第50話 猫たちに会いに行きます!

 助けた少女パーティからクエスト情報をもらったメイたちは、さっそく港町ラフテリアへと戻ってきた。

 行き先は、帆船が並ぶ海運用の港から少し進んだ先にある漁港の一帯だ。


「まずは、お土産用に魚を調達しておきましょう」

「りょうかいっ!」

「猫たちが待っています……っ」


 アイテムとして魚をあげることで、猫クエストが始まる可能性が高い。

 そう踏んだレンは、港に並ぶ魚市場の中から適当な店に足を向けた。


「新鮮な魚はどうだい? 安くしておくよ!」


 すぐに魚を売っている青年NPCに声をかけられる。


「わあ、色々あるねぇ」


 現実では見かけない魚もあり、楽し気に目を輝かせるメイ。

 魚屋を前に尻尾をブンブン揺らす姿は、ものすごく猫少女っぽい。


「とても……かわいいです」


 そんなメイに、ツバメの目も負けじと輝く。


「決めた! わたしはこの鯛みたいなお魚で!」

「私はこっちの銀色のやつにします」

「……切り身はないの? できればパックに入ってるやつがいいんだけど」


 できるだけ生の状態でさわりたくない、ちょっと軟弱なレン。

 三人は各々、猫用のお土産を手に店を後にする。

 向かうのは、港から少し奥に入った路地の先だ。

 白い石畳と、同じく白い石壁で作られた家々。

 どこかのどかな雰囲気のある居住区を進んで行く。

 西洋の漁港を思わせる街並みの裏手には、ぽっかりと空いた小さな空き地があった。

 そこには、十匹ほどの猫たちがくつろいでいる。


「ねこだー!」


 猫耳を付け、尻尾を楽し気に振りながら猫の集まりに駆け寄っていくメイ。


「たぶん向こうも『ねこにんげんだー!』って思ってるでしょうね」


 そう言ってレンは「ふふ」と楽しそうに笑う。

【自然の友達】効果もあって、猫たちは逃げるどころかメイの周りにどんどん集まってくる。


「本来であれば、猫に対する普段の態度や行動で上がった好感度がきっかけになるクエストなのね。きっと」


 そう考えると、意外と見つけにくいクエストと言える。

 まだ攻略に情報が上がってないというのも納得だ。

 しかしそれも、動物からの好感度が飛び抜けているメイがいれば問題ない。

 メイが茶トラの頭を撫でていると、二匹の白猫がその肩に飛び乗ってきた。

 三毛猫は揺れるメイの尻尾目がけて、ぴょんぴょん跳びはねる。


「おっととと」


 正面から飛び込んできた猫を受け止めたメイは、そのまま倒れ込んだ。

 それでも猫たちは止まらない。

 新たにやって来た猫も、メイの身体に頭をこすりながら次々身体の上に乗ってくる。


「ちょっ、前が見えな……っ」

「あはははは、すっかり猫まみれね」


 一方のツバメも、普段の無表情ぶりが嘘のように夢中で猫たち撫で始める。


「ッ!?」


 そこへやって来た、一匹の子猫。

 ツバメはいよいよ「か、かわいすぎます……」とか言って震え出した。

 おもむろに取り出す猫じゃらし。

 そのまま四つん這いになると、子猫の注意を引こうと右に左に動き出す。


「……そんなアイテムあったんだ。ていうかツバメの方が猫みたいな動きをしてるわね」


 もはや猫にたかられている状態の、猫人間メイ。

 子猫相手に猫のような動きで気を引こうとするツバメ。

 そんな二人を、レンはほほ笑ましく眺める。

 すると、一匹の黒猫がやって来た。


「あ、あなた……」


 その姿に、思わず目を奪われる。

 黒猫の目は右が青、左が金のオッドアイ。


「やはり、私たちみたいな者は惹かれ合うのね……」


 得意の白目で、中二病ネコに対抗するレン。


「……あれ?」


 そんな中、突然メイの耳がピンと立った。


「どうしたのメイ」

「何か聞こえましたか?」


 メイは猫たちを抱きかかえたまま、首を傾げる。


「……わたしたち、何しに来たんだっけ……?」

「決まってるじゃないですか」


 そんなメイに、子猫に頬ずりしていたツバメが「まったくしかたないですね」と息をついた。


「猫たちとたわむれに来たんです」

「…………そっか!」

「そんなわけないでしょ」


 すでに目的なんか忘れてしまっているツバメとメイに、しっかりとツッコミを入れるレンだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る