第173話 大魔導
合宿3日目の始まり。
三人はグランダリア史上新記録となる、23階へと足を踏み入れる。
「もう合宿も最終日かぁ……このまま最後まで一緒に行きたいねぇ」
だがそんなことを知らないメイは、笑顔でそう言った。
「もちろんよ」
「卵もぜひ、持ち帰ってあげたいですね」
隠し通路で手に入れた卵は、どうやらリザードマンが外から盗んできたものらしい。
「卵はリスポーンになったら回収されちゃうみたいだし、生還することが大事になってくるわね」
それはグランダリアの醍醐味の一つ。
レアアイテムを『持って帰れるか』が、試される形だ。
「三人一緒にがんばりましょうっ!」
メイはそう言って二人の腕を取り、尻尾をピンと立てた。
23階からはまた、風景に変化が現れる。
広い洞穴のいたる所からトゲトゲとした結晶が突き出していて、何が起きてもおかしくない雰囲気だ。
「あれを起動させると先に進めるってことかしら」
たどり着いた先には、これ見よがしに置かれた三つの結晶体。
三人はここでバラけて、結晶の起動に動く。
「……レンちゃん! ツバメちゃん!」
最初に気づいたのはメイだった。
広い洞穴の陰から猛烈な速さで駆け込んで来たのは、三体のリザードマンによるパーティ。
散開。槍を持った剣士型のリザードマンは、そのままレンに攻撃を仕掛けてきた。
「っ!」
連続の突きをかわし、杖を構える。
「【連続魔法】【フリーズボルト】!」
しっかりと足元の『ヒビ』を見つけていたレンは、大きな魔法を使わず反撃。
確かな攻撃で、剣士型のHPゲージを削る。
「いけるわね」
始まった個別の戦い。
レンが勝機を確信したその瞬間。
突然、魔法の光が足元に炸裂した。
「何っ!?」
現れたのは、これまでとは違う大柄なリザードマン。
フード付きの長いローブをまとい、豪華な杖を持ったその個体は『大魔導型』の特殊リザード。
大魔導の魔法によって拡大する足元のヒビ。始まる崩落。
崩れゆく足場に、剣士型リザードマンが飲み込まれた。
「ウソでしょ!? 味方ごと巻き込む気っ!?」
レンは【浮遊】で危機を回避する。しかし。
そこには緑色に光る結晶。
「そういう……こと」
巻き起こる強烈な光と共に、レンはその姿を消した。
「レンちゃん……ッ!!」
「レンさんっ!!」
まさかの状況に、思わず叫ぶメイ。
大魔導リザードの攻勢は止まらない。
その豪華な杖を再び掲げ、光球を天井に向けて放つ。
巻き起こる爆発によって落下してきた岩に、今度は従魔士型のリザードマンが飲み込まれて消えた。
「【加速】!」
ツバメは早い移動で岩の直撃を避けるが――――そこには緑色の結晶。
「ッ!?」
気づいた瞬間の発光。
ツバメも続けて姿を消す。
「ツバメちゃーん!!」
ついに一人になってしまったメイ。
飛び込んでくる武闘家型リザードの【気功拳】をかわし、続く【錬気砲】を【アクロバット】でかわす。
そこから早い踏み込みで距離を詰め、剣を振り上げる。
「【フルスイング】! からの【バンビステップ】!」
一撃で武闘家型リザードを沈め、そのまま大急ぎで大魔導のところへ。
放たれる魔法攻撃を全てかわし、輝き出した結晶を飛び越える。
そのまま一気に大魔導士のもとに駆け込み、剣を振り上げたところで――。
足元が照らし出された。
予想外。頭上に突き出た結晶から放たれた光が、メイを捉える。
「ッ!!」
メイの視界が、白く飛んでいく。
見事三人を罠にかけた大魔導リザードは顔を上げ、ニヤリと笑ってみせた。
「金色の……トカゲ」
最後に見えたのは、かつてジャングルで戦い続けた大トカゲのような、鈍い金色のリザードマンだった。
◆
敵のコンビネーションと罠の発動。
難攻不落のグランダリア大洞窟は、ここでパーティの離散を強いてきた。
たどり着いたのは、見知らぬ階層。
風景こそ変わっていないため、23階以降のどこかであることは間違いない。
「……レンちゃん……ツバメちゃん」
合宿最終日。
最後まで三人一緒にと楽しみにしていたメイは、ため息を吐く。
「でも……緑色の結晶はどこかへのテレポートみたいだし、きっと二人もどこかに飛ばされちゃったってことだよね」
それは即死罠ではないということ。
生存の可能性にたどり着き、胸をなでおろす。
「それならどこかで再会できるはずっ!」
レンとツバメなら大丈夫! と、メイはすぐに気を取り直した。
「皆でダンジョンを楽しみ尽くすためには、お土産話を持って再会するくらいがいいよね。よーし! 思い切って先に進んじゃおうっ!」
意気込むメイは、尻尾をブンブンさせながら歩き出した。
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