第100話 時間通りに始まらないのはいつもの事

「そうそう、こないだのモデルの件だけど...」


ふと思い出したように父さんはあのことについて話し始める。


そうだ、今回は呼び出されるほどのことをやらかしたんだった...


勢いで漏らしてしまったとはいえかなりの大失態だ。あともう少し情報を流していたら特定だってあり得た話だ。


固唾を飲んで続く言葉を待つ。


「あれに関してはお前はもう口を出さない方が良い。下手に情報を与えるだけだからな。後の事はこちらでやっておくからな」


「あ、ありがとう...それとごめんなさい」


運営として何か動いてくれるようでホッとしたボクは安堵の息とともにお礼と謝罪の言葉を言う。


「気にするなと言ってやりたいところだが、流石に今回はまずかったな。Vtuberはネットの中にしかいない存在だ。情報については人一倍気を使わないといけない。それに、【ゆい】の影響力はお前が思っているよりもずっと強い。そのことは肝に銘じておいてくれ」


「はい」


いつになく重い言葉で言われ気分が沈んでしまうが、これは完全にボクが悪い。しっかりとその言葉を受け入れる。


「よし、この話はここでおしまいだ。次はいよいよ夏の大企画を決めていくぞ」


父さんが意気揚々とディスプレイを見せてくるが、PCのモニター一枚に五人の顔がよるとさすがに狭い。少し窮屈に感じるけど表示されている画面に注目する。


「それじゃあ説明するぞ!」


「僕たち抜きでかい?」


楽しそうな笑顔を浮かべていた父さんの顔からそれが消えていくのが見えた。


父さんの視線の先には社長室の扉があり、開いた扉の前にあの二人が立っていた。


「あ!シロ先輩にクロ先輩!」


「やあ、久しぶりだね」


「お久しぶりです。ゆうき君」


軽く挨拶を済ませると父さんの方に向き直りその顔に笑みを浮かべながらも冷ややかな空気を漂わせる。


「なあ、社長。一つ聞きたいのだが...」


「もしかして私たち、遅刻してしまいましたか?」


「い、いや....そんなことは無いぞ?」


すぐ見てわかるほどに目を泳がせている父さんを見てさらにその空気を強めた。


「それは良かった。じゃあなんで...」


「「私たちに連絡がないんですか?」」


「送ってなかった!?」


「なんで父さんが驚いてるの!?」


あの反応を見るに、どうやらいつもの悪戯ではなくて本当に送っていたつもりらしいが、如何せんいつもあのようなことをしているためにその疑いは晴れることは無い。


「仮に連絡がなかったとして、どうしてここに来れたんだ?」


口を閉ざしていた六条さんがボクも思っていた疑問を口にする。


「教えてもらったんだ。草薙にね」


「草薙?」


その名前が出てきたことが意外だったようで父さんはそう聞き返す。


「ん?ええ、送りましたよ~『多分届かないだろうから一応送っておきますね~』って」


この時草薙は『多分(送信ミスで)届かないだろうから念のため送っておく』という意味そう言ったが、それが通じるはずもなく....


「なあ社長。少し話そうか」


「ええ、確か隣が開いていたはずです」


「ハイ...」


その圧に耐え切れずとぼとぼと従う父さんを見て流石に今回は可哀想だと思ったが、あの空気の中を割って入ることはボクにはできなかった。


三人が戻ってくるまで少しだけ時間がかかったということをここに残しておこう。


 余談ではあるが、今回は本当に予期せぬトラブルで、間違えて草薙宛にシロとクロたち用の連絡を送ってしまったのだ。


草薙の説明が足りなかったのか、普段の行いのつけが回ってきたのか。はたまたその両方なのか、それは誰にもわからない。


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いつも読んでいただきありがとうございます。

今回のお話でナンバリング上100話目となりました!


ここまで毎日書き続けることができたのも、皆様の応援があったからです。

本当にありがとうございます!


これからも面白いお話をお届けできるように頑張っていきますので引き続き応援の程よろしくお願いします!

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