第46話 東西南北の門戸

「こりゃあ、めちゃくちゃやなぁ」

 と紫亀が言った。

 紫亀はの北の門戸の上部に乗っかって結界の一端を担っていた。

 今は本性の紫色の巨大な亀に戻っている。

 北の門は道場から一番遠くにあるので、まだそれほど被害はないが時折鬼の巻き起こす突風で瓦礫や木材が飛んでくるし、鬼の妖気に潰されて消滅する式神達の逃げ惑う姿も見える。紫亀の周囲にももぞもぞと式神達が集まってきていた。

 選ばれし土御門の百神の霊気で結界もしばらくは持つだろうが、鬼が本気で結界を壊しにかかったらどこまで耐えられるかだ。

 紫亀はふう、とため息をついた。



 西の門戸には銀猫がちょこんと乗っかっていた。

 銀猫は式神としての霊能力は低いので、応援の為にここには数多くの下位の式神達が集まっている。普段からその事を良く思っていない妖体もおり、嫌味なささやきがちらほらと聞こえてくるが銀猫は年の功で気にもしない。

 銀猫が十二神に数えられるのはそれなりの理由がある。

 位としては八位で若く血気盛んな緑鼬よりも高い。

「そろそろかねえ」

 と銀猫は呟いた。



 南の門戸には主立った式神はいなかったが、十三の位より下位の者が数多く集まってきていた。十三の位の千晶という式神がその指揮をとっており、それでもヤキモキしていた。

「鬼を呼び出すってマジアホかっつうの。だから人間はよ」

 鬼の妖気は凄まじく、ただ敷地の中で咆吼する度に敷地が波打って地響きがする。

 今は神道会館を潰す事に熱中しているようなのでこちらに直接的な被害はないが、有り余る妖気が今にも結界の壁を突き破りそうだ。

「お前らがんばれよ-。ここが崩れりゃ、俺らは野良神になるしかねんだ。ここの自然たっぷりの庭で遊んで暮らしてえなら、死守しろ-。そのうちに十二神先輩がどうにかしてくれるって」

 と式神のわりに他力本願な事を言いながら、それでも自らの霊気を膨らませている。

 修羅の声に「おー」とか「うーい」とかあまりやる気のなさそうな声が続く。 



 東の門戸には赤狼がいた。ここが一番神道会館に近い。赤狼のすぐ側には桜子が居て、両手を合わせて目をつぶっていた。本格的な修行をしていない桜子なので再生の気を上手にコントロール出来ないのだが、それでも必死に皆の霊力の回復を願って神経を集中していた。

「あまり無理をしなくてもいいぞ。桜子の霊気は味方だけじゃなく、鬼まで回復してしまう恐れがあるからな」

「え、本当なの?」

「奴だって十二神だからな。まあ、疲れるなんて事知らないだろうけどな、鬼は」

 赤狼は金の鬼がどすんどすんと暴れているの見ていたが、

「そろそろ建物を壊すのも飽きたようだな」

 と言った。

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