第6章
第42話 死にたい私の存在価値
テスト明けの月曜日、答案返却日がやってきた。私はいつものように返されたテストと解答用紙を見比べて間違いがないか探す。しかし見つからない。この学校の採点はいつも丁寧で見直しの必要性を感じられない。
そして今回のテストの結果は……。
「び、微妙……」
暗記科目は当然のように満点を取れたが、他の科目で変なミスが多い。特に二日目、三日目のテストが酷く、二教科も七十点代になっていた。
前回の期末テストより総合点数は低いが満点の数は多い。一位を狙える点数はありそうだけど不安しかなかった。思わず頭を抱えてしまう。
「わぁ、毎度のことながら満点がいっぱいだねぇ」
そんな私の前に
「そうだけど喜べないよ。点数落ちたし、七十点代が二つもある」
「いやいやいや、完璧に感覚麻痺っちゃってるよ! 七十点代は落ち込む点数じゃないから! 十分凄いし、七十六点七十九点は最早八十点のようなものだって! あたしなんか平均点で喜ぶんだから」
「そうなんだ。ごめんね、なんか自慢みたいになっちゃって」
「んー……まぁ目指す場所の違いだし仕方ない気もするかな」
「ちなみに
「ノーコメントで」
言い終える前に遮られてしまう。もしかして凄く悪かったのかな。
「そんな哀れみの目で見ないでよ! そんなに悪くないって! 平均以上だから!」
「あ、そうなんだ。いつもよりも良かったんだから喜べばいいのに」
「そうなんだけど、やっぱり前とのギャップがね。分からない場所があるときのむず痒さが凄かった。今まではそんなこと微塵も感じなかったのに」
「……と、話してたらそろそろ順位表貼られる時間じゃない? どうする? いつも通り先にご飯食べる?」
時計を見れば十二時五十分となっていた。あと十分もすれば廊下に上位五十名が貼られる時間だ。
「いや、今日は見に行きたいかな。なんだか今のままじゃ何も喉を通らない気がするよ」
「あはは、珍しいね。緊張でもしてるの? 高校一年生から不動なのに」
「そうなんだけど、ね」
胸が落ち着かない。いつも不安で仕方ないけど、それとはどこか違う気がする。なんだか気分が悪い。嫌な感じだ。早く解放されたい。早く順位表を見て落ち着きたい。
――なんて、いつから私は傲慢な性格になっていたんだろう。
どうせ今回も一位だ、慌てるだけ無駄。なんて、心のどこかで思っていたのかもしれない。
順位表を見れば落ち着ける?
違う。私が一位だと分かれば落ち着けるのだ。
じゃあ……。
――私が一位じゃなければどうすればいいの?
軽く目眩がした。もう一度順位表を見る。
一位、一番上に私の名前がなかった。そこにはいつも順位表に載っている人の名前が書かれていた。
私は十三位、十三……位。
周囲の喧騒が妙に耳に障る。胸のつっかえが取れてくれない。逆にいつもより胸が早鐘を打ち付けて苦しくなる。
「あれ?
「何言ってんだ、十三位のところにあるだろ」
「あれ、
「ホントだー、不動の女王没落って感じ?」
「にしても
「ほんとそれ。あれだけ勉強して順位落とすことあるんだね」
笑い声が聞こえる。私を嗤っているのかな。
みんなが話してる。私を馬鹿にしているのかな。
「てかさー、
やけにはっきり聞こえた。まるで直接私に言われたみたいに。
「す、
「――ッ」
走り出していた。目頭が熱い、肩が震える、息がしづらい。とにかくどこか、誰もいない場所に行きたかった。
女子トイレに駆け込み個室で座り込む。
どうして、どうして、どうして。
いつもより勉強したのに。今回はいつもより重要だったのに。
なんで、なんで、なんで。
なんで今回に限って。これでお母さんの体調が悪化したらどうしよう。
「ぁ、ぁぁぁぁ……」
小さな嗚咽が漏れる。高校生にもなって自分のことで泣くなんて情けない。泣いたところで誰も解決してくれない。
分かっているのに、止まらない。
「――っ」
ドアが開く音がして呼吸が止まった。思わず顔を上げる。
もしかして
「あー前回より点数下がったわ~」
「流石に教科数多かったのに遊びすぎたね」
「親は『帰宅部だから勉強しろ』とかいうけどさ、みんなが部活楽しんでる間にわたしらは遊んでるだけだし」
「なんか部活している方が偉いみたいな考え方やめてほしいわ」
「ほんとそれ」
聞けばクラスメイトの声だった。休み時間に
「テストと言えばさぁ、あの
名前が出てきて体が震えた。一瞬気付かれたかと思ったけど、本人の目の前でこの話はしないか。
「あぁ、
「一位取ることしか取り柄ないやつが取り逃してどうすんのってね」
「あはは。ほんと存在価値ないんじゃないの」
「どうせ
「もう一位じゃないし、関わるのやめたりしてね」
「「アハハハハハ」」
自分を守るように耳を手で塞ぐ。現実から逃げるように目を瞑る。それでも彼女らの嗤いは容赦なく私の耳に入ってきた。
分かってたことだ。私の価値なんて勉強しかなかった。
私は
そんな私に
いや、考えなくても分かることだ。中学のときに経験したじゃないか。
私は……高校でも独りだ。
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