望月之章
第七夜 1
小気味いい金属音が響いていた。
回れー! という仲間の励ましと歓声が遠くに聞こえる。空に届くように葉を伸ばした木々は夏の風をはらみ、ザワリ、ザワリ、と音を立てる。今日はからっとしていて、心地よい風が汗を乾かす。のんびりと野球を観戦するにはちょうどよかった。
そんな賑やかなグランドから目をそらすと、ゆきは「ふぁっ、あぁぁうおぉぉぉぉぉぉ……っと!」と例のあくびをつい、してしまった。
「真名井!」
「ス……スイマセン! ト……トイレへ……」
我慢ができないかのように、あわてて廊下へ飛び出す。トイレの前まで走り去ると、そろりと辺りを見渡した。「ふぁっ、あぁぁうおぉぉぉぉぉぉ……っと!」と、また一声上げると、ゆきはすとんすとんと階段を降りていった。
サボリ癖のあるゆきは、出席日数確保のため、終業式後一週間の補習を言い渡されていた。
「どんくさ」
スッと通った
「成績は悪ぅないんやけどなぁ」
「目、つけらてるからねぇ」
「アホや! アーホーやー!」
勝利を確信した
「やめなさい。バカとなんとかは高いところが好きっていうでしょ」
「……結構、好き勝手言うよね、みんな」
机にうつぶせになりながら、恨み言を言うゆきの頭を、まぁ、がんばりなさい、といった風に藤助がポンポンと撫でる。相変わらず保健室は賑やかである。
「そうだ! はい、これ」
はたと思い出し、花蓮は保健室の戸棚を開けた。どうやら、一角を私物入れにしているらしい。そこから取り出した青い布にくるまれた長い包みを、ゆきの前に差し出した。受け取るゆきの腕にズシッとした重みがかかる。
「ん? 何? これ?」
「開けてみ」
真にうながされ、包みの端に結わえてある、同じ色の組紐をほどく。中には、白木に包まれた刀が一本、入っていた。そっけないつくりの刀は、鯉口を切ると、刃に炎のような文様が青く刻まれている。青い文様は
「持っときなさい」
いつもの花蓮ではない、〝里の術士〟としての花蓮がそこにいた。
人狼退治の術をかけるのは、代々花蓮の家の役割である。
その昔、安倍晴明を祖とする土御門家の弟子と里の女性が恋仲になった。二人の間に子どもが生まれ、父親と同様の能力を有し、術を継承した。それが花蓮の家のルーツである。今は花蓮しかおらず、先日、京都に戻り作ってきたのだ。
「なんでわざわざ京都に戻ったの?」
「どうしても、遠い親戚さん達の力がいるのよ」
花蓮が浮かべた少し寂しげな笑みを見まいと、ゆきはまたグランドに目を移した。
〝遠い親戚さん〟と呼ぶ、
それはいずれ、ゆきと平太以外の四人が、行き着く未来だからだ。
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