第62話 レンと宝珠

「……また黄色?」


【浮遊】で上がった屋根の上。

 知恵の輪になっていた鍵を解き、レンが開いた箱の中には黄色の宝珠。

 これまで手に入れた宝珠は三つ。

 その全てが黄色だ。


「たまにはメイに、いいところを見せたいわね」


「レンちゃんすごーい!」と目を輝かせるメイの姿。

 そんな想像をして、口もとをほころばせる。

 前回のバトルロワイアル以来の個人戦に、レンもワクワクしていた。


「さて、次に行きますか」


 新たな宝珠目指して、【浮遊】で屋根を降りるレン。

 街中を散策していると、一人の少女がやって来た。


「お姉ちゃん、この本に何が書いてあるか読める?」


 そう言って、一冊の本を差し出してくる。


「お馬鹿さんには読めない本なんだって」

「なるほど、知力値で読めるようになる本ってことね……どれどれ」

「何の本だった?」

「これは料理の本ね。特別なレシピが書かれているみたい」

「そうなんだ、捨てなくてよかったぁ。お姉ちゃん頭いいんだね、お礼にこれあげる!」


 そう言って少女がポケットから取り出したのは――――黄色の宝珠。


「…………またぁ?」


 駆け出していく少女の背を見ながら、レンはため息を吐く。


「だああああっ! ダメか!」


 聞こえて来た、悔しそうな声。

 様子を見に行くと、そこには残念そうにしている男の姿。


「魔法威力なら自信あったのによぉ」

「残念じゃったの。火力不足じゃ」


 立ち去っていく男の姿を見て、老魔導士がニヤリと笑う。


「……なるほど、単純な火力が求められるクエストなのね」

「お嬢さんも試してみるかい? ワシの結界を破ることができたら宝石をやろう。まあ、そう簡単にはいかんと思うが」

「もちろんやらせてもらうわ。【コンセントレイト】」


 レンはさっそく魔力をため始める。


「準備はいい?」

「ふふふ、いつでもよいぞ」

「それならいくわよ! 【フレアバースト】!」


【銀閃の杖】から放たれた爆炎は、猛烈な勢いで燃え上がる。

 巻き上がる煙。やがてそれが晴れると――。


「ごほっごほっ」


 プスプスと煙をあげる老魔導士の姿。

 結界は、消えてなくなっていた。


「……持っていくがよい」

「やった! 今度こそっ!」


 喜びの声をあげるレン。老魔導士の手にあったのは――。


「ま、また黄色!? これで5連続よっ!?」


 ……それでも、メイに「すごい」と言われたい。

 レンは「次こそ」と、意気込んで宝珠探しに戻る。

 目に付いたのは、広場のベンチの下に隠された小さな宝箱。


「……あら」

「げっ」


 手を伸ばそうとして、思わず顔をしかめる。


「やはり、光と闇は惹かれ合う運命なのですね」


 レンの前に現れたのは『白』の中二病少女、九条院白夜。


「どうやら、目的は同じのようですわ」

「……そうみたいね」


 不穏な笑みを浮かべる白夜。

 二人の間に、緊張感が走り出す。


「この箱を賭けて、貴方に勝負を挑みますわ! 【エーテルジャベリン】!」

「まあ、そうなるわよねっ!!」


 白夜は身体の左右に三本ずつの『魔法の槍』を生み出し、これを放って来た。


「ッ!!」


 迫る魔法の槍を適切なステップでかわし、レンは反撃に移る。


「【連続魔法】【ファイアボルト】!」


 対して白夜も、三連続の炎弾を冷静に切り抜ける。


「【フレアアロー】!」

「ッ! 【エーテルライズ】!」


 短いキャストタイムで放たれた炎の矢を、白夜はギリギリのところで光の柱で相殺。


「【跳躍】!」


 一転、空中からレイピアで斬り掛かってきた。

 これを左へのステップでかわすレン。

 一気に詰まった距離は、近距離戦の始まり。


「魔法戦では厳しそうですが、近接ならいかがかしら?」


 自信をのぞかせる白夜。

 しかし回避はもちろん、近接戦もできるのがレンの特長の一つだ。


「【魔力剣】」


 レイピアをかわして返す魔法の刃。


「なっ!?」


 かすめた魔力の剣が、白夜のHPを2割ほど削り取った。

 遠近どちらでも、レンが優勢を取る。


「……さすがですわね。このまま戦い続けても、勝ち目は薄いように感じますわ」

「賢明ね。それなら諦めて――」


 言いかけたレンの足元に、広がる影。

 顔を上げると、そこには――。


「黒い……ドラゴン!?」


 空から急降下してきた黒竜が、その爪で宝箱をつかみ取る。


「うそっ!?」

「【跳躍】」


 白夜は滞空する黒い翼竜に飛び乗った。


「このイベントの勝者は戦いに勝った者ではなく、最後に宝珠を手にしていた者。すなわち、わたくしの勝ちですわぁ!」

「魔導士じゃなくて、従魔士だったわけね」

「レンさん、切り札は常に隠し持っておく物ですわよ」


 白夜は得意げにそう言い放った。


「それでは失礼いたします。次にお会いする時を楽しみしていますわぁ」


 そして勝ち誇った顔を見せつけながら去って行く。

 一方レンは、頬を引きつらせていた。


「……じょ、冗談じゃないわよ。これ以上『光と闇の運命』なんて言われたら恥ずかしくて死んじゃうわ」


 その手から【銀閃の杖】が消える。

 代わりに握られたのは、敏捷値を犠牲に知力値を上げる杖【ワンド・オブ・ダークシャーマン】


「【コンセントレイト】」


 魔力の集中を開始。


「――――【魔眼開放】」


 さらにその目を金色に輝かせる。

 知力値を向上させたところで、レンは手にした杖を黒竜へと向けた。

 長い銀髪が、バサバサと揺らめき出す。


「今回は特別に全部盛りよ。喰らいなさい! 【魔砲術】【フレアストライク】!」


 衝撃波を起こしつつ、放たれる豪炎の砲弾。


「戦略さえしっかりしていれば、この程度の勝負なら余裕ですわね」


 手に入れた宝箱を手に、くすくすと笑う白夜。


「これこそまさに完全勝利で――――え?」


 振り返る白夜の眼前に、炎弾。


「きゃ、きゃああああ――――ッ!!」


 次の瞬間、猛烈な爆発がラフテリアの空中で巻き起こった。

 レンは【浮遊】で爆破地点へと向かう。

 すると狙い通り、爆破と落下の合わせ技で白夜が倒れた場所には、黄色の宝珠と開け損ねの宝箱が落ちていた。


「どんな形でも、最後に手にしたものが勝者……ね」


 フフ、と笑って宝箱を開くレン。

 そこにはまばゆい輝きを放つ、黄色の宝珠が収められていた。


「……もしかして、黄色しか流通してないの?」

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