第635話 回収と時間制限
メイたちが収監されていた東棟。
緊張の夜食入手クエストを達成したレンは、【睡眠薬】を使用して連絡通路の看守に差し入れ。
眠ったのを確認して、西棟へ足を進める。
「西棟には何があるのでしょうか」
「牢獄だ。ただこっちには、かなりヤバいやつらが収監されてるって話だがな」
その警備は固く、多くの看守たちが見回りを行っている。
迷路のような道を【地図の知識】の案内通りに進むと、石積みの道は二本に分かれていた。
「向かうのは右の道だ。左には囚人たちが持っていたものを保管してる、第一倉庫がある」
「っ! それなら一度、左に向かって装備とかを回収させてもらえない?」
「それがいいですね」
「お願いしますっ」
レンたちがそう告げると、コゼットは足を止めた。
「このあと俺たちは、右の道の先にある通気口を通ることになる。だがそれは看守詰所の中にあってな、もう少ししたら交代の看守たちが来ちまうんだ。そんな余裕はねえよ」
どうやらこの先、左ルートに向かうのなら制限時間を設けられてしまうようだ。
「それにこれはお前さんたちの問題だろ? 俺には関係ねえ話だ」
「時間内に何とかすればいいんでしょう?」
「新たなクエスト、いえミッションでしょうか」
ここから先に進むに当たり、アイテムや装備品を取り戻すか否かには『制限時間』が付く。
もちろん失敗すれば、脱獄クエスト自体が失敗になるだろう。
「時間が来たら俺はお前らを置いて行く。それだけは頭に入れておけ」
「言ってくれるわね、まあいいわ。ここで装備やアイテムを回収できれば間違いなく脱獄の成功率が大きく上がるはずだもの」
そうと決まれば、行動は早い方がいい。
視界に現れた時間は15分。
さっそくメイたちは走り出す。
「この先、多分三人!」
「分かりました【隠密】【忍び足】」
メイが看守の気配を察知し、ツバメが姿を消して先行。
「【紫電】」
背後に回ってからの雷光で動きを止める。
「【連続魔法】【フリーズボルト】!」
「【キャットパンチ】!」
派手な爆発音などが鳴らない攻撃魔法でレンが敵を打ち、残った敵はメイは片付けに向かう。
鼻が利く番犬も、【隠密】に反応を見せても攻撃には至らない。
完璧な布陣で一気に距離を稼いでいく。
「さすがツバメね。メイの『感覚』と合わせれば、余裕で進めるわ」
進んだ先に現れた看守は四人。
やっかいなことに手前に一人、後方に三人という縦の布陣だ。
だがここでも、メイたちは止まらない。
「【隠密】【紫電】」
「ッ!?」
「【バンビステップ】!」
手前の看守を硬直させたところで、飛び込んでくるのはメイ。
「【ゴリラアーム】!」
看守をつかみ、そのまま大きく一回転。
「せーのっ! それええええーっ!」
「「「うおおおおおおーっ!?」」」
ボーリングの要領で、看守たちをまとめて転倒させる。
「【誘導弾】【フリーズストライク】!」
続く【誘導弾】によって放たれた氷砲弾は、メイの頭を超えたあとググっと軌道を下げて炸裂。
炸裂して四人組を見事に打倒した。しかし。
「何あれ……ドール型の看守!?」
最後に出て来たのはなんと、金属質のドール看守。
「【連続魔法】【フリーズボルト】!」
レンはすぐさま先手を取る。
「ッ!!」
しかし魔力光のシールドが、レンの魔法を相殺。
「【キャットパンチ】!」
即座にメイが攻撃を仕掛けにいくも、高い物理耐性によって身を護る。
「こっちに武器がない状況で魔法も防御するって、この状況下では完璧な時間稼ぎ要員ね!」
「おいおい、時間を喰うようなら引き返す判断も必要だぞ?」
これ見よがしなため息を吐くコゼット。
「【グラウンド・クラック】!」
ここで駆け出したのは、意外にもネルだった。
錬金術によって足場の一部を砂に戻すことで、ドール看守が体勢を崩した。
「助かるわ! 【低空高速飛行】【魔力剣】!」
おとずれた突然の好機。
この隙を逃さず、レンは一気に看守ドールに接近。
「はあっ!」
無防備なところに叩き込む一撃で、見事に時間稼ぎ看守を打倒した。
ようやく戦いが終わり、安堵の息をつくメイたちだが――。
「「「ッ!」」」
倒れたドール看守が光り、足元に生まれる『ベルを模した』魔法陣。
見た瞬間『看守たちに非常事態』を伝えるものだと分かる仕掛けだ。
陣を駆ける光は、当然攻撃では止まらない。
思わず息を飲むメイたちだが――。
「【罠解除】!」
ツバメのスキルが、緊急警報装置を強制停止させた。
「ないすーっ!」
「いい判断ね!」
倒れたドール型看守は、カギをドロップ。
メイたちはそのまま進み、カギで両開きの扉を開く。
第一倉庫に侵入すると、自然に魔法石灯が輝き、広い内部を照らし出す。
倉庫内の棚には分かりやすく、【ターザンロープ】を始めとしたアイテムなどが置かれていた。
「……あれ?」
すぐにメイが異変に気づき、辺りをキョロキョロする。
「アイテムと装飾品しかないよ?」
ここ第一倉庫に置かれているのは、様々な刑務作業用具と、メイたちの所持していたアイテムや装飾品のみ。
「どういうことでしょうか」
「……待って」
戸惑うツバメに、不意にレンがつぶやいた。
「制限時間に余裕があると思ったら、そういうことだったのね」
「何か気づいたことがあるのですか?」
「さっき夜食を取りに行ったとき、『第一倉庫の荷物を第三倉庫に移した』っていう話があったの」
緊張の中でも、周りの状況に意識を向けていたレン。
ここでその時に聞いた情報を思い出す。
「アイテムと装飾品だけ回収して引き返すか、装備品まで取り戻してから戻るか。ここが一つのポイントになってるんだわ」
「そうだったのですか、よく思い出しましたね」
「レンちゃんお手柄だねっ」
たどり着くのがそれなりに簡単な第一倉庫には、アイテムと装飾品だけ。
装備まで取り戻すなら第三倉庫まで。
この事実を今思い出したことは大きな貢献だ。しかし。
「おいおい、第三倉庫まで行くつもりか?」
コゼットは非難の声を上げた。
「ここの看守は時間に正確だから早く来ちまうことはねえ。だがな、看守どもが詰め所にたどり着いちまったらもう脱獄自体ができなくなるんだぞ」
「そこをなんとか、お願いできないでしょうか」
するとメイたちを信じているのか、ネルが頭を下げた。
「……10分だ」
コゼットはそう言って、両手をこれ見よがしに開いてみせる。
「10分で取り戻せなければ、俺はお前たちを置いて先に行く。脱獄失敗の罰はお前たちだけで受けてくれ」
そう冷たく言い放つコゼット。
「……いきましょう」
ツバメの一言に、三人うなずき合う。
「アイテムと装飾品が戻ってきただけで、もうできることが大きく変わってくるわ。10分……余らせてやるくらいでいきましょう」
「りょうかいですっ!」
「がんばります」
制限時間は、すでに減り始めている。
目指すは第三倉庫、そして装備品の回収だ。
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