第209話 ピラミッドの呪い

「ランプの精が【ソードバッシュ】で消し飛んだ瞬間は、驚いたわねぇ」

「びっくりしたよー。無事でよかった!」

「出てきた瞬間直撃でしたね」


 魔法のランプを台座に収め、対人戦を楽しんだ三人は先へと進む。

 ピラミッドの様相は変わらず、妙に豪華な部屋を石造りの道がつないでいる。

 そんな中、メイたちは神殿じみた広めの部屋に出た。


「む! 君たちは!」


 そこにやって来たのは、トッププレイヤーの一角。

 長い金髪を揺らす小柄な聖騎士アルトリッテと、ふわふわ白髪の大柄な魔導士マリーカだ。


「こんにちはーっ!」


 出入り口以来の再会に、さっそくメイは手をブンブン振ってみせる。


「ずいぶんと進んだところでの再会、さすがは名をはせた野生児だな!」

「野生児ではございませんっ! メガネとかコーヒーが似合う……ようになりたい普通の女の子ですっ!」


 尻尾を立てながらツッコミを入れるメイ。

 しかしその耳は、すぐさま異変を捉える。


「ミイラだ!」


 石柱の陰から飛び込んで来た、ミイラのパーティ。

 剣と鎧を装備をした四体の戦士型ミイラが、駆け込んでくる。


「仕方ない、相手をしてやろうではないか」


 そう言って大型の剣を手に、アルトリッテは一歩前に出る。


「【ホーリーロール】!」


 金の装飾がまばゆい大きな剣で、一回転。

 アルトリッテを中心に放たれた金色の斬撃の軌跡が、ミイラ四体を一撃で斬り伏せた。


「むはははは! この程度のモンスター、我が剣の前には敵にもならぬな!」


 ミイラパーティを一撃で打ち倒したアルトリッテは、仁王立ちで高笑いして見せる。だが。


「ぬはー!」


 その後ろから一気に距離を詰めてきた暗殺者ミイラに、思わず飛び上がる。


「【霊鳥】」


 マリーカがスキルを発動すると、魔力で形作られた一羽の鳥が出現。

 アルトリッテに襲い掛かってきたミイラに突撃して、爆散させた。


「……ミイラの後ろに隠れる形でミイラがいた」


 暗殺者ミイラは、前衛の背後に隠れて進んできていたようだ。

【ホーリーロール】によるダメージも、ミイラを盾にすることで免れていた。


「さ、さすがマリーカだな」

「……アルトの『ぬはー!』はいつものこと」

「いつもではない!」


 しっかりとマリーカに突っ込んでから、空気を変えるように「ごほん」と息をつく。


「まだまだこの程度なら余裕だ。このままこの王墓を駆け抜けてみせるぞ」


 剣を掲げ、トッププレイヤーらしい余裕を見せるアルトリッテ。


「おおーっ」


 その勇ましさに「かっこいい!」と拍手するメイ。

 アルトリッテも「むははは!」と、気持ち良さそうだ。

 だがそんな中、神殿の台上に一人の黒ずくめ男が現れる。


「アサシンね」


 その姿を見て、王宮などから出ずっぱりのアサシン教団の者だと気づくレン。


「我らの邪魔は、何人にもさせぬぞ」


 そう宣言したアサシンに、メイたちは向き合う。


「さあ、どんなモンスターを出してくるのか」

「……本人が戦う可能性もある」


 レンとマリーカが、戦いへの流れを示唆しておく。

 自然と武器を構える五人。


「我が聖なる剣技を前に、どこまで戦えるか見せてもらおうではないか! この聖騎士アルトリッテが相手だ!」


 アルトリッテはそう言って一歩、前に出た。


「その力を示せ! 暗神よ!」


 するとアサシンは、取り出した宝珠を掲げた。

 神殿の各所に埋め込まれた宝珠たちが次々に反応し、嫌な輝きを灯していく。

 そして神殿のような広間を、昏い光が埋め尽くした。


「このような場所だ……呪いの一つもあって当然だろう?」


 アサシンは冷静にそう言い放った。


「貴様たち盗掘者たちにはそれがお似合いだ。これで時間も稼げるだろう。我々の悲願を成就するため、邪魔者は排除する」


 そう言い残して、去っていくアサシン。

 やがて、神殿内に広がった黒い靄がゆっくりと晴れていく。


「……え」


 さすがにメイも、これには驚きで硬直する。

 五人の目に映ったのは、まさかの光景。

 メイは犬、レンは黒猫、ツバメはウサギ。

 アルトリッテはタヌキ、そしてマリーカは狐。

 五人全員が見事に、獣人化していた。


「ええええええええ――――ッ!!」


 まさかの事態に、悲鳴をあげるメイ。

 基本は二足歩行の人間型。

 よって防具は、そのまま普通に装備している。

 だが、その毛並みは完全な動物だ。


「つ、ついに……野生に身体を乗っ取られちゃったああああー!」

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