第77話 レンの作戦と祠にあるもの
「レンちゃーん! エサになれってどういう事ー!?」
白イルカの防衛クエスト。
その中のミッションであるクジラの救出を狙う三人。
レンが出したまさかの作戦に、驚くメイ。
「メイ、狙いは真下から来る垂直の跳び上がりよ。それを引き出してくれたら、その瞬間に勝負をかけるわ!」
「なるほど……りょうかいですっ!」
「お願いね【コンセントレイト】」
杖を手にしたまま、魔力をため始めるレン。
メイは【アメンボステップ】で、迫るマッドシャークへ真っ向から立ち向かう。
「よいしょっ! こっちこっち!」
喰らい付きを細かなステップでかわし、海上で身を躍らせる。
「おっととと! あぶなかったぁ!」
メイの肩スレスレを通り過ぎていく牙に、思わず安堵の息。
するとマッドシャークは、海中深くへと潜っていった。
「さあ、どっちに来るの……?」
狙いはメイか、それとも船か。
走り出す緊張感。
「来たあっ!」
声をあげたのは、同じ場所で細かなステップを刻んでいたメイ。
海中からメイを狙ったマッドシャークが、一直線に海中を登って来る。
「行くわよツバメ」
「はい」
「コンビネーションの見せどころね」
「はいっ」
猛烈な速度で上昇してきたマッドシャーク。
海面に着くと同時に開かれる口腔、放つは鋭利な牙による必殺の喰らい付き。
「【ラビットジャンプ】!」
メイはこれを、後方への大きなジャンプでかわす。
見事ギリギリの回避を成功させ、目標を『釣り上げ』て見せた。
喰らい付きをかわされたマッドシャークは空中で一回転。
あとは海に落ちるのみ。
「ありがとメイ! 【フリーズブラスト】!」
この瞬間を狙った魔法は、マッドシャークではなくその真下の海面へ。
以前ジャングルの遺跡でランプに火を灯したように、属性魔法には攻撃以外の作用もある。
火の属性は燃焼。
そして氷の魔法は、その威力に応じて『水を凍らせる』特性を持っている。
【コンセントレイト】によって威力を上げた強烈な冷気は海面を凍て付かせ、マッドシャークの逃亡を妨げる。
海上に生まれた小さな氷山で、半身を埋もれさせたままもがくマッドシャーク。
「行くわよツバメ!」
「はいっ」
「【連続魔法】【フリーズボルト】!」
続けて放った三連続の氷魔法が、海上に一つの氷塊を生み出した。
そしてツバメが、甲板から海へと飛び出していく。
氷魔法の氷結作用は時間限定だが、生まれた『氷』を足場にすることもできる。
「【跳躍】」
ツバメは氷塊を蹴って、もう一度跳び上がった。
その足が着地した先は氷山の上、マッドシャークの目前。
ここでツバメも、『コレクト』で得た新スキルを発動する。
「【ヴェノム・エンチャント】」
紫色の輝きが、手にした二本の短剣に宿った。
「【電光石火】」
高速の二連撃で斬り抜け、振り返り様にも通常の攻撃を四発。
「【アサシンピアス】」
さらに、姿が見えている状態では効果の弱い刺突スキルまで、できうる限りの攻撃を叩き込む。
「ツバメ! 氷が消えるわ!」
「ッ! 【跳躍】!」
レンの声に、すぐさま回避行動を取るツバメ。
再び氷塊を蹴り、船へと戻る。
しかしまだ、マッドシャークは倒れていない。
自身を足止めしていた氷塊を打ち砕くと、再びメイ目がけて泳ぎ出す。
「これでいいのよね」
「はい。【ヴェノム・エンチャント】は使用中の攻撃回数で毒生値を蓄積します。それが指定を超えた場合、少し時間をおいて――――」
マッドシャークは突然、海面で大きく身体を跳ねさせた。
「爆発します」
体内を毒性が駆けめぐり、水面で横倒しになったまま暴れるマッドシャーク。
HPゲージも、毒による効果で減っていく。
そしてそんな格好の隙を、メイたちが放っておくはずがない。
「今です!」
「【アメンボステップ】!」
ツバメの言葉に、水上を駆けるメイが剣を取る。
「からの――――【ソードバッシュ】!」
そしてそのまま海中へ。
「【フレアストライク】!」
直後、炎の砲弾が猛烈な爆発を巻き起こす。
さらに水しぶきを上げて海面へ跳び上がってきたメイは、【王蜥蜴の剣】を掲げた。
「いっくよー! とどめの【ソードバッシュ】だああああ――――ッ!!」
叩きつけた衝撃波が、高々としぶきを上げる。
獰猛な巨ザメのモンスターは、粒子となって消えていった。
海に浮かびながら、「やったねー!」と剣を振ってみせるメイ。
レンは杖を掲げてそれに応え、ツバメも小さくピースで応える。
「だいじょうぶ?」
メイがその身体に触れると、白イルカを守ってきたクジラは大きく潮を噴いた。
陽光に照らされ、かかる虹。
続いてメイの装備に、変化が起きる。
「……指輪が、二連になった」
見ればメイが装備していた装飾品【召喚の指輪】が二連のリングに変わっていた。
「もしかして助けてくれるの? ありがとー!」
歓喜にクジラへ頬を寄せるメイ。
しかし救出のお返しは、これだけではなかった。
クジラはその身体を海に沈めると、ゆっくりと再浮上。
そのまま身体の上にメイを乗せる。
「うそ……っ! の、乗せてくれるのーっ!?」
メイの尻尾が、風切り音をあげるほどの勢いで動き出した。
◆
「漁師の言ってた『潮目が読めるなら』ってこういう事だったのね」
意外な展開に驚きながら、祠へと向かう三人。
「イルカだけしか守れなかった場合、あの子に先導されて漁船で向かうんでしょうね」
「レンちゃんとツバメちゃんのおかげだよー! 海を凍らせたり、その上を跳んだりすごかったねぇ!」
メイはうれしそうに尻尾をブンブンさせている。
「ふふ、でもまさかクジラで祠に向かうとは思わなかったわ」
潮目の見えるクジラたちなら、海流も問題なしだ。
「こういうクエストはやっぱり、みんな無事の形が気持ちいいわね」
「はい」
三人はそのままクジラの背に乗って、イルカと共に祠へとたどり着く。
祠は本当に、海の上にポツンと建てられていた。
正確には、その出入口だけが海面に出ている形だ。
広い海に出入口だけ。
やはり、これを普通に見つけるというのは無理だろう。
「行ってみよう!」
メイとツバメは軽快なジャンプで石段の入口へ。
レンも【浮遊】でゆっくりと降りていく。
「あまり広くないわね。ていうか、ジャングルにあった遺跡みたい」
遺跡の中には、不思議な紋様の彫り込まれた石材で作られた部屋があるのみ。
それらの紋様は、部屋の中心にある台座に向かって刻まれている。
そして、台座の上には宝珠。
「なんだろう……」
メイが触れると、宝珠に光が灯った。
「これで何か変わったのかな?」
「他には何もないんだし、この場所はそのスイッチを入れるだけで十分なんだと思うわ」
「こういうのは、街に戻ってみたら何かが変わってることも多いです」
「そういうものなんだぁ……」
こうしてメイたちは、再びクジラの背に乗って漁船のもとに戻ることにしたのだった。
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