第78話 RPGにはミニゲームが付き物です!

 海図にあったポイントには祠があった。

 そこで謎の装置を起動したメイたちは、サン・ルルタンへ戻ってきていた。


「見てすぐ分かるような変化は起きてないわね」


 浜辺を歩きながら、大きく伸びをするレン。

 スイッチのオンオフをするだけの祠。

 これで海流の一つでも変われば、それが漁師たちの間で話題となり、新たな道が開ける。

 そんな展開もあるのだろうが、どうやらそう簡単ではないらしい。


「また各島をめぐってヒントを探すか、街の人たちに話を聞いて回るか、怪しいポイントを探しに行くかってところだけど……」


 そんな三人の視界に入って来たのは、浜辺に張られたネットと、サンバイザー姿の女性NPC。


「よかったら、ビーチバレーで遊んで行きませんか?」

「ビーチバレー?」


 意外な誘いに、首と尻尾を傾げるメイ。


「ミニゲームじゃない? 他にもスノーボードでタイムを競うのもあったわよ」

「そんなのもあるんだ、すごいねぇ」


 ゲームの常識を知らないメイは、素直に感心する。


「こういうの、意外とハマってしまいます」

「そうなのよねぇ。うっかり何時間も遊んじゃうの」


 そんなレンたちを前に、付近に座り込んでいるプレイヤーたちが口を開く。


「運営側が新たに作ってる、お試し段階のミニゲームなんだとさ」

「でも、相手が強すぎてどのパーティも勝てずにいんだよ。新要素だからまだ調整ができてないんだってさ」

「各動作はステータス値に依存。その他にも、相手を攻撃するスキル以外は大体使えるってのが売りなんだと」

「へえ、面白そうね」

「面白いけど、相手が強すぎんのよなぁ……」


 どうやらステータスやスキルという要素が関わるため、まだ難易度設定に難があるようだ。

 全敗を喰らったプレイヤーたちは、もう諦めの雰囲気だ。


「直接攻撃以外は何をしてもいいようにしてありますので、スキルを使った派手なものができるのではないかと考えているのですが……なかなか難しいのです」

「なるほどねぇ」

「パーティの人数に合わせてこちらもチームを編成します。よければ試していただけませんか?」


 そう言って、可愛らしく微笑んで見せる女性NPC。


「……ねえ、せっかくだし少し遊んでいかない?」


 少し考えつつ、レンはそう提案した。


「もちろん、この間に遺跡のクエスト先を誰かに見つけられちゃう可能性もあるけどね。ほら、ジャングルの時もポイント集めに夢中になってたわけじゃなかったでしょう」

「そうですね」

「その、なんていうかさ……こういうのを皆でするのもいいかなって。もちろん街の変化を探すのでも全然いいのよ。それだって楽しいから」

「ジャングルでの釣りも楽しかったので、私に異存はないです。それに……」

「面白そう……!」


 見ればメイは、すでに腕をグルグルさせながら目を輝かせていた。


「ふふ、よかった。それなら遊んでいきましょうか」

「おー!」


 こうしてメイたちは、調整中のミニゲームに参加することにした。

 すぐに三人の日焼けしたNPC女子がやって来て、試合が始まる。

 まずはレンのサーブから。

 100を超える【技量】のおかげで、ボールは問題なく敵陣に。

 NPCチームはこれを、流れるような連携でアタックへとつなぐ。


「来るぞ! 強烈アタックが!」


 見学プレイヤーの声と共に、空いたスペース目がけて撃ち込まれたアタック。


「【加速】」


 ツバメが早い動きで飛び込む。

 レシーブは見事成功だ。


「へえ、やるなぁ」

「まあここまではな、問題はこの後の相手のディフェンス力なんだよ」

「絶対決まらないもんな」

「行くわよ、メイ」


 もはや達観の域にあるプレイヤーたちがため息を吐く中、レンがトスを上げる。


「アターック!」


 次の瞬間、ボールは浜辺に突き刺さっていた。


「…………な、なんだあれ?」


 雷のような勢いで決まったアタックに、プレイヤーたちは言葉を失う。

 しっかりと【腕力】が、アタックの威力に活きている。


「いけそうね」

「うんっ!」

「ミニゲームとしても成立してそうだし、いい感じだわ」

「スキルもちゃんと使えます」

「サーブは誰でもいいみたいだから次はメイがお願い。スキル、使ってみて」

「りょうかいですっ!」


 ボールを受け取ったメイは、さっそく高く放り投げた。


「いくよー!」


 そしてそのまま、ボールに向かって走り出す。


「そーれっ! 【キャットパンチ】!」

「ッ!? NPCが倒れ込んだぞ!?」


 メイの放った弾丸サーブは、レシーブに入ったNPCを転がした。

 フラフラと上がったボールを追いかけて、どうにかつなぐものの半端なアタックがやっと。

 これを普通にツバメがレシーブ、レンがトスを上げると――。


「それーっ!」


 あとはメイが決めるだけ。


「……これ、いけんじゃねえか?」


 楽しそうにハイタッチする三人に、思わず目を奪われるプレイヤーたち。

 調整不足のNPCという強敵相手だが、これまでとは明らかに様子が違う。


「このまま一気に行きましょう!」

「おー!」

「がんばります」


 楽しそうにハイタッチするメイたちを見て、運営NPCは強気の笑みを浮かべる。


「やりますね。ですがRPGの勝負どころは、いつだって後半なんですよ」

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