夏の日差しが作る日影のような色の濃い黒

「いつから惚れたのか?」


と、問われたら、シンプルに


「夏」


とだけ答えるようにしている。


 私と楓の間にある『夏』。

 それが共通していたから、私達はお互いに惹かれあった。

 心の中は、夏の日差しが作る日影のような色の濃い黒で支配されているくせに、表の顔ではそんなことを一切感じさせないように笑ってる。

 お互いに。


 でも、あの時。

 そう、夏の日に彼女が呟いた言葉で、私は惚れてしまった。


「夏といえば?」

 そんなことを言ったのは、美術教師。

 それをモチーフにして、絵を描けという。


 私の中にあるイメージはたった一つ。

 それは、クラスメイトの誰とも合わないであろうと思っていた。


 夏と言えば、私には死のイメージしかなかった。

 照りつける太陽と、無限に広がる雲に惑わされて、自分達の都合のいいように夏を陽性の季節だと思っている人の裏で、木影の中で死ぬセミが見える。

 また、盆で死を迎えるイメージもあった。

 そして、自分が歩くその地面に、昔死んだ人たちがいたのだということを……テレビがこの季節になると嫌というほど教えてきたからだ。


 だから、私にとって夏は死なのだ。


 でもそれを悟られないように、絵を描いていた。

 いわゆる、無難な絵というやつだ。

 でも、セミの死骸を小さく描いた。

 それを彼女は見つけたのだ。


「ああ、こういう風に描けば……自分を押し殺さなくて済むんだね」

 一瞬だけ、その心の内にある影を見せた。

 その時に、私は彼女と共通の秘密を手に入れた。

 濃い影の中で、互いの手を握り合えたような気がして、微笑んだ。


「そうだよ……こうやって出せばいいんだよ」

 わかっているのだという風に彼女に答えた。

 自分の考えが表に出たことにハッとしていた彼女が、私の言葉で微笑む。


 眩しい季節の中で出会った死を共にする暗い恋は、こうやって始まった。


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