第3章

第17話 死にたい私のお墓参り

 日曜日の朝。私は『彼女』の墓地へ来ていた。


 本当ならあと一週間ぐらいは来ない予定だったけど、急に会いたくなったのだ。これから相原あいはらくんに『彼女』のことを話すからかもしれない。まだ確定ではないけど私の話をする以上、『彼女』の話は必須だろう。


 目的のお墓の前に立つ。以前に供えた花は枯れており、水もなくなっていた。私以外に誰か来た痕跡がない。生前はあんなにも人気だった『彼女』が死後は誰も会いに来ないなんて、哀切極まれない。


 それともこれが普通なのかな。


 濡らした布で墓石を拭き、花と水を変え、生えている雑草を抜きとる。そんな作業を黙々と続け、全て終わると火をつけた線香を備えた。


「おはよう。最近は全然来られなくてごめんね。中間テストの勉強で時間がなかったんだ。テストの結果なんだけど今回もなんとか一位取れたよ。私にしては凄いでしょ」

『うん。よく頑張ったね。偉いよ、涼音すずね


 『彼女』が生きてたらこんな風に言ってくれるのかな。頭で声がイメージされる。


「時間の流れって早いよね。もうすぐ三年が経つんだよ。だけどさ、全然昔のような生活にならないんだ。時間が解決してくれるなんて甘い考えだったのかな?」


 聞いても当然答えは返ってこない。『彼女』の正しいはずの答えはもう聞くことができない。


「私は代わりになれないよ。なんでも上手くできるわけじゃないし、周りを、家庭を明るくすることもできない。なのにどうしてこんな私を生かしたの?」


 返ってこない。分かっているのについ聞いてしまう。


 先ほど拭いた墓石に優しく触れる。ひんやりとしていて私の手まで冷たくなる。それは死後の『彼女』を彷彿とさせた。


「そういえば今日待ち合わせをしてるんだ。相原あいはらくんっていう同学年の男の子でね、私が池に転落したときに助けてくれたんだ。そのときは『なんで助けたの‼』ってつい怒っちゃった。ほんと、おかしな話だよ。命の恩人にする対応じゃないよね」


 昨日の自分を思い出してつい自嘲気味な笑みを零す。


「でもさ、やっぱり私もそっちに行きたいと思うことがよくあるんだ。自殺をする勇気もないくせに『死にたい』『死にたい』って呟いて。口だけで行動もせず。だから昨日のあの場面は私にとって好都合だったんだよ。何もしなければ死ねた。そっち側に行けた」


 そんな私は今生きている。私はいつになったら死ぬのだろうか。


「今日も愚痴ばかり吐いてごめんね。また来るよ」


 墓地を後にする。これから会う人を考えると、胸の鼓動が速くなった。


 ……やっぱりまだこの話をするのは抵抗があるのかな。

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