第216話 解呪のために追いかけます!

「死霊術師をもってしても、止められぬとは……っ」


 アサシンは、追って来たメイたちを見て驚きの声を上げた。


「ただの盗掘者かと思っていたが、かなりの腕利きのようだな」

「当然だ!」


 むん! と胸を張る、タヌキ姿のアルトリッテ。

 メイもマネして隣で腕を組んでみる。


「偽物の姫を使った作戦は失敗したが、古き王さえ復活すれば必ずルナイルを奪うことができる……急がねばならない」


 そこに新たなアサシンが、影のように現れた。


「この宝珠がある以上、ヤツらは獣人化の呪いから逃れることはできない。オレが時間を稼ごう」


 そう言ってメイたちの前に立ちふさがる。


「あれは……獣人化の呪いをかけるのに使った宝珠ね」

「呪いを解きたければ、オレを捕まえてこの宝珠を奪うことだな。まあ、お前らにできればだが」

「先に行ったやつを追ってはダメなのか?」


 挑発するアサシンを前に、良からぬことを言うアルトリッテ。


「メイが全力で追えば、先に行ったアサシンを捉えることもできそうだけど……そこで終わらせるつもりはないんじゃないかしら。展開的に」

「私もそう思います」

「……同じく」


 この流れで先に行ったアサシンを捉えても、古き王の復活を阻止できる作りにはなっていないと予想するレン。

 ツバメとマリーカもうなずく。


「この展開で目前のアサシンを放置して進んだら、NPCとはいえ「えっ?」て言いそうね。まあここはおとなしく、誘いに乗ってあげましょう」

「……賛成」


 アサシンは、スッとその姿を消した。

 次の瞬間、数メートル先にその姿を現し消える。

 そしてすぐに、また数メートル進んだ先に現れる。


「鬼ごっこ型のクエストだな! 【ペガサス】!」


 クエストの内容を理解したアルトリッテは、【天馬靴】を発動して一気に距離を詰める。


「今だ! 【ハードコンタクト】!」


 しかしアサシンは姿を消す。


「もう一回【ハードコンタクト】!」


 さらにもう一回続けると、アサシンも続けざまに幻影のような動きでかわしてみせた。


「……タヌキのラグビー部」

「ちがーう!」

「【霊鳥乱舞】」


 マリーカも追うように光の鳥を乱射する。

 しかしアサシンはこれも、消えるステップでぬるりとかわす。


「【連続魔法】【ファイアボルト】」


 さらに追う形で放った炎の弾丸すら、アサシンは滑るような動きで回避してみせた。


「この程度なら、回避はたやすい」

「なにー! 言わせておけば! 【ペガサス】!」

「【加速】【リブースト】【電光石火】」


 アルトリッテの飛び掛かりが避けられたところに、飛び込んでいくツバメ。


「ッ!!」


 三連高速移動は、見事にアサシンを捉えるが――。


「ただのパンチでは何時間かかるか分かりません」

「やっかいなヤツめ!」

「……これは大変」


 武器のない状況下では、アサシンを追い詰めるには至らない。

 消えるステップを多用し、とにかく回避に専念してくるアサシンはとにかく面倒だ。


「これ、全員で追っても厳しいかもしれないわね……メイ」

「なあに?」

「【裸足の女神】なら、多分面白い勝負になるわ」

「うっ」


 メイも頭に浮かびはしたやり方に、思わずうめく。


「でも、この格好で使ったらいよいよ野生そのものになっちゃうよぉ」

「それなんだけど……私たちって今獣人姿でしょう?」

「うん」

「もう見た目ほとんど犬なんだし、しれっと【裸足の女神】を使えば……誰も違和感を覚えないと思うのよ」


 レンの言葉にハッとする。


「呪いさえ解いてしまえば、あとはこっちものよ」

「た、確かに! さすがレンちゃん!」


 メイは大きくうなずくと、皆の視線がアサシンに向いていることを確認。


「【装備変更】【裸足の女神】」


 頭装備を【鹿角】に換えてから、こそっとスキルを発動する。


「それじゃ、いってくるね!」

「ええ、頼りにしてるわ」

「おまかせくださいっ! 【バンビステップ】!」


 そう言って笑うと、ドン! と風を巻き起こして駆け出した。

 一瞬でアサシンの懐に迫るメイ。

 その姿が消えたところで、意識を集中する。

『星屑』のリアルさゆえに、アサシンが腰に提げた短剣から音が鳴る。

【聴覚向上】は、わずかな音も逃さない。

 メイは次の瞬間、しなやかにして強靭な身体の切り返しで跳躍。


「【キャットパンチ】!」

「ぐっ!?」


 サイドステップから放った回転撃が、アサシンの頬を捉えた。


「な、なんだ今の切り返しの速さは!?」

「……ツバメとはまた違う速さ」


 それこそ地上を駆ける動物のような身軽さに、アルトリッテたちが驚きの声を上げる。

 本来は範囲攻撃の連発でHPを削り、アサシンがケガを負えば移動速度が下がるというミッション。

 だがメイは、未だ最速状態のアサシンを猛スピードで追いかける。

 早く細かなステップでルート取りをして、音で出現位置を即座に判断。


「【キャットパンチ】!」


 真後ろに来たところに、見事なクリティカルヒット。

 瞬間移動にも似た敵の動きに、ピッタリと喰いついていく。

 そしてついに、アサシンが距離を取ろうとしたところで――。


「ツバメちゃん!」

「【加速】【リブースト】【紫電】!」


 アサシンは、わずかなクールタイムの瞬間を突かれる。


「アルトちゃん!」

「任せろ! 【ハードコンタクト】!」

「くっ!」


 超高速で踏み込んできたウサギの放つ雷光から、タヌキのタックルでアサシンは弾き飛ばされた。

 早い挙動で体を起こしたものの、そこにはすでに白犬の姿。


「【キャットパンチ】! パンチパンチパンチ! そして最後は――――【ラビットジャンプ】だーっ!」


 メイはそのまま後方へ跳躍。

 するとそこに飛び込んできたのは光鳥の乱舞と、激しい爆炎。

 全てを喰らったアサシンは、吹き飛ばされて倒れ伏した。

 残されたのは『黒い鍵』と、『黒の宝珠』

 メイが宝珠をひろい上げると、付近に光が広がっていく。そして。

 呪いによって獣人と化していたメイたちの姿が、元に戻った。


「も……もとに戻ったああああーっ!」

「ようやくまともな攻撃ができますね」

「これでラグビー部も引退だな!」


 武器を手にして喜び合うツバメとアルトリッテ。


「戻った戻ったーっ! 人間に戻れたよー!」


 犬の獣人から姿を戻して、大喜びで跳ね飛ぶメイ。


「「「「…………」」」」


 しかし猫耳に尻尾でバク転するその姿に、四人は「言うほど戻ってない気も……」と静かに笑みを浮かべる。


「メイ」


 そしてレンは、そんなメイにそっと耳打ちする。


「ありがとう。あと、靴を履いておいた方がいいわ」

「あっ!! てへへ」


 メイは恥ずかしそうに、そっと靴を履き直したのだった。

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