第178話 笑う大魔導

「レンちゃんツバメちゃんは、どこに飛ばされちゃったんだろう……」


 皆が各階層に散らばっていることを知らないメイは、辺りをきょろきょろ、耳をぴこぴこさせながら進む。

 これまでと少し違うのは、大きな洞穴内にはしっかりと装飾らしき紋様が刻まれていること。

 神殿を思わせるような造りのこの階層は、どこか不気味な雰囲気がある。


「すごーい……何に使う場所なんだろう」


 そんな階層を、メイは興味深そうにしながら進む。

 等間隔に置かれた松明に照らされる、道の途中。


「おっとと」


 メイの【聴覚向上】が、足音を捉える。

 灯篭の背後に隠れると、リザードマンたちが荷物を抱えてやってきた。

 その手には結晶と宝石、木の実や肉などを抱えている個体もいる。

 神殿じみた造りの道を並んで進む一行に、メイは首と尻尾を傾げる。


「なにをしてるのかな……」


 少し距離を取りながら、リザードマンたちの後を追うメイ。

 すると少し進んだところで、足元に埋められていた結晶が輝いた。


「わわっ!」


 それはそのブロックを踏むと電気が走る、極々シンプルな仕掛け。

 ダメージはごく僅少。

 しかしその急な輝きが見逃されるはずはない。

 すぐに振り返ったリザードマンたちは、戦闘モードに切り変わる。

 見れば道の奥からも、多数の増援が駆けつけて来た。


「よっと」


 先頭を駆けて来た重装リザードマンの槍振り回しを、【アクロバット】でかわす。

 放たれた矢も、半身になることで余裕の回避。


「グオオオオ――――ッ!!」


 そこに飛び掛かって来たのは、もう一体の重装型。

【重烈撃】は、高い跳躍から放つ大斧の一撃。

 輝くスキルエフェクトに、しかしメイはその場を動かない。


「【装備変更】! とっつげきー!」


 タイミングをきれいに合わせた【鹿角】の一撃で、敵スキルを弾き返す。

 転がる重装型に向けて、追撃に駆け出すメイ。

 そこに後方支援のリザードマンのたちが、そろって矢を放つ。


「うわっと! 【バンビステップ】!」


 次々に放たれる矢は、大きく早いステップでかわしていく。

 そして見事その全てを回避。

 メイが剣を振り上げたところで、足元の結晶が輝いた。


「うわっ」


 白い糸のようなエフェクトは、拘束結晶。

 プレイヤーをその場に縛り付け、一定時間動きを取れなくするものだ。

 メイはこの仕掛けにかかってしまうが、このタイプの罠は大抵――。


「【ラビットジャンプ】! 【アクロバット】!」


【腕力】と【耐久】が拘束時間を決めるため、ほとんどメイの足を止めることはできない。

 単純に力づくで破り、大きな後方回転を決める。

 ここが好機とばかりに駆け付けて来た戦士型たちと、その後方で矢をつがえている弓術型。

 状況は一転。

 リザードマンの一団を前に、メイは高く剣を掲げた。


「大きくなーれ!」


 発動した【密林の巫女】によって、【蒼樹の白剣】が一気に伸長。


「いっくよー! 【フルスイング】だぁぁぁぁっ!!」


 猛烈な風切り音と共に放たれる【フルスイング】薙ぎ払いが、まとめてリザードマンたちを消し飛ばす。

 一撃で多数が粒子に変わり、形勢逆転。

 一気呵成に出ようと、メイが動き出したところで――。


「うわーっと!?」


 目の前を魔法の弾丸が通り過ぎて行った。

 現れたのは、メイを転移させた『大魔導型』のリザードマン。

 その手に持った杖を掲げると、閃光の砲弾が放たれる。


「【ラビットジャンプ】!」


 メイはこれを真上への跳躍でかわす。

 すると閃光弾は一度大きく明滅し、閃熱を放った。

 巻き込まれたリザードマンたちは避け切れずに直撃。

 味方であるはずの大魔導の攻撃魔法によって、粒子となって消える。

 着地と同時に駆け出すメイ。

 大魔導は容赦なし。

 メイを足止めしようと立ちはだかるリザードマンたちも、放つ魔法で次々に消し飛ばしていく。


「ひ、ひどーいっ!」


 仲間をオトリとして使い捨てる大魔導リザードのやり方に、メイは頬をふくらませる。

 そして足を止めると、飛んできた光弾を首の動き一つでかわしてみせた。


「もう許しませんっ! 【バンビステップ】!」


 メイは高速で大魔導に向かって走り出す。

 レンやツバメとの分断。

 さらに仲間を使い捨てていく大魔導へ向けて、一気に距離を詰めていく。


「【フルスイング】!」


 振り下ろす強烈な一撃。

 しかし手ごたえはなし。

 突然姿を消した大魔導は、数メートル後方にゆらりと現れる。

 そのままメイに背を向け両手を上げると、四方に置かれていた転移結晶が強く輝いた。


「ッ!?」


 放たれる緑の光。


「ここは……?」


 気が付くとメイは、暗く広い岩場にいた。

 炎の灯った灯篭が並ぶ、趣味の悪い広場のような場所。


「この感じ……大きな戦闘っぽい」


 さすがにメイも、戦いへの流れを感じ取る。

 次の瞬間、ゆっくりと虚空からにじみ出て来た大魔導はふわりと静かに着地した。

 漆黒のローブをまとった鈍い金色のリザードマンは、豪奢な杖を掲げていやらしい笑みを浮かべた。

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