれるけど、これは重症。
私はなんて事を……。
自分が嫌になる……まさか自分の発作がこんな子供にまで起こるなんて……しかも義理の弟なのに……初対面なのに……。
「ごめん……なさい……」
涙が止まらない……やっぱり聖騎士は私には向いてない……。
その場で崩れ落ちる。
「ロイ君っ!」
「──殺してやるっ! 離せっ!」
泣きながらフィアちゃんが近寄って来る方向を見るとリリアとユラさんが泣きながら剣を握りしめるレラちゃんを羽交締めにしている姿が目に入りました。
「エレン──目ぇ覚めたか?」
ゾルさんは滅多に怒らない──だけど、今は高ぶる激情を抑えているのが伝わって来る。
「は……い……」
「処罰はシャーリー様が来てからだ。フィアっ! 今は泣いてる時じゃねぇっ! 早く手当をっ!」
「──はい」
フィアちゃんは泣いたままロイド君に近寄り回復魔法を使います。
けれど、フィアちゃんの回復魔法では治せない……これはシャーリー様でないと無理かもしれないと思っていると──
みるみるロイド君の傷が塞がっていく。
信じられない……出来損ないと周りから罵られていたあの子がいつの間にかここまで出来るようになっていたなんて……。
ここに来てからあり得ない成長をしている……。
何故?
ロイド君と出会ってから?
フィアちゃんはロイド君に恋心を抱いている──恋は人を成長させる?
ちゃんと成長しているこの子達が羨ましい……。
私はずっとあの頃から止まったままなのかもしれない。
どうしてこうなったんだろう?
幼い頃──盗賊に襲われてからだ……。
私はたまたま通りすがりの隊長とカイルさんが助けてくれた。
そして、隊長は私に力の使い方を教えてくれた恩人。
だけど、感情が爆発すると制御が出来なかった……それでも聖騎士なってからはまだ男嫌いで済む程度で抑えられていた。訓練じゃ容赦なくしてたけど……。
まさか、こんな事になるなんて……。
恩人──いや
私は自分の喉に向けて槍を突き刺そうと力を込める──
生まれ変わったら──
私も恋がしたいな──
「ロイ君!? 動いちゃダメっ!」
「大丈夫──」
私は声のする方向を見るとロイド君が立ち上がり、こちらに来る。
「エレンさん──ダメです。罰は人に与えてもらうものなんですよ? 自分でやったら自己満足じゃないですか」
別に罰は自分で与えても問題ない。きっと私を止める為にそう言ったんでしょう。
この子は不思議な子。普通こんな目に合ったら自分で殺そうとしてもおかしくない。
優しい子……。
この子みたいな人が世の中に溢れていたら──昔の私は救われたかもしれない。
それに私もフィアちゃん達みたいに惹かれたかもしれない。
「……君が罰を与えてくれるの?」
この子から罰を与えてもらったら止まっている私は成長できるのかな?
「はい──僕が罰を与えます」
「……わかったわ……好きにして……」
この子がそれで気が済むのならどんな罰でも甘んじて受けよう──
この子なら私を変わらせてくれる──
そんな予感がした。
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