水滴
うだるような暑さの中で、誰かを呪う事は『当たり前』と言ってもいいかもしれない。
クーラーの壊れた部屋の中で、美月はそんなことを思いながらグラスに入っていた氷の浮かんでいる麦茶を飲み干した。コップを傾けると、氷がグラスの底を叩き涼しげな音を出した。
フローリングでぐったりとしている沙代が目を開けて、美月の方に視線を投げる。
「氷……」
たかだかクーラーが無いだけなのに、蛍がすぐに死んでしまう事を悲しむ少女が出てくるあの映画のワンシーンのように、沙代は掠れた声でそう呟いた。
「はいはい、そういう小芝居はいいから」
にゅっと口を尖らせる沙代は、抗議をしているようだった。
「いいじゃんよー、ぶーぶー」
「はいはい、で、食べるの?」
「食べる。ほい、口に入れて」
天井を向いて口を開き、目を閉じた沙代の唇に、氷を運んだ。
自分の口を使って。
微かな驚きの後、少しだけ唇を重ねて、沙代は舌で氷を奪っていった。
「バカ、余計熱くなる、バカ、バカ、バカ……」
そう言いながら、クッションに顔を埋めて足をバタバタとさせていた。
どこかでセミが鳴き始めて、それにビックリしたかのように、グラスに付いていた水滴が机の上に滑り落ちていった。
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