第18話 死にたい私と待ち合わせ
一度家に帰った後に私は『フォレスト』へ来ていた。
「いらっしゃいませー! お、学年一位さんじゃないか。今回は
接客にマスターさんがやってくる。どうやらここで話すことを前もって言っているらしい。
「今回は場所をお借りしてすみません。あと、その呼び方はできればやめてほしいです」
「ははは。ごめんね。それが第一印象なもので。確か
「はい」
「今度からそう呼ばせてもらうよ。
マスターさんの後を付いていき奥の席へ向かう。マスターさんの言っていた通り既に
「ごめん、待たせちゃったかな」
「俺が予定よりも早く来たんだから気にしなくていいよ。それにまだ五分前だからな。流石優等生」
「それを言ったら
「マスター、おかわり注文していい?」
「はいよ。
「あ、私はカフェオレのホットで」
「了解しました。少々お待ちくださいね」
そう言って奥へ向かうマスターさん。二人だけになり居心地の悪さを覚える。脳裏に浮かぶのは昨日の言葉。
『
はたと気付いたけど、コレってデートじゃないよね⁉ 男女二人でカフェデート……。
「ん? どうかしたか?」
私の様子を見て
「えーっと、昨日のこと考えていてね」
「あー……本当に散々な日だったな。寒中水泳して、
「本当に迷惑をおかけしました」
「わざわざ謝らなくていいって。昨日も謝っていたし、もう過去の話。今では笑い話さ」
ははは、と
「お、楽しそうな雰囲気だなぁ」
そこでタイミングよくマスターさんがやってきた。持ってきたカップを私たちの前に丁寧に置いていく。
「今日来たときに言いましたよね? 昨日の話です」
「あー、
「マスターでもいざというときならできますよ」
「そうかな? まぁいいや。それじゃ、邪魔者は退散するよ」
手をぶらぶらと振ってマスターさんが去っていく。また、二人きりになる。だけど今回の沈黙はすぐに打ち破られた。
「それじゃ、聞かせてくれるかな。
大きく息を吸い、吐き出す。大丈夫、ちゃんと話せるはず。昨日何を言うかは整理したんだから。
「私は――」
瞳を閉じる。何を話すか再確認する。そっと目を開けた。
「私は疲れたんだ。毎日勉強するこの日々に。普通に勉強していい順位を取れたら楽なんだけどさ、私みたいな凡人がテストでいい結果を取るには他の人より量で補うしかないんだよね」
口が乾いてきたのでカフェオレを少し飲む。
簡単に言えばこんなところだろうか。要するに私は楽な方へ逃げたいのだ。死という名の逃げ道に。でも、私には死ぬ勇気がない。だから死ぬことができる場面に遭遇して、でも