第六話 若菜のクリスマスプレゼント
クリスマスの朝だった。僕は、教室で育てている小さなもみの木を見つめている。普段と変わらず、穏やかだなぁ。昨日櫻井さんと会話していたのが、夢みたいだ。呑気にしていたら突然、視界が大きく揺れて椅子から転げ落ちそうになった。
「若菜くん、おはよう」
僕の背後には、櫻井さんが立っていた。まるで、それが日常的な光景であるかのように。
「おは、よ」
勇気を振り絞って挨拶を返したのに、僕の視線の先に櫻井さんはいなかった。
「凄い!可愛い。このクリスマスツリー、若菜くんが作ったの?」
彼女は、小さな飾りを付けただけのもみの木を見ていたのだ。驚いた。瞬間移動でもしたのかと思ったじゃないか…。
「そうだよ。生き物係と言っても、基本的に植物しか育てていないんだ」
「楽しそう!私も何かやってみたい」
「じゃあ…、ちょっと早いけれどお正月飾りでも作る?」
「いいね!やろう」
残り数カ月で卒業してしまうけれど、今になってようやく、たった一人の友達ができた。友達一人作るのにこんなにも時間をかけてしまうだなんて、僕はなんて弱虫なんだろう、と思ってしまう。だけど、時間をかけた分、素敵な人と出会えた。それだけで、十分だ。沢山友達がいたって、中途半端な関係でしかないのなら、僕はたった一人だけの友人を大切にしたい。櫻井さんを、笑を、好きでいたい。
彩られてゆく世界に君とふたり 天音 いのり @inori-amane
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます