第60話 ラフテリアはイベントの街
盗人だらけのクエストを無事クリアしたメイたちは、青年宅を出た。
そのまま、港湾地帯に向けて足を向ける。
『――――これより地域イベント『コレクト』を開始します』
すると、そんなアナウンスが聞こえて来た。
『参加希望の方は、港湾部の指定範囲にてお待ちください。皆様のご参加をお待ちしています』
「イベントだぁ!」
大喜びで駆け出すメイ。ツバメもその後に続く。
そして、思いっきりすっ転んだ。
「ほら、そんなに慌てるから」
レンが手を伸ばす。
「す、すみません」
恥ずかしかったのか、わずかに頬を赤くする。
意外にも、転んだのはツバメだった。
「うわあ……すごい」
すでに人がいっぱいで、うれしそうに感嘆の声をあげるメイ。
船と倉庫の並ぶ港湾部には、たくさんのプレイヤーたちが集まっていた。
にこにこしながら尻尾を振るメイに、戦士たちの視線が集まる。
『コレクトは、街中に散らばった赤、青、黄の三つの宝珠を集めるイベントです』
「なるほどー、バトルロワイアルではないんだね」
『三色でワンセット。集めた宝珠は港湾倉庫01番にて回収いたします。またセット数が多かったり提出が速ければ少しお得になります。もちろん……収集の手段は問いません』
「でも……そういう一面もあるってわけね」
レンは楽しげに笑う。
「やることは宝珠を集めるだけ。三色集めて提出すればクリア」
「そうなると、集めたものを提出しに行くところを狙われそうです」
「当然、そこを狙うプレイヤーもいるでしょうね。倉庫前なんかは荒れるんじゃないかしら」
「わあ、なんだかワクワクしてきちゃうねぇ」
「メイさん、本当に楽しそうです」
「うんっ。初めて参加したイベントもこの街のバトルロワイアルだったんだよ。レンちゃんと最初に会ったのもその時だったんだぁ」
「ふふ。これくらいの規模のイベントも結構楽しいのよね。特別大きな催しってわけではないけど」
「ああー、やっぱり人がいっぱいいるとワクワクしちゃうよぉ」
早くも準備運動を始めるメイの姿に、思わずほほ笑むレン。
「あら、いい装備ですわねぇ」
その前にやって来た、一人の少女。
淡い橙色の髪に、白色のドレスを身にまとった15,6歳くらいの少女だ。
「わたくしは『光の使徒』、九条院白夜と申します」
スリットの入った白スカートに白のブーツ。
見た目はまさに、レンの対照。
そんな『白』の中二病少女を前に、レンは――。
「……間に合ってます」
「何が間に合っていますの!?」
予想外の素っ気なさに、驚く白の中二病少女。
「その装備、わたくしが『黒』を中心するのであれば絶対に狙いたいと思っていたものでしたのよ」
「アッハイ」
「フフフ。どうやらわたくしを目前にして、恐れをなしてしまわれたようですわね。ですがこれは勝負。お手合わせの際はどうぞお手柔らかに」
「アッハイ」
レンは虚無の笑顔を向ける。
「そちらの可愛いらしい猫耳のお方も、よろしくお願いしますわ」
「よろしくおねがいしますっ。わたしはメイ、こっちはレンちゃんだよっ!」
「……ツバメです」
どれだけキャラが強かろうが、笑顔で対応の素直なメイ。
そして存在自体を気づかれていなかった、影の薄いツバメ。
満足そうにくるりと踵を返した白夜は、立ち去って行った。
「おそらく『光の使徒ですって……?』みたいな返しが欲しかったのではないでしょうか」
「メイと出会う前だったら確実にやってたわね……ああもう。恥ずかしくて見てるだけで顔が熱くなってくるわ……」
「今回は止めないのですね」
以前出会った少女に、レンは『こっち側に来るな』と言っていたのを思い出すツバメ。
「あそこまでキャラを作って、ハマっている状況ではもうどんな言葉も届かないのよ。いわば……手遅れの子」
そう言って、切なそうに目を閉じる。
「そんな事より、イベントを楽しみましょう!」
気分も新たに気合を入れ直す。
『皆様準備はよろしいでしょうか。コレクト――――スタート!』
「スタートーっ!」
イベント開始に合わせて、拳を突き上げるメイ。
歓声と共に、プレイヤーたちが我先にと駆け出していく。
「今回は一応、個人向けのイベントなのですね」
「宝珠は転々としてるから、大勢で一緒に動いても効率的とは言えないわね」
「なるほどぉ」
「ただ、最後の提出前を狙ってくるプレイヤーとの戦いは結構大変だろうし、今回は一度散開して各自で宝珠を収集。一時間後にこの場所に集合……それでどう?」
「いいですね」
「集合した時に、誰が一番宝珠を手に入れてるかしら」
フフッと笑うレンに、メイは拳を握って気合を入れる。
「おおーっ! 負けないよー!」
「がんばります」
「それじゃメイ、ツバメ。一時間後にこの場所で」
「はい」
「りょうかいですっ!」
始まった定期イベント『コレクト』
さっそくメイたちは散開して、各々の方向に走り出した。
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