第633話 制服を奪取します!

「隠れながら進むタイプのクエストは、やっぱり緊張感があるわね」


 看守と番犬。

 いきなりのピンチを乗り越えたメイたちは、石造りの廊下を進む。


「さーて、ここからがポイントだぞ」


 するとコゼットが、そう言って足を止めた。


「【睡眠薬】は監視塔に持ち込まれる弁当に入れて、看守を眠らせるためのもんだ。そして弁当を届けるのには【看守服】が必要になる」

「倒して奪うということでしょうか」

「そういうことだ。この先の階段を上がると、中庭を見張るための長いベランダに三人の看守が等間隔で並んでる。そしてここには巡回が来ねえ」

「看守が倒れていても、問題になるまで時間がかかるってわけね」

「へっへっへ、そういうわけだ」

「ツバメちゃんの出番だね!」

「はい。接近して【紫電】を使うので、お願いします」

「りょうかいですっ!」

「ええ、任せて」


 階段を上がった先には、中庭側に突き出したベランダ。

 その手前から奥にかけて、中庭を見張る三人の看守たちが並んでいる。

 看守たちは視線を左右にも巡らせているため、猶予はあまりない。

 一定の間隔で向けられる視線を抜けて、一気に敵を黙らせる。

 それは本来、なかなか難しい課題だ。


「【隠密】【忍び足】」


 だが【隠密】には関係ない。

 何度看守がこちらを向こうが、完全に姿を消したツバメは問題なく接近。

 最奥の看守の背後を取ったところで――。


「【紫電】」

「うがっ!?」


 ツバメが姿を現し、駆ける雷光が看守を硬直させる。


「【バンビステップ】! 【キャットパンチ】パンチパンチパンチ!」


 すぐさまメイが駆けだし、攻撃に入る。

 一番手前の看守を、怒涛の連打で打倒。


「【連続魔法】【フリーズストライク】!」


 あとはレンが魔法で真ん中の看守を倒し、感電が解けたばかりの看守を皆で叩けば終わりだ。しかし。

 二人目の看守はギリギリで異変に気付き、その手に魔法の光を灯した。


「【リフレクト】!」

「魔法……対策っ!?」


 氷の砲弾が弾け飛び、看守は手にしたベルを即座に掲げる。


「【ストーンクラック】!」


 そこに駆け込んできたのは、意外にもネル。

 次の瞬間わずかに足元が割れ、看守が足を取られた。


「助かったわ! 【低空高速飛行】【フリーズストライク】!」


 魔法反射を使えないよう、今度はゼロ距離で魔法を叩き込み黙らせる。

 ここで、残った最奥看守の感電が切れた。

 すぐさま掲げられるベル。


「はっ!」


 ツバメはシンプルな通常攻撃パンチで、ベルの使用をわずかに遅らせる。


「【裸足の女神】!」


 そこに高速で駆け込んできたのはメイ。


「【カンガルーキック】だーっ!」


 繰り出す前蹴りで看守を蹴り飛ばす。

 こうして見事、三人組の看守を倒すことに成功。


「ネルちゃん、ナイス援護!」

「あ、ありがとうございますっ」

「すぐに切り替えて追撃したレンさんも、お見事でした」

「へっへっへ、危なかったな」


 コゼットはニヤリと笑って、潜んでいた階段から顔を出した。


「貴方も攻撃に加わってくれれば楽なんだけどね」

「そりゃーできねえ相談だな。そんじゃあさっそく着替えてくれ【衣装交換】」


 そう言ってパンと手を鳴らすと、看守たちが半裸になった。

 そしてメイたち三人は、グレーの学帽に詰襟ジャケットという看守姿に変わる。


「おおーっ! レンちゃんカッコイイ!」


 似合い過ぎているレンに、メイが歓声を上げる。


「一年前なら、間違いなく大喜びしていたわね……」

「私は子供看守のようになってます」


 対してツバメは、結構ブカブカだ。


「子供看守は斬新ねぇ……」

「これで看守のフリができるはずだ。とっとと進もうぜ」


 看守服になったメイたちは階段を降り、中庭に面した廊下を進む。

 すると目の前から、四人組の看守たちがやってきた。

 しかしこれまでとは少し、様子が違う。

 看守たちは襲い掛かってくるのではなく、怪訝な顔をしながら注意深くこちらを観察している状態だ。

 立ち止まるわけにもいかず、両者の距離は近づいていく。


「す、すごい見られてるよ」

「囚人が一緒だから怪しんでんだ。お前たちは看守服を着てんだから、俺たちを連行してる感じで進めばいい」

「なるほどね」


 看守服のメイたちは、ネルとコゼットを連れるような形で進む。

 正面から来る看守たちの手には、しっかりとベルが握られている。

【紫電】を使っても、一人は外れてしまう距離感。

 そしてこちらには武器もない。

 四人を一気に倒そうというのは、さすがに賭けになりすぎてしまう。

 あえて手を出さないという選択に、走り出す緊張。


「そいつらはなんだ?」

「……副看守長がお呼びなのよ」

「なるほど、あの人は相変わらず自由だな」


 レンの上手な返し。

 そのまま問題なくすれ違うことに成功し、安堵の息をつく。

 なんとなく頭を下げてしまったメイとツバメも、思わず肩の力が抜ける。


「ん?」


 その後ろに遅れてやってきた、一頭の番犬。

 メイとツバメは少し悩んだ後、なんとなく番犬にもあいさつ。

 これも緊張感と共にすれ違い、問題なく通過。

 再び安堵の息をつくが、番犬は鼻を鳴らし、何かが「おかしい」と気づいた。

 するとすぐさま、その顔を高く持ち上げる。


「ッ!!」


 その動きを見たメイは気づく。


「遠吠えだ……っ!」


 モーション一つで「マズい」と気づき、走り出す。

 メイはそのまま、番犬のもとへ。


「【キャットパンチ】!」


 速い一撃で遠吠えを強制停止、そのまま前腕をつかむ。

 これを見たツバメは、中庭へと続く扉を開く。


「【ゴリラアーム】! それええええええ――――っ!」


 そしてそのまま三回転。

 中庭の果てに向けて放つ全力の放り投げ。

 飛んでいく番犬は、そのまま屋根の向こうに消えていった。


「さすがね……上を向いて息を吸う。これが【遠吠え】のモーションだって気づいて即座に動き出せるのは、メイくらいじゃない?」

「びっくりしちゃったよー」

「そして『扉を開けてメイに放り投げてもらおう』って考えて即座に動き出せるのも、ツバメくらいでしょうね」

「あの番犬、着地した後どういう行動をするのでしょうか」


 看守服を着ていても、気を抜かせてくれない緊張の展開。

 そんな中で『番犬放り投げ』という予想もできない連携を見せた二人に、レンは思わず笑みを浮かべたのだった。

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