第15話 師匠が出来た!?

 今、僕は目の前のゾルと名乗る人から素晴らしいアドバイスを受けている。


 やはり年上の人に相談するというのは良い方法だ。僕には『』という解決策は浮かばなかったな!


「つまりだ。お前の性欲が満たされれば解決ってわけだ! それにおっぱいからは母乳が出る。赤ん坊はそれを飲んで安心する! だから何も知らない内はおっぱいを揉む事によって精神を落ち着かせるんだ!」


 この言葉に凄く感銘を受けた!


 つまり、おっぱいには安心させられる力があるから揉む事によって子供の頃のような状態になり、精神を落ち着かせる事が出来る──そう言ってるのだろう!


 前世の記憶にもそんな知識は無いっ! 目から鱗だ!


 そして、今まさに策を授けてくれると言う!


 その方法を僕に教えてくれるなんて、この人はなんて良い人なんだ!


 心の師匠と呼ばせてもらおうっ!


「その策は──ハプニングを装って──」


 ──『危機察知』と『直感』が警鐘を鳴らす。


 ちっ、敵襲か!? 良い所だったのに!


 ハプニングがなんなんだよ! 気になるじゃないか!?


 ──って火球が大量に飛んで来てるんですけど!?


「ロイっ! こっちに寄れっ!」


 心の師匠は大盾を出して構える。


 この人──盾使いなのか!?


「はいっ! 師匠っ!」


 僕は即座に返事して近くに寄る。


 次々と絶え間なく師匠の大盾に当たる火球──


 全く僕にダメージは無いし、この人も無傷だ。


 何より盾の使い方が上手すぎる。


 す、凄い……なんて安心感だ。


 これが──盾使いか……。


 僕もこんな風になれるのかな?


 火球の嵐が止み、師匠が話し出す。


「げっ、ユラ……何でここにいるんだ? お前護衛はどうしたんだ? あっ、ロイ──あの魔法撃って来たの嫁さんだから安心しろ」


 ……嫁さん? そういえば娘からも魔法撃たれてるって言ったけど、嫁さんからも!?


 なんてハードな家なんだ……それであんなに盾の扱いが上手いのか。


「ゾルっ! あんた何してんのよっ!」


「そりゃー悩める子羊に解決策を教えてるんだが? それより、街中で魔法撃つなよな……」


「ちゃんと許可は貰っています。ほらあそこ見なさい」


「マジか……隊長とシャーリー様がいるじゃねぇか……」


 ん? この人ってシャーリーさんの知り合い?


 護衛っていう言葉から察するに──


『聖天』?


 それなら納得だ……通りで凄いと思った。


 それに隊長って──母さん?


 それ以外はレラとフィアしかいないしな。


「ゾル──何故ロイと一緒にいるんですか?」


 ゆらゆら揺れながら近寄りながら言う母さん。


 鳥肌が止まらない。


 こ、怖い。まるで阿修羅のようだ……異世界にも阿修羅はいたんだ!


 でも、これは僕が怒られているわけじゃない。だから余裕がある。


 とりあえず、話から察するに母さんは師匠に僕との接触を禁じていたのかな?


 何でだろ?


「はぁ……サプライズが無駄になりましたね……」


 シャーリーさんからもそんな声が聞こえてきた。


 サプライズ?


 あっ! わかった!


 1週間前にシャーリーさんが言ってたやつか!


 もしかして、この人が僕に盾を教えてくれるのか!?


 それは凄い嬉しいっ!


 心の師匠だけでなく、盾の師匠にもなってくれるなんて僕は幸せだなぁ。


 周りには感謝しかない。


 僕はこれからこの人に教えを乞うのであれば止めなければ!


「母さんっ!」


「なぁにロイ? 私はこれからこの男のせいでロイの笑顔が見れなくなってしまったのよ? だからお仕置きしないと──ね?」


 ドスの効いた声でめっちゃ怖い。これ完全にキレてる……止まる気配が全くない。


 つまり、喜ぶ僕の顔が見たかったんだと予想する。


「母さん! 僕は凄い嬉しいよ! この人が僕の師匠になるんだよね!? 母さん達の気持ちが凄く伝わってきたよ! だって現役の『聖天』の人が師匠になってくれるなんて本来なら絶対無理だもんね! いや〜本当嬉しいなぁ」


 どうだっ! 当然ながらこれは本心だ。これなら──


「ロイが喜んでくれて良かったわ……」


 まだだ、まだ何か足りていない。


「ロイド君は聡い子です。きっとわかっているはずですよね?」


 シャーリーさんの言葉からやはりまだ何か足りてない。


 考えろ、考えるんだ──


 ──わかった!


 しかし、この選択肢で本当にいいのか?


