第22話 軍に入らないかい?
リブル共和国首都、セントラルシティ、小さな村や町と違い、移動せず、地に腰を据えるソレは周囲全てを高さ一〇メートル、厚さ五メートルの鋼鉄製の壁に覆われている。
外壁の上には対巨神用の迎撃砲台が等間隔に設置され、武装した兵士達が常に都市の周りを監視し続けている。
見る者全てを圧倒する存在感と威圧感は初めて訪れた人々の度肝を確実に抜いてきた実績がある。
そんな要塞じみた都市の出入り口は東西南北に一つずつ、計四つの門がある。
常に開いた状態になってはいるが、一度起動させれば門は最低でも一分で閉じ切れるようにできている。
ロイ達のいる南門には、他の移動艦や移動設備のついた家や店が入ろうとするところだった。
セントラルにはロイ達のような解体屋以外にも、運送屋や商人がこうして訪れることがよくある。
だが、そうしてやってきた訪問者は誰もが簡単に通れるというわけではなかった。
「あっ、これは大佐殿、お勤めお疲れ様です」
「そっちもご苦労様、はい、三人分の通行証」
ライナが検問の兵士と話しをしている間に、ロイ達は書類に必要事項を明記し、それらを提出する。
「えーと確認しますが、ロイ・サーベスト、一七歳、カイ・シュナック、同じく一七歳、リア・ストラーム、一四歳、三人とも解体屋で、仮階級は順番に少佐、大尉、伍長、でよろしいですか?」
三人がそれぞれかざしている身分証明証にも目を通す兵士にライナが返す。
「うん、間違いないよ」
「おーい、小型戦艦に積荷は大佐のガトリングバギーと巨神のパーツだけだ」
艦のほうから聞こえてきた別の兵士の方を見ると、丁度、艦のコンテナから降りてこちらに向かって歩いているところだった。
艦の中をくまなく調べるわけではないので、たいした意味の成さない検査だが、形式上は必要らしい。
「はい、では通っていいですよ、滞在期間には気を付けてくださいね」
「どーもー」
艦に乗り込んでから兵士達に向かって軽く手を振りながらライナは再びアクセルを踏み込んで門から離れる。
こんな面倒臭いことをしなくてはならないのも、全ては巨神のせいである。
巨神のせいで小さな村や町は移動設備を家に取り付け、国中を逃げ回らなければならなくなった。
そして、重要な大都市はさきほどロイ達が見た巨大な外壁と武装で守護し、市民や政治経済の混乱を防いでいる。
だが、当然に国民の誰もが安全な都市での生活を望むも、何百万人もいる全国民の暮らしを保障することができるはずもなく、外壁で覆われた都市には、国が住民の定員を定めているのだ。
否、正確には全ての国民を収容することはできる。だがそれでは国が成り立たなくなってしまうのだ。
人数を考えず手当たり次第に国民を都市に入れれば、なるほど、国民を巨神からは守れるだろう。
ではその場合、国民の生活はどうなるか? 定員限度を越えた人々は限られた物資を奪い合い、争い、スラムとそこに済む貧民達が街に溢れ、最悪の場合、内乱が勃発し国が崩壊してしまう。
一見すると、国の役人達が保身のために国民を見捨てたようにも見えるが、国の体系と秩序、しいては、せめて一部の人間だけでも人間的な暮らしをさせるために取った政策である。
そのため、市民権を持たない、外の人間であるロイ達は身分証と通行証を用意したうえで、限られた日数だけ滞在できるようになる。
勿論、滞在日数を過ぎれば役所に滞在料を支払い、滞在期間を延ばさない限りは強制的に追い出されるか、罰金を払うハメになる。
「まったく、毎度毎度、手続きがメンドクセーなぁ」
道路を走る途中で文句を垂れるロイの声に、ライナが口を開いたのはその時だった。
「だったら軍に入ったらいんじゃないの? 前の戦いで改めて見せてもらったけど、君たちなら大歓迎で迎えるし、この街に住めれば君達の生活だってずっと楽になるはずだろ?」
軍属になる、それは一番簡単に市民権を得る方法である。
外の人間が市民権を手に入れる方法は三つ、一つは市民権を持つ人間と家族になること、
例えば、ライナの養子か妻になった人間は無条件で市民権を得ることができる。
だが、中には市民権目当てで養子縁組を結ぶ者もいるため、外の人間と家族になるには国に結婚税や養子税を納めなくてはならず、その家族になる人間も街に住まわせていいかどうかを審査されることになる。
もう一つは、市民が死んだり、都市開発の過程で都市の定員に空きが出た場合に市民権が売りに出される場合である。
こういった時は、大抵裕福な商人などが街に店を構えるために買っていく。
そして最後の方法が公務員になることだ。
数ある公務員の中でも、巨神の闊歩するこの時代では国が富国強兵を目指しているので軍隊に入隊するのが非常に簡単である。
街の安全で豊かな生活を求めて遠くの村から兵隊に志願しに来る若者は多いが、こういった連中はたいてい巨神との初陣で死ぬか、戦場で逃げ回りロクな戦果も上げられず、一生を下級兵士のまま、尉官にもなれずに終わるのがほとんどだ。
「何言ってんだか、毎日決まったトレーニングやって自分より弱い上官に頭下げながら暮らすなんて俺は御免だぜ」
「そういうわけでボクも軍に入る気はありませーん」
「私もまだ軍に戻る気はありませんので」
「フラれたねえ、まっ、軍内部以外の人手っていうのも重要だからそれでもオジサンは構わないんだけど……」
肩を竦めて、ライナはハンドルを切り、曲がり角を右へ曲がる。
移動家屋用の超巨大道路を走りながらライナは艦の進路を自宅へと進める。
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