第12話 奇妙なロボ
「なるほどねえ、確かにそりゃ気になっちゃうよねえ」
前回の仕事の話に、ライナはアゴを撫でながら眼鏡を上げなおす。
「ああ、あの時、砂の中から出てきたクモ野郎は俺とカイが戦車野郎を倒して油断した瞬間を見計らって襲い掛かってきた。
どう考えてもリアの言うお粗末な人工知能でできる芸当じゃねえ」
ライナの顔から緩さが消え去り、途端に軍師の顔つきに変貌する。
元々、ミッションとプライベートでは雰囲気がガラリと変わるタイプの人間ではあり、その変化の瞬間を見る初めての人は動揺してしまうものである。
ロイ達も最初は「何だこの人は?」と違和感を覚えたものだ。
「高度な人工知能か、誰かに制御されているか、前者の可能性は低い、だがそれは後者も同じか……この件について、カイちゃんはどう考える?」
ちゃん付け以外に面影の残らぬ元楽天家の投げかけにカイも視線を落とし、しばし思案してから顔を上げる。
「差は大きいですが、アーゼル帝国、バルギア王国に次いで機械技術の進んでいるこのリブル共和国でも人工知能の研究はまださほど進んでいません、アーゼル帝国より高度な人工知能を作り出し巨神に搭載することも、巨神を自分達用に改造することも難しいでしょう」
カイの言うことは最もである。
そもそも、機械技術の高さは各国によって異なるものの、巨神を利用する研究をしている機関は存在しない。
なぜなら、技術的な問題もあるが、巨神とはこの大陸の人間達にとっては恐怖の対象であり、畏怖すべき敵であるため、心理的な問題として巨神を製造、もしくは改造して使おうとはしないのだ。
「でもまあ、何にせよだ……」
ロイはイスから立ち上がるとその双眸に闘争心を滾らせ握り拳を作る。
「ようするに巨神達とヤリ放題のケンカ祭だろ? 俺に任せとけって」
続けてリアも「任せておけってー」
喜び勇むバカ兄妹に呆れるカイをよそにライナは楽しそうに頬を緩めた。
巨神の軍勢、当然国軍も出るだろうし、ロイ達以外にも雇われた解体屋は多いだろう、だが、例えそうだとしても彼らの未来が楽観視できる状態に無いことは明白であった。
そして、艦の壁から突然の金属音がなる事で全員の表情が改まる。
何かがぶつかった衝突音、前方からしたのなら何かを跳ね飛ばしたで済むが金属音は確かに艦の側面から聞こえてきた。
大きさから考えるにかなり大きな、だが艦が揺れるほどでないことを考えれば巨神の一撃を受けたわけではなさそうだが、一応確認はする。
「リア、レーダーには何か映ってんのか?」
「何も無いよ、少なくとも巨神じゃないはず」
有効範囲は半径三キロ、その上ロイ達が乗っているような艦ほどの大きさがないと反応しない精度の悪さで、有効距離だけなら双眼鏡よりも劣るものの、全方位を一度に見れるのと最初から巨神の位置を知るための物なので以外と役に立っている。
ガジャン ガジャン ガジャン ガジャン
連続的な金属の衝突音はいよいよ無視できないレベルである。
たまらずロイは操縦室のドアを開け、外の様子を見ようとするが、同時に機械のヒトガタが目の前に飛び出して……
「おおおおお!」
奇怪な悲鳴を上げてロイはすかさず右ストレート。
人間サイズの機械人形は胸部を陥没させてブッ飛び荒野を転がっていった。
「なっ、なんだ今の!? 巨神……にしちゃ小さいよな?」
「あんな型は見たことが無いぞ、大佐殿、どうしますか?」
壁に立て掛けていた槍を手にするカイにライナはやや間を空けてから。
「そりゃやっぱ、やるしかないでしょ?」
言って、両手をコートの中に収めてから抜き放つとその手には大型のショットガンが一丁ずつ握られていた。
いくらコートでもそんなデカイ物を二つもどうやって収納しているんだという質問をするヒマもなくライナはロイが開いたドアから顔を出して艦の装甲に目を見張る。
艦の側面に張り付く成人男性よりも少し大きい程度の機甲兵達、サイズが一番の違いだったが、目の前の機甲兵には錆びが少なく、巨神のような機械の亡霊という印象が薄い。
「オーケー」
やや逡巡してからライナの両手の得物が唸る。
連続的に放たれ続けた弾丸は一発残らず機甲兵達のジェネレーターが搭載されているであろう胸部に撃ち込まれ、ただの一発ずつで全ての機甲兵は次々に艦から剥がれ落ちていく。
重力で荒野の大地に自然落下した機械人形達は慣性の法則で前転を繰り返し、全身をバラけさせながら後方へ流れていった。
「こういう時、遠距離攻撃できない人は辛いねえ」
「いや、銃なんて高級品使っている大佐があり得ないんだよ」
冗談めいた口調でからかってくるライナにロイが返すとライナは哄笑する。
「ハハハ、オジサンの武器は金と権力、喰らえ! 一発五〇〇〇ルードの弾丸をッ!」
わざわざ値段を発表されて鳴った発砲音と同時に、天井に上っていた機甲兵が転がり落ちる。
だがソレは荒野に落ちることなくライナの腕に抱きとめられて最後の一体である機甲兵は艦の中に引きずり込まれた。
「これで、おーわり、ほいよリアちゃん、お土産」
ジェネレーターの一撃、最小限の損傷で止められ、錆びを除けば、ほぼ無傷に近い機甲兵を差し出されてリアはハンドルを握りながら興奮した。
「やったー、ねーねー、これホントにもらっていいの?」
「もちろんさー、解体するもよし、改造するもよし、抱き枕にするもよし、いっそのことリアちゃんが人工知能を解析してみるのもいんじゃないかな?」
「う~ん、どれもおもしろうで迷っちゃうよー」
見たことの無い機械相手に目を光らせる妹にロイが小声で「機械オタクだから彼氏ができないんだ」と呟くと、後ろからでもリアの耳がピクリと動いたのが見えた。
おそらく、リアが運転をやめたのと同時に彼女の雷、もしくは彼女自身がロイに向かって降り注ぐことだろう。
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