第35話 アホな父と優しい仲間②
「一応、インターホン押しておこうか」
莉奈がインターホンを押すが返事は無い。寝ていると判断した一行は起こさないためにも再度鳴らさず、合鍵を使って家に入った。
「最初から変わっていなければ...こっちだ」
家具の搬入を手伝っていた六条が前に出る。幸い部屋は変わっていなかった。
「ゆうき君。大丈夫?」
大丈夫?と声をかけたが、大丈夫なようには到底見えない様子で、布団を半分剥いでおり汗で髪は額に引っ付いている。おまけに呼吸が荒いと来たものだ。
「何か冷やせるもの...」
「冷蔵庫に冷えピタがあったぞ」
「貸して!」
莉奈が主導でゆうきに処置をしていく。
軽く汗を拭いてあげ、熱が集まっているところに冷えピタを張ってやる。気持ちがいいのか、表情が少し穏やかになる。寝息も落ち着いてきたので軽く食事を用意する。
食べられるかわからないが、予想だと今日に入ってから久しく食べていないはず。そう判断したのだ。
「ゆうきくん。寝てるところごめんね?ごはん作ったんだけど食べれるかな?」
桐山が頃合いを見て優しくゆうきを起こす。
「うにゅ....?」
「ごはんですよ~」
「たべる~」
ふらふらとした体を桐山が支える。
「おいしかった~」
「それはよかった。」
「六条さんって料理できたんですね!」
「できないと思われていたのか...まったく心外だな」
六条お手製のお粥を半分ほど食べたゆうき。
「ろくじょうおにいさんがつくったの~?」
呂律が回らないのか伸びた声でゆうきが聞く。
「っ!?そ、そうだぞ」
「あの、六条さんが狼狽えてる!」
「さすがゆうき君だね」
他の二人も冗談を言う余裕が出てきて、ひとまず一行は安堵する。
「それじゃあ、ゆうきくん。寝ようか」
「えぇ~.....や!」
「あれら」
桐山が寝るように諭すが言うことを聞かないゆうき。
「まだ....おねえちゃんたちとはなしたい....」
「まずは風邪を治さないとね?」
「だって、おねえちゃんたちはかえっちゃうんだよね?」
「まあ、ゆうき君が無事だっていうことも確認できたからね」
「かえっちゃいやだぁ....」
「すぐには帰らないからさ、とりあえずベットに行こうか?」
何とかベットに寝かせるとすぐに瞼は閉じてゆうきは夢の世界に入っていった。
「....寝たみたい」
「それじゃあ、私たちは帰りますか!」
「そうだね」
やることを終えて一行が事務所に帰ろうとしていると、ゆうきの声が聞こえた。
「....ひと...り....は....やだよぉ......だれかぁ」
人間弱っている時には家族や親しい仲の人を求めるものだが、ゆうきはそれとはまた違う。それはゆうきの目元から流れた雫が物語っている。
「これは.....」
「帰れなさそうだね~」
ここにいる誰もが申し訳ないと感じつつもかわいいと思ってしまう。それぞれの母性に近しいものを刺激されたからだということは言わずもがなだろう。
「草薙さん」
マネージャーの仕事もやっている草薙に六条は確認を取る。
「all未満で収まるのは確かです」
事務所に残る仕事の山を想像したのか薄ら笑いをしているように見えるが、多分気のせいだろう。
「なら、ここにいますかぁ!」
「こんな状態の弟は放っておけないな」
「六ちゃん何言ってるの?私の妹だよ!」
「違いますよ!ゆうきくんのお姉ちゃんは私です!」
「それじゃあ、私がもらいますね~」
「「「それは無い」」」
「理不尽だ」
ゆうきを見守る四人はいつもの調子で冗談を言い合う。
....一人を除いて。
「足....痺れてきたんだけどぉ....」
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