 僕に試練が訪れてしまう。


 だけど、これから師匠になる人を見捨てるなんて僕には出来ない。


 解決策もあるみたいだし後で教えて貰おう。


 僕は言う──


「今日だけ──1時間……」


「よく出来ました♪」


 シャーリーさんが褒めているし、母さんも満足そうに頷いている。


 やはり、これが正解だったか……。


「ロイ……何かヤバい約束したんじゃないのか? 良かったのか? 俺ならなんとかなったかもしれないぞ?」


 師匠は僕の深刻そうな顔を見てそう言ってくれる。


「師匠──僕はここで師匠を見捨てたら男が廃ります。だから安心して下さい。だから後で解決策を教えて下さい」


「師匠か──悪くないな。わかった──そこまでロイにとって重要な事なんだな? 必ず後で伝える」


「ありがとうございます!」


 こうして僕達は家に戻った──




 ◆



 ロイ……お前は良い奴だな。カイルを思い出させてくれる。


 見栄を張ったが、隊長相手に攻撃を防ぎ切る自信は無い。現役から遠ざかっているとはいえ──


 この間の覇気は明らかに全盛期並だったからな。


 肝が冷えた。


 それにロイから師匠と呼ばれるのも嬉しかったりする。


 俺は弟子をとった事が無いが──


 必ずや俺が立派な盾使いに育ててみせるからな!


 後、アドバイスもちゃんとしてやる!


 そう思って、隊長の家に着いて来たのはいいが──


「あんっ、あぁ……い、良い……そこよ……もう少し……つ、強く……」


 さっきからシャーリー様のが聞こえてくる。


 こんなの他の奴に見せれない……。


 というか、ロイの奴よく澄ました顔で揉みほぐしが出来るな……。


 ロイが隊長に欲情する理由がわかった。隊長も容姿は綺麗だ。艶っぽい声をずっと聞いたら親子であっても間違いが起こってもおかしくない。


 貴族でもそんな奴らもいるからな。


 だが、普通の価値観を持っている奴らなら──


 これはキツい……男なら誰だってキツいだろ。しかも精通したばかりで耐えれるなんてどうなってんだ?


 が無いから?


 いや、そうだったとしても──


 俺はお前の師匠だが、俺はお前を尊敬するぜ!


 そして、アドバイスが間に合わなかった俺を許してくれ……。


 お前は精神力だけならもう一人前だ。


 そこに関してだけは俺が教える事はない。


 しかし、ロイの揉みほぐしはそこまで気持ちいいのか……俺も機会があれぼやってほしいものだな。



 俺は耳栓をして時間が経つのを待つ──


 トントンと肩を叩かれる。


 ロイだ。


「終わったか?」


「はい……解決策を下さい……」


 ロイは憔悴していた。2時間も喘ぎ声を聞き続けたら仕方ないだろう。きっと股間はえらい事になってるかもしれん。


 さて、解決策か……ずっと考えていたが、こんなもんどうする事もできんだろ……。


 耳栓をしていても近距離なら声が漏れて聞こえてくるしな。


 弟子の為になんとかしてやりたい。


 そういえば──


 俺は何でんだ?


 俺は男してまだ死んでない。何故だ?


 ロイの後ろでユラが目に入る──


 あぁ、わかった。


「ロイ──外に出よう。他の奴に聞かれたくないだろ? 隊長達はかなり耳がいいからな……少し街を歩こうか?」


「わかりました」


 俺達は外に出る。


「大丈夫だ。周りには隊長達はいない。さて、本題だが、ロイ──俺はあの場にいて全く勃たなかった」


「なっ!?」


 そんな驚いた顔するなよ! なんか勘違いしてねぇか!?


「もちろん男としての機能はある。理由は──愛する嫁がいるからだ。だから──お前も愛する人を見つけて一途に愛し続けろ」


 俺が勃たない理由──それはユラがいるからだ。俺はこいつが死ぬなら一緒に死にたいぐらい好きだ。


 だから他の女に目移りしない。


「……なるほど……おっぱいの件は?」


「今のお前ではおっぱいぐらいでは効果は期待出来ない──だってお前童貞だろ? あれは経験者だからこそ効果がある。それが更に愛する人なら万々歳だ!」


 半分嘘だがなっ! 前言撤回するより、誤魔化したかったんだ!


「──ハプニングと言いかけてましたが、あれは?」


 しっかり聞いていたか……。


「あれはな……あの時はまだ事情を知らなかったんだ。ここまで深刻だとは思わなかった……だからおっぱいを掴み取る方法を伝授しようとしたんだ」


 俺はやった事がないが、昔道場で周りがそんなやり方を暴露してたから、それを教えようとしただけだ。つまりだ。


 やり方を教えたとバレたら俺は殺される。


「つまり、今の僕の最善の方法は──愛する人を見つけて彼女にする事なんですね?」


「そうだ──お前は容姿が良い。俺とは違いモテるだろう。顔が良いだけで好きな人に振り向いてもらえる確率は高くなる。だからまずは好きな人を見つけろ──そして愛せっ!」


「わかりました!」


「そして、その時はまた俺に聞けっ! 弟子のお前を俺が全力でサポートしてやる!」


「し、師匠っ!」


 俺とロイは目の前で握手を交わす。


 当初の目的通りになったな……過程が全くの予想外だったが……。


 ロイの満足そうな顔を見るにきっと俺を信用してくれたに違いない。


 だが、すまん。


 俺の解決策はあくまで愛する人がいる場合の策であって、愛する人がいない間はあの地獄に耐える事になる。


 まぁ、頑張ってくれ……俺にはこれ以上何も出来んからな……。


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