雪の眺め方
「あ、雪」
同居人である沙奈江の言葉を聞いて『今夜から降り出すでしょう』と言っていたアナウンサーの声が思い出された。
ああ、やっぱり降ったのか。
いつもとは違う寒さが、外にも職場にもあった。
風が吹くと痛く、そして静かな時はまるで時を止めてしまったかのようになる寒さ。
空の色はどす黒く、吐き出す先のない不満を抱えた人間のように見えた。
傍迷惑な天気だ。
社会人になった今では、雪を、電車の遅延に納期のズレに路面の凍結、肌への対策と着るものの選定……といったいつもと違うことを運んでくる『雪害』としか思っていない。
「迷惑だわ」
口をついて出た言葉を聞いた沙奈江が、私の頭にチョップを振り下ろしてきた。
「痛っ!」
彼女は私の頭を自分の手の側面を撫でている。
「綾ちゃん冷たい!あと、私だって手が痛い!どうすんの!」
「どうもしないわよ……おバカ。だって、迷惑なもの仕方ないじゃない」
「何が迷惑なの!」
「あんたも社会人なら迷惑でしょ。ただ地面を白く染める雪とやらに人間のシステムは大混乱、その迷惑の尻拭いをするのは私たち。雪が綺麗とか楽しいとか、そんなのはもう無いわよ。それに、無駄よ、雪が降った後に残るのは汚い塊じゃない。土と混ざれば雨と変わらない、それなのに表面だけ見て綺麗だね〜なんて無駄!」
一気にまくしたてると、沙奈江がもう一度チョップを振り下ろしてきた……が、私はそれを防御した。
反論できなくなるとチョップしてくるのは、沙奈江の癖だから、攻撃を読むのは楽だった。
「ズルい!」
「ズルくないよ、あんたがワンパターンなだけ」
「もう、綾ちゃんのバカ!」
「なんでバカなのよ」
「だって、せっかく2人で観られる景色なのに、明日の心配ばっかしてる。たまには明日のことじゃなくて今のこと考えようよ」
ハッとした。
そういえば、仕事に意識がいきすぎてた。
効率とか、計画とか、そういう機械的なことを優先しすぎていた。
でも、沙奈江にはそういうのが無い。
ただ、楽しいを見つけて、精一杯追いかけてる。
バカは、私だった。
「……そうね、ごめん」
沙奈江は満足そうに頷いて、私の頭を撫でる。
「大変素直でよろしい」
彼女はそう言うと、机の上にあったリモコンで部屋の電気を消して、片隅にあったストーブを消した。
隣の部屋から毛布を持ってきて、窓の側に座り、毛布で体を包む。
そして、私をその中に招いた。
頷き、その中に入って窓の外を眺める。
空から降る雪を眺めながら、沙奈江の温かさを感じる。
幸福を感じながら、今日からは雪が嫌いにならないだろうと、ぼんやりと考えた。
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