第79話 熱戦です!

 ビーチバレーのミニゲームは調整中。

 そのせいで強すぎるNPCチームも、メイたちの見事な連携の前には押されていた。


「アターック!」


 メイの早いアタックを、どうにかこうにかレシーブしたNPC。

 あがったボールをトス。


「……勝負は、ここからですよ」


 そんな中、得意げに笑う運営NPC。

 三人目のNPCは猛然とアタックに向かい――――打たない。


「時間差っ!?」


 ブロックに跳んだレンが、驚きの声をあげる。

 アタックを打ちに来たNPCはそのまま着地して、遅れて駆けこんで来たレシーブNPCがアタックを叩き込む。


「【加速】っ!」


 しかし間に合わない。

 ボールは砂浜のコート内に突き刺さった。


「なるほど、ミニゲームにしては本格的ね」


 NPCのサーブでゲーム再開。

 出力を上げたNPCは、ツバメのアタックをしっかりレシーブ。

 そこへ駆けこんできたNPCは高く跳び、やはり打たない。


「また時間差!?」


 跳び上がったNPCの後ろから、もう一人のNPCが飛び込んでくる。

 レンは完全にタイミングをズラされてしまった……が。


「それならっ! 【浮遊】!」


 そのまま中空で停止。

 敵NPCのアタックを見事に弾き返してみせた。


「レンちゃんすごーい!」

「こんな形でこのスキルが役に立つなんて思いもしなかったわ」


 笑い合う二人。

 10点先取の勝負は、ここから一進一退になっていく。

 レンを襲う、NPCの強力アタック。


「まずっ!」


【技量】は足りても【耐久】が足りない。

 そこから生まれたレシーブミスは、ボールを海の方へと飛ばす。


「まかせてっ!」

「それはさすがにムリだろ」「流れはやっぱNPCにあるな」「残念」


 聞こえて来た声に運営NPCが笑う。しかし。


「【アメンボステップ】! ツバメちゃんっ!」


 メイはそのまま水上を走り、ギリギリのところでレシーブを上げた。


「なんだなんだ!? 水の上を走ったぞ!?」


 唖然とするプレイヤーたちを前に、猛然と飛び込んで来たツバメは全力ジャンプ。

 しかしNPCチームはブロックに一人、その左右後方にレシーブ待ちを一人ずつと受ける用意は万全だ。


「それなら」


 するとツバメは大きな手の振りから一転、ボールにソフトタッチ。

 アタックに備えていたNPCたちが、「しまった!」と慌てて動き出すもすでに時遅し。

 ボールはネット際に落ちた。


「二人ともありがと。ここで一気に勝負をかけましょう」

「うんっ!」

「わかりました」


 つけた点差は2つ。

 そして勝利に必要な点も、同じくあと2つ。

 レンはここを勝負どころと見込んだ。


「そうはさせませんよー!」


 気合の入った運営NPCの合図で、放たれる必殺サーブ。


「【バンビステップ】!」


 大きく曲がる球筋。

 これをメイは、早い飛び込みでレシーブする。


「レンちゃん、お願いっ!」


 笑顔で手を振るメイの意図を察したレンは、ニヤッと笑ってトスを上げた。

 しかし、高すぎるトスの軌道にNPCたちがブロックへ殺到する。


「さすがにこれはダメだな。ブロックが完璧だ」


 ため息を吐くプレイヤーたち。しかし。


「それでは……よろしくお願いいたしまーす!」


 そこに現れる、巨大なクマ。

 海マップ仕様なのか、背中にしがみついた子グマはサングラス姿だ。


「な、なんだそれぇぇぇぇッ!?」


 華麗に跳び上がった親グマのグレイト・ベアクローが、高く上がったボールを叩きつける。

 砲弾のような音とともに放たれたボールが、砂を大きく跳ね上げた。

 まさかのスキルに、さすがに呆然とするプレイヤーたち。

 しかしこの一撃は同時に、そんな観戦者たちに火をつけた。


「あ、あと一点だ……やっちまえ!」

「いけー! 猫耳少女ー!」

「俺たちの仇を取ってくれー!」


 無慈悲の連勝を重ねて来たNPCの打倒を願うプレイヤーたちが、歓声をあげ始めた。


「【加速】!」


 ツバメが高速の飛び込みで、敵NPCのアタックを弾き上げる。


「メイ、最後はお願いね」


 そんな言葉と共にレンがトスを上げる。

 あまりにシンプルな攻撃に、再びブロックに集まってくるNPCたち。


「【ラビットジャンプ】! からの【アクロバット】!」


 歓声の中を駆けて来たメイは大きく跳び上がり、空中で一回転。


「「「いけー!」」」


 声援を背に、そのまま真っ向勝負に行く。


「いっくよー! 必殺の【キャットパンチ】アタックだーっ!」


 NPCたちは一斉にブロックに入るが、剛速球はその隙間を貫いていく。

 とどめの一発は見事、敵陣に突き刺さった。


「勝者、チームメイ!」

「やったー!」


 コートの中央に集まった三人は、自然と抱き合う。

 そのままパンパンと手を何度も鳴らしてハイタッチ。


「猫少女すげー!」「仇を取ってもらったな」「この難易度で勝つとかヤバすぎだろ!」


 調整中のNPCという、まさかの強敵。

 その強さの前に敗れてきたプレイヤーたちも、拍手でメイたちを称える。


「まさか敗けてしまうとは……ありがとうございます。これでまた調整が進みそうです」


 同じように拍手をしながらやって来た運営NPC。

 楽しそうに笑い合う三人を見て、ニッコリほほ笑むと――。


「もっと……NPCの強化が必要ですね」

「「「やめろおおおお――――ッ!!」」」


 観戦プレイヤーたちのツッコミは、砂浜に大きく鳴り響いた。

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