窓際の机
卒業式が終わると、3年生の教室のあるフロアには誰もいなくなる。
つい先日まで人の温もりがあったのに、今では壁の冷たさしかない。
3ーBの教室に入り、窓側2番目の席へと近付いて、机をそっと撫でた。
飯野真弓の席。
何があっても「大丈夫だよ」って言うのが癖で、背が高くて声が少し低いのがコンプレックスだった彼女。
私を見下ろして
「もっと小さくなりたかったなあ」
と、身長の低い私には嫌味に聞こえることを本気で言っていたのを思い出す。
そのたびに
「身長差を半分にすればちょうどいいのにね」
と返していた。
「それができたらどんなにいいか……」
と嘆く真弓に唇を重ねるのが、楽しかった。
学校で会えなくなるのは、寂しかった。
彼女は大学に行くから、頻繁には会えない。
「次会うのは……」
なんて言いながら次回の約束をするなんて、付き合い始めた当初は思わなかった。
学校に行けば会えるのだから、約束なんていらなかった。
彼女の机の上に、雨が降り始めた。
私の目から出る、少し塩味のする雨。
「寂しいなあ」
机に向かって、そう呟いた。
「大丈夫だよ……先生」
真弓の声が聞こえた気がして、私は微笑んだ。
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