第636話 装備回収と制限時間

「第三倉庫はここからいくつか角を曲がり、踊り場を抜けてさらに進んだところです」

「制限時間は残り9分39秒。一気に駆け抜けましょうか!」

「りょうかいですっ!」


 第一倉庫到着で、アイテムと装飾品の回収は成功。

 しかし武器や防具は、第三倉庫に移されていた。

 取り戻すのなら、制限時間内での到着が必要だ。


「繰り返すが、間に合わないなら俺はお前らを置いていくからな」

「分かってるわ。それじゃ行きましょう」


 さっそく駆け出す看守服姿のメイたち。

 本筋とは離れた『ミッション』の後半戦。

 当然、障害となる要素も容赦はない。

 やや広い廊下には、移動中の看守たちの姿。

 番犬がいち早く、メイたちの正体をかぎつけ走り出す。


「なんだお前たち、そこで何をしている?」


 すると番犬に合わせて、看守たちも動き出した。

 四人の看守に、四頭の番犬。

 それはここでアイテムや装飾品を取り戻したパーティに、『むしろ厳しくなった』と思わせるほどの勢いだ。しかし。


「【バンビステップ】!」


 先行する番犬の前に踏み込んでいったのはメイ。


「【装備変更】! 【キャットパンチ】パンチパンチからの【カンガルーキック】!」


【狐火】による威力上昇で、先頭の番犬を蹴り飛ばして打倒。


「【連続投擲】!」


 するとその隙間を抜けてこようとする番犬に、ツバメの投じた【ブレード】が刺さる。

 手前の番犬が転倒したことで、続く二匹は跳躍で回避を狙う。


「【ブリザード】!」


 ここはすぐにレンが対応、吹き荒れる氷嵐に弾かれ転がった。


「【高速接近】!」


 続くのは看守たち。

 先頭の男はメイを狙い、風をまとった剣の一撃を振り下ろす。


「【ストームブレード】!」

「【装備変更】【アクロバット】!」


 しかし当たらない。

【猫耳】看守メイの軽快なバク転が、振り下ろされる剣撃を見事に回避。


「【装備変更】からの――――とっつげきーっ!」

「「「うおおおおーっ!?」」」


 凄まじい勢いで弾き飛ばされた先頭の看守は、そのまま後方の仲間たちを巻き込んで転倒。


「【フリーズストライク】!」


 隙だらけになったところを、魔法一発で倒された。


「もう一人来るよっ!」


 早く戦闘が片付いたことでメイが新手の存在を捕捉する。


「今っ!」

「【不可視】【投擲】!」


 そして警報装置付きのドール型看守が、廊下の角を曲がってくる直前。

 子供看守ツバメは【雷ブレード】を投擲。

 自らに向かって飛んでくるブレードに気づけないドール型看守は、角を曲がった瞬間に感電して動きを止めた。


「【バンビステップ】!」


【鹿角】のままゆえに、移動速度は上昇中。


「もう一回【装備変更】っ!」


 あっという間にドール型看守の前に踏み込んだメイは、頭装備を【狐耳】に。

【狐火】付きの【キャットパンチ】から【カンガルーキック】という連携で、華麗にこれを打倒。

 続く踊り場にも敵がいるのに気付き、そのまま駆け込んでいく。

 そこにいたのは、五人の看守たち。


「――――誰が来てくれるかなっ!?」


 先手を打ったのはメイ。

【友達バングル】が輝き、一体の友達が大監獄にやってくる。


「ああっ! 君はあの時のっ!」


 やって来たのはなんと、ウェーデンの配達クエストで一緒だった暴れ犬。

 なんと『そり』を引いた状態でやってきた暴れ犬は走り出し、そのまま豪快に身体を反転。

 そりを看守たちに叩きつけた。


「「「ぐああああああーっ!」」」

「くっ!」


 そんな中。運良く【友達バングル】の攻撃範囲外にいた一人の看守は、『ベル』を取り出し異常を知らせようと動くが、その足もとを一匹の猫が駆け抜けていった。


「ッ!?」


 さすがにこれには、看守も虚を突かれた。

 すると次の瞬間背後に現れたのは、変身を解いたレンの姿。


「【フリーズストライク】」

「うああああああ――っ!!」


 得意のゼロ距離魔法で、看守を吹き飛ばす。


「やっぱりアイテムと装飾品があれば、かなり違ってくるわね!」


 ここであえて【変化の杖】を使ってみせたレンが、変身を解いて笑う。


「本当だねっ!」

「助かります!」


 アイテムと装飾品だけで一気に広がった戦いの幅に、三人は思わずハイタッチ。


「ふふ、この子が来るとは思わなかったわね」

「豪快な一撃でした」

「ありがとーっ!」


 メイはそりを付けたままの、かつての不機嫌犬を抱きしめる。

 その姿を見たツバメが思わず頬を緩める。


「すごいです……!」

「はっ、まあまあだな」


 帰っていく犬ぞり。

 一気に勢いを増したメイたちの怒涛の攻勢に、ネルとコゼットも驚きの声を上げた。

 星屑でも屈指の連携を見せる三人はそのまま、素晴らしい速さで第三倉庫へと駆けていく。


「残り時間も5分以上あるわ! 余裕じゃない!」


 不承不承といった顔のコゼットに、レンは軽くドヤ顔してみせる。

 残るは、倉庫前を見張る看守のみ。


「へえ、こいつは面白いな……」


 そう言って看守が取り出したのは、一つの魔法珠。


「こいつを使えば、個人用の結界になるのか」


 看守はこれ見よがしに、手にした魔法珠の説明を始めた。

 どうやら囚人から奪った没収品を、勝手に使っているようだ。


「また完全な時間稼ぎ要員ね! このままいきましょう!」


 勢いのまま突き進む三人。


「なんだお前らはっ! そ、そうだ、結界を!」


 するとちょうどいいタイミングで、看守がこちらに顔を向けた。


「【連続魔法】【フリーズボルト】!」

「うおおおおおっ!!」


 氷結魔法を喰らい、倒れる看守。

 その直後、遅れて結界が張られた。


「……どういうことかしら? 結界の発生と打倒が重なって、バグでも起きたのかしら」


 倒れた看守をじっと見るレンとメイ。

 結界は消えず、倒れた看守を守るように展開したままだ。


「そういう……ことですか」


 一方ツバメは、白目をむいていた。

 倒れた看守の腰には、『3』と刻まれたカギが提げられている。

 そして、結界によって直接カギに触れることはできない。

 制限時間あり、しかも装備品を取り戻せるかという重要な局面。

 ツバメは早くも、緊張に身体を震わせていた。


「こここここで必要になるのですね――――ススス【スティール】が……っ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る