第168話 テイムモンスターのもとへ

「私、メリーって言います。よろしくおねがいしますっ」


 そう言ってペコっと頭を下げたのは、金色の長い髪を後頭部の左右で撒いたテイマー少女。


「モンスターテイムには、多少手間がかかるのよね?」

「はい。戦って追い詰めるのが基本的な形ですが、他にもミッションの達成を条件にしているものもあります」

「メイ、どう?」

「……確かにいるね」


 メリーと共に進んだ先には、一本の大きな樹。

 高さこそないが、大きく枝を広げたその樹木の中腹に一羽の鳥がくつろいでいる。

 そして樹の周りには、リザードマンたちの姿。


「あの子への接触を、妨げるためのような布陣です」

「防衛戦も見越しておいた方が良さそうね」


 今回のテイムは、モンスター自体と戦って弱らせる形式ではないと予想するレン。

 その場合は指定のミッションをこなすことが必要となる。


「わたしがオトリになるよ!」


 拳をぎゅっと握って、力強く宣言するメイ。


「トカゲに困ってるのなら、放ってはおけませんっ!」

「そういうことなら、その隙に私たちがモンスターのテイムに向かう形ね」

「そうなりますね」

「それでは、行ってまいります!」


 気合の敬礼をして、走り出すメイ。

 レンたちは木々の陰に潜みつつ、テイムモンスターのもとに急ぐ。


「待って」


 不意に足を止める。


「土に描かれた魔法陣……踏んだら魔法がさく裂して、トカゲたちが気づくってわけね」


 無数に描かれたトラップを踏まないように、そっと足を進めていく三人。


「――――【バンビステップ】からの【キャットパンチ】!」


 狐耳に装備を替えたメイは、【狐火】乗せの【キャットパンチ】で見事にリザードマンを翻弄する。

 陣形を組んでの攻撃はやっかいだが、メイはその隙間を余裕でかい潜る。

 見事な時間稼ぎだ。


「【ラビットジャンプ】」


 そして、リザードマジシャンの魔法をかわしたところで――。

 メイの豪快な戦闘にわずかに目を取られたメリーが、足元に隠された縄を踏んづけた。


「ッ!」

「あぶないですっ!」


 飛来する無数の矢から、メリーを守り転がるツバメ。

 そのまま逃げるようにして、茂みに身を隠す。


「……あ、ありがとうございました」

「無事でよかったです」


 息をひそめる三人。

 どうやらメイの派手な戦いのおかげで、気づかれてはいないらしい。

 そのまま木々の陰をつたい、大木のもとへと進む。


「こ、この子でいいの……?」

「はいっ!」


 メリーは両手で頬を抑えながら、その表情を溶けさせる。

 テイムモンスターは、可愛いというにはやや癖が強い絶妙な外見をしていた。

 丸い身体に小さめの翼、愛嬌のある顔つきと言えばそうだが……なんだかふてぶてしい。


「……クセがあるからこそ、たまらなくかわいい。分かります」


 テイマー少女と、固く握手をするツバメ。


「テイム要件は、この子を連れて逃げる事みたいです」


 現れたHPゲージを見て、メリーが確認する。


「無事に逃げ延びられたら、テイムに応じるってことね」


 レンたちはさっそくメリーにふてぶて鳥を抱えさせて、撤収を開始する。

 メイにリザードマンたちが集中している間に、その反対側へ逃げようという算段だ。しかし。


「「「ッ!!」」」


 突然、下草の間に置かれた小型のトーテムが弾け飛んだ。

 これにはさすがに敵も気づく。

 リザードマンたちは一転、テイムモンスター目がけて一斉に集まってくる。


「逃げ道にもこういう罠を仕掛けてあるってことは、そう簡単にテイムさせる気はないってことね! 行きましょう!」


 走り出すレンたち。

 すると置かれたトーテムが、次々に爆発し始めた。


「接近するだけで爆発するの!? 気を付けて、おそらく巻き込まれたら転倒を取られるわ!」

「はいっ」

「そこ、地面の色が違いますっ!」

「跳んでっ!」


 三人ジャンプ。

 しかしメリーの足が、わずかに色違いの部分を踏んだ。

 その瞬間、足元が一気に崩れ去る。


「きゃああああーっ!」

「……間に合いました」


 落ちかけたメリーの手をつかんだのはツバメ。


「【連続魔法】【ファイアボルト】!」


 その隙を突いて追って来たリザードマンは、レンが魔法で打倒。

 どうにかメリーを助け上げた。

 しかしそこに、木陰に隠れていたリザードマジシャンが現れる。


「あぶないです!」

「きゃあっ!」


 リザードマジシャンの杖から放たれた風の砲弾が、メリーの足元に炸裂。

 手にしたふてぶて鳥が、その手から跳ね飛んだ。


「マズいわっ!」


 その先には運悪く、突撃してくるリザードファイターの姿。

 大慌てで回収に駆け出すメリーに、レンたちも後に続く。

 おとずれる窮地、その目の前に飛び込んで来たのは――。


「アーアアー!」


【ターザンロープ】をつかんだメイ。

 大きなスイングでリザードファイターの前を通り過ぎ、テイムモンスターを抱え込む。

 そしてそのまま着地を決めると、ふてぶて鳥を両手で掲げてみせた。


「ナイスキャッチです! メイさんすごいっ!」

「メリーちゃんとこの子は、わたしが守ります!」


 思わず歓喜の声をあげるメリーに、メイも尻尾をピンと立てて応える。


「「…………」」


 一方、レンとツバメは口をつぐむ。

 それでなくても獣耳のメイ。

 小脇にモンスター(動物)を抱えて【ターザンロープ】で「アーアアー!」は、もう野生児以外の何物でもない。

 だが言った本人に自覚がない以上、指摘しなければ……なかったことになる。

 レンとツバメ、ここは聞こえなかったフリをすることに決定。


「メイ、付近のリザードマンたちが集まって来たわ! ここは逃げ切っちゃいましょう!」

「りょうかいですっ!」


 鳥を抱えたまま、メイは走り出す。

 四人が合流すると、その後を追って大勢のリザードマンたちが駆けつけて来た。

 罠を避けなくてはいけない分、こっちは不利を背負っている。

 当然、その距離は縮まっていく。


「みんな、おねがいっ!」


 メイがそう言って【密林の巫女】を発動すると、左右の木が身を寄せ合って道を狭め始める。

 その隙間を駆けて来るリザードマンに、振り返ったメイは右手を突き上げた。


「それでは――――よろしくお願いいたしますっ!」


 現れる魔法陣。

 足元から出て来た探検家装備のクマは、そのまま木々の間にムギュッと詰まって道を塞ぐ。


「さすがねメイね。植物とクマのバリケードはいい時間稼ぎになってくれるわ」

「えへへ、ありがとうございますっ!」


 うれしそうに尻尾を振るメイ。

 これでさらに距離を稼いだメイたちは、見事にリザードマンたちを引き離した。


「うまいこと逃げ出せたわね」

「はいっ! ……でも、まだテイムはできていません」

「まあ、これだけ大掛かりなリザードマンとの追いかけっこをさせられるってことは……」


 レンは目線を付近に走らせる。


「当然、そうくるわよね」


 そこには仰々しい姿のリザードマンが一匹、堂々とたたずんでいた。

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