第162話 いざ14階へ!

「早起きしたわねぇ」

「本当だねぇ」


 髪の一部を跳ねさせたままのメイ。

 その頭をなでながら、レンが笑う。

 昨夜無事14階まで到着し、地底湖を拝んだ三人はいつもより遅めの就寝となった。

 しかし翌朝。

 起きた時にはもう全員やる気十分。

 レン母や香菜と楽しく朝食を済ませ、すぐさまグランダリアに戻ってきたのだった。


「慣れないダンジョン攻略ですが、昨日はとても楽しかったです」

「うんっ、今日もどんどんいきましょう!」


 地下14階は、木々に囲まれた地底湖がエメラルドグリーンに輝いている。


「きれいだねぇ」

「癒されます……」


 足取りも軽く、その周囲を進んでいく三人。

 地底湖の一部には木々の生えていない草地があり、そこには露店を開く商人たちの姿。

 プレイヤーもそこそこいるところを見ると、ここは中継地点的な役割をしているようだ。


「ポーション1つ1000……っ!?」


 その価格付けに、ツバメが驚愕する。


「……富士山頂価格ね」


 ここまでの往復の難易度を考えれば、それも当然かしらと笑うレン。


「ここでステータス上げの実を売ったらいくらになるのかしら……」

「た、大変なことになりそうです」


 思わずひらめく、効率的な金策。


「おい、またヌシが出たぞ! 店を畳め!」


 すると居並ぶ商人たちが、突然店じまいを始めた。


「どうしたのかな」


 その慌ただしい動きに、首と尻尾を傾げるメイ。


「なんだ、お前さんたち知らないのか?」


 声をかけてきたのは、商人らしき短髪にヒゲのプレイヤー。


「見てみな、あの恐竜を」

「恐竜?」


 言われるまま地底湖に視線を向けると、そこには水面に身体をのぞかせる首長竜の姿。


「あいつがあの位置からスキルで水砲弾を飛ばしてくるんだよ」


 そう言ってヒゲのプレイヤーは「やれやれ」と、息をつく。


「こっちには弓使いなんて常駐してないから、あいつが出てきたら仕方なく毎回避難してるってわけだ」


 そこに、店じまいしたばかりのプレイヤーたちもやって来る。


「まれに陸に上がって来ることもあるんだけどな。どちらにしろ倒すのは無理だし、おとなしく時間が過ぎるのを待つしかねえんだよ」

「一度目にもの見せてやりたいんだがなぁ」


 普段からこのモンスターの行動に、苛立ちを覚えているのだろう。

 口々に恨みをこぼす。


「……そういうことなら、ちょっと攻撃でも入れてみる?」

「いいかもしれませんね」

「おいおい大丈夫か? あいつは結構強力なモンスターだが……」

「湖マップは崩落しますか?」

「いや、しねえな」

「それならおまかせくださいっ!」


 元気よく胸を叩いてみせるメイ。


「私も準備しておくわ」


 メイが湖の前に立ったのを確認して、レンも動き出す。


「――――それでは、よろしくお願い申し上げますっ!」


 掲げた右手に輝く、召喚の指輪。

 魔法陣が足元に描かれていく。

 そこから飛び出して来たのは、巨大な体躯を持つクジラ。

 湖を自在に進み、水しぶきを上げて空中へ。

 そのままヌシに、全力のタックルをぶちかます。


「「「ウ、ウオオオオーッ!」」」


 その豪快さに、プレイヤーたちが驚きの声をあげる。


「ありがとうございましたっ」


 帰っていくクジラに手を振るメイ。

 タックルをくらった湖の主は、大きくHPを減少させた。

 しかし一発で8割近くゲージを持っていかれたことで、当然モードを替えてくる。


「こうなったらまたやっかいだぞ! よく一発入れてくれた、さあ避難しよう!」


 首長竜は怒りのまま湖を猛進し、メイたちのもとに突っ込んで来る。

 見学プレイヤーたちは早々の避難をうながす。しかし。

 首長竜は陸に上がってきたところでレンの設置した魔法陣を踏み、猛烈な爆炎に巻き込まれた。


「うまくいったわね」


【魔眼開放】からの【設置魔法】【フレアバースト】は、残りのHPを見事に削りきった。


「すげえ! なんだこのコンビネーション!」

「ふはははは! ざまあみやがれー!」

「二度と出て来るな!」

「最高の光景だぜ!」

「ど、どれだけストレスを抱えてたの……」


 その盛り上がり具合に、レンは苦笑い。


「あ、あんたらすげえな……ここへは採掘しに来たんか?」


 まだ少し驚きを残したまま、ヒゲのプレイヤーが問いかける。


「いいえ、ちがいますっ」

「それならなんだ? アイテム目当てか?」

「いえ……みんなと冒険しに来ましたっ!」


 耳をピンと立てて応えるメイ。

 それを聞いたヒゲのプレイヤーは「ほう……」と相好を崩した。


「そりゃあいい。純粋にダンジョンを楽しむならやっぱ冒険だよなぁ」


 うんうんと、うなずくプレイヤーたち。


「そういうことならどうだ。採掘がてら道案内の一つもさせてくれないか」

「ここからは地図もないし、助かるわね」

「はいっ! よろしくお願いいたしますっ!」


 ダンジョンを進むメイたちの足は止まらない。

 採掘者たちも味方にして、2日目もどんどんグランダリアを降りて行く。

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