第104話 僧兵の頼み

「なんだかドキドキしちゃうねぇ、こういうクエストは」


 狐の嫁入り行列を、無事タヌキの魔の手から守り抜いたメイたち。


「まさか……無傷で行列を守ってもらえるなんて……すご過ぎます……」

「私としては、少しくらい焦げたり凍ったりするところも見てみたかったけどね……」


 レンたちが目前でタヌキまみれになっていたにもかかわらず、最後までゆうゆうと行進を続けた狐たちを思い出して息をつく。

 その一方でツバメだけは、消えていく子タヌキに名残惜しそうにしていた。


「これで姉さんの、狐たちの面目が立ちました。ありがとうございます」


 子狐は、目を輝かせながら一冊の本を取り出した。


「こちらはお礼です。ぜひお持ちください」



【連続魔法Ⅳ】:初級魔法を四連続で放つことができる。連続魔法Ⅲを所持している場合は、発数を選択することができる。



「【連続魔法Ⅳ】は助かるわね。特にプレイヤーは『四発目』が頭にないでしょうし」


 まだ見たことのない四連続魔法の秘匿性に、ワクワクするレン。


「九尾さえいなければ、こんな大きな仲違いは生まれなかったんですけどね……」

「その話、聞かせてもらっていい?」


 出てきた大きな話に、即座に喰いついた。


「はい。狐とタヌキの仲の悪さはもともと『九尾』のせいなんです」

「レンさん、これって……」

「有名なやつね。多少の情報はあるけど見つかってないクエストの筆頭よ」

「かつて九尾は、ヤマトを乗っ取ろうとしたことがあるんです。その時タヌキたちを追い出そうとしたことがきっかけで、仲が悪くなってしまいまして……」

「今、その九尾はどうしているの?」

「陰陽師を始めとした法術使いたちの手によって異空間に封じられました。九尾がその結界を破ろうとする際に出る妖気によって、ヤマトの街には時々おかしな事件が起きているようです」

「なるほどねぇ」

「今回は助けていただいて、ありがとうございました。オマケというわけではありませんが、この札もどうぞ」


 そう言って子狐は、一枚のお札を取り出した。


「狐が使っている鳥居間の移動に使うものです。とても強い皆さんのお役に立てば」

「ありがとー」


 メイがお札を受け取ると、子狐は律儀に頭を下げて去って行く。

 名残惜しそうに、その太い尻尾を見つめるツバメ。


「楽しいクエストだったねぇ」


 ちょっと不思議で神秘的。

 でも大忙しで騒がしい。

 そんなクエストを終え、メイはにこにこだ。


「とてもヤマトらしいクエストで、可愛い狐やタヌキが見られて最高でした」

「それにちょっと面白そうな情報まで出てきたわね……九尾なんて大物中の大物じゃない」

「そうなの?」


 誰よりもゴールデンリザードの生態に詳しいメイ。

 だが九尾については、完全な初心者だ。


「狐界の最大手です。もちろん『星屑』の中でも大物として扱われています」

「そうなんだぁ」

「キーアイテムらしきお札ももらったし、ちょっと話を聞きに行ってみましょうか」

「犬神さんとブラック陰陽師ですね」


 動物が出ずっぱりで、うれしそうなツバメ。

 メイたちはさっそく、土蜘蛛退治の時に出会った陰陽師のもとへ向かうことにした。

 神社目指して歩く三人。

 するとそこに、一人の僧兵NPCがやって来た。


「……お主たち、見ればかなりの腕利きと見える。さらに、狐からの信頼も得ているようだ」


 狐のクエストをクリアすることが、この会話の発生条件。

 そのことに気がついた三人は、その場に足を止める。


「可能であれば、手助けをしてもらえぬか」

「どうしたんですか?」


 メイが首と尻尾を傾げる。


「ヤマトの外れにある三千院橋。ここに、妖怪となった侍が度々現れるのだ」

「次は妖怪ですか」

「その妖怪侍なのだがな……恐ろしいほどの居合の使い手で、早々隙を見せることはない」

「その侍を倒せばいいってことかしら?」


 たずねるレンに、しかし僧兵は首を振る。


「そうではない」

「違うの?」

「実はその侍の持つ妖刀が……気に入ってしまってな。なんとしても手に入れたいのだ」

「……は?」

「分かります」


 こくこうとうなずくツバメ。

 よくよく見れば、僧兵の背には様々な武器が背負われていた。


「武器収集家としてあの刀を見過ごすことはできん! そこで何とか、ヤツから妖刀を奪い取って欲しいのだ!」

「なるほどねぇ……ツバメ。すごく納得してるけど、これって多分【スティール】の出番になるわよ」

「はうッ!」


 びくりと身体を震わせるツバメ。

【スティール】の成功率は【技量】と【幸運】に依存するが、中でも【幸運】による部分が大きい。

 そしてツバメの【幸運】は、初期値のままだ。


「……うまく、いく気がしません」


 嫌な予感に、ツバメは早くも震え出していた。

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