第143話 一人だけ違う人がいる

それは企画開始直後の事だった。


◇◇◇


<しゃちょー>(わからない...まったくわからないぞ)


しゃちょーは途方に暮れていた。

ラムネやクロたちとは違って歌の動画や配信を全くと言っていいほど取らないしゃちょーは、このような企画には滅法弱いのだ。


まあ、しゃちょーは元々そのようなアイドル路線で売り出していないし、多分求めている人もいない。


ラムネたちも同様だが、彼女らのようなかわいい女性メンバーは歌枠などでアイドルチックなこともやっているから慣れているようだ。


<しゃちょー>(いかん、本当に分からないぞ)


顎に手を当てて考え込むしゃちょー。他のステージではクロやラムネたちがポーズを決めている中、ただ立ち尽くしているしゃちょーはとても目立って見えた。


それを見かねたスタッフがカンペをもってしゃちょーの前にやって来た。


「とりあえずボディビルポーズでもやってください」


<しゃちょー>『そ、そんな無茶な...』


突然の指示に驚くしゃちょーだったが、この状況良くないと判断したのか渋々カンペに従うことにした。


「お、おお...」


立ち尽くしていたしゃちょーにはやはり観客たちの視線が集まっていたので、満を持して取ったポーズに思わず声が漏れていた。


しゃちょーが一番最初に取ったポーズは多分一番最初に思い浮かぶポーズ【サイドチェスト】だ。


<しゃちょー>(よし、なんかウケていたようだし...このまま行こう)


途方に暮れていたしゃちょーにとってあのカンペは鶴の一声。正しい判断はとうにできていなかったのだ。



<アイン>『マネちゃんマネちゃん』


いち早くその異変楽しそうなものに気が付いたアインは早速マネちゃんに声をかけた。


<マネちゃん>『何ですか?今いいところなのに』


<アイン>『あれ見てよあれ!』


丁度ゆいとラムネが二回目のポーズを決めようとしていた時だったため間が悪く、若干不満を言うマネちゃんだったが、アインの指さす方向を見て一瞬で獲物をみつけたかのような表情に変わった。


<マネちゃん>『良く分からないですけど、面白そうだってことだけは分かります』


<アイン>『どうする?声掛ける?』


<マネちゃん>『いえ、このままにしておきましょう』



視点を戻してしゃちょーの様子を見てみよう。


しゃちょーは最早無心だった。


一言も話すことなく淡々とボディビルポーズを決め込んではジャンプを繰り返していた。


最初こそ笑っていた観客たちだが、今では笑うことなく見ている。しかも中には応援する声まであるほどだ。


そしてもうじきしゃちょーの中にあるボディビルポーズが底をつきそうなときに、また鶴の一声が会場に響いた。


<マネちゃん>『終了でーす!!』


<しゃちょー>『お、終わった....』


そしてしゃちょーがいたステージ付近では若干拍手が沸き上がったのだった。

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