ホトトギス

「はい、これ。」

 お見舞いに来た私に、恵奈は折り鶴を渡してきた。

「これって……鶴じゃない。恵奈は貰う方でしょ」

「千羽鶴ってもう何回も貰ってて見飽きたんだよね~だから今度は私が作ってみました」

「私が貰ってどうするのよ」

「いいの、とりあえずちーちゃんが持ってて」

「はいはい」

「それだけだとまだ50羽しかいないから、これからどんどん作りますよ」

「いいから無理しないでよ、ほんと」

「わかってるわかってる」

 日に日に細くなっていく恵奈の腕を見るたびに、心が真っ黒になりそうになるのをこらえる。

「じゃ、私、帰るね。おばさんによろしく」

「うん、いつもよろしく言ってるけどね」

「はいはい……じゃあ、また明日」

「うん、また明日」

 病室を出て、貰った千羽鶴を鞄に仕舞おうとした際に、1羽だけ床に落ちてしまった。

 拾い上げる時に、字が透けて見えた。

 なんだろう?

 鶴を丁寧に1枚の紙に戻すと、折り紙の裏地に

「ちーちゃん大好きだよ」

と、書かれていた。

 ハッとして他の鶴も見てみると、うっすらと字が見える。


「バカ……こんなことしてる暇があったら……」


 それ以上の言葉が、出なかった。

 病室から出られない彼女。

 リミットが近いというのに、彼女は私のことをこんなに深く思ってくれているのがうれしい。

 だけど、その分悲しみも深くなっていく。

 だって、もう、彼女の終わりがうっすらと見えているから。


 そうだ、私も作ろう、折り鶴を。

 彼女への深い愛情を、1つの1つの折り目と文字に込めながら。


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