秘密の交換を
幼馴染のミユキは、嘘を言った直後に必ず口の右端を少しだけ上げる癖があった。それは、私以外は誰も知らない。
見破り方をわかっているせいで、彼女がどれだけ巧妙な設定で嘘の世界を作り上げたとしても、その癖が出た瞬間にわかってしまう。
嘘なんて嫌なものだけど、どうしても彼女の嘘だけは愛せてしまえる。
「ねえ、恭ちゃん。私ね、彼氏が出来たの」
クイッと上がるミユキの口元を確認すると、ふーんと言ってそのまま彼女の嘘に適当な相槌をうった。
これで、何人目の嘘彼氏だろうか。
毎回毎回、彼女も飽きないものだ。
もし、本当に彼氏が出来たらどうするのだろうか。
そう、もし……ミユキの隣に誰か知らない男の人が……。
その瞬間に、胸がチクリと痛んだ。
嘘をついて、毎日毎日まとわりついてくる彼女が自分以外の嘘をつく相手を見つけたら……。そんなことを思うだけで、痛みは増していく。
「恭ちゃん、どうしたの?なんだか悲しそうな顔してるよ?」
私の顔を覗き込む彼女に気付き、なんでもないと伝える。
嘘の中で生きる彼女が、愛おしく見える。本当ならこの嘘を止めさせなきゃいけないのだろう。だけど、今は止められない。
それが、絆だと思うから。
ミユキは私に嘘を。
私は、ミユキに束縛を。
互いの仄暗い秘密を無言で交換して、私達は沈んでいく。
息苦しくなるのはわかっている、けれど、もがきたくはない。そのまま沈んでいきたい。
「ねえ、本当に大丈夫?恭ちゃん」
「うん、大丈夫だよ」
「私、恭ちゃんに何かあったら心配だよ」
そう言った彼女の口の端が上がったのに気付いたくせに、私は何も見てないフリをして、あはは、大丈夫、とだけ言って笑った。
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