第57話 不安
「桜子」
赤狼の声にびくっとなったように桜子の背中が動いた。
桜子は振り返って、
「赤狼君」
とだけ言った。
「何かあったのか」
と赤狼が聞いた。
並んで歩く赤狼と桜子に遠慮するように水蛇や緑鼬は少し歩を遅める。
真理子は転校生の水蛇、緑鼬に興味があるようでそちらの二人の横に並んだ。
「え、ううん。別に、何もないわ」
と桜子は笑って見せた。
「今日の放課後、銀猫さんが黄虎君と紫亀先生のとこに遊びに来るんですって、ドーナッツでも買って行こうか? 闘鬼さんも来る?」
ちょこまかと二人の前を歩く金髪くるくる頭の世にも可愛らしい小学生姿の闘鬼に桜子が声をかけた。
「面白そうだ、行こう」
と闘鬼が足を止めて振り返った。
「お前は宿題でもやってろ」
と赤狼が言った。
「闘鬼さん、御当主の式神として働く事にしたの?」
「まさか、人間の使いなどつまらん」
「だったら闇の閨でも帰れ、迷惑な鬼だ」
と赤狼。
「起こしたのはお前らだ。百年ほどは寝たからな、運動がてらだ。今は美味い甘い物がたくさんあるな」
「百年?」
「そうだ、眠りについたのは赤狼、貴様が消えて当時の安倍家の面々も皆死に絶えてからだ。桜姫の最後も看取ったぞ」
「姫の最後……」
と赤狼が呟いた。
「あ、あたし、日直だったんだ……先に行くね。じゃ、放課後、紫亀先生の所に集合ね! 赤狼君、授業さぼっちゃだめよ!」
と桜子が足早に校舎の方へ駆けだして言った。
去って行く桜子の後ろ姿をじっと見送りながら赤狼は首をかしげた。
「桜子……」
「前世の事を覚醒するかどうかは個人差がある。能力の有無に関わらずする者はするし、しない者もいる。覚醒する事が次世にどう影響するのか」
「どういう意味だ? あの時、桜子が覚醒したらしいとは緑鼬に聞いたが……それが何か?」
「……全てを思い出すのが幸せかどうかは分からん、という事だ」
と小学生姿の闘鬼が腕組みをして言った。
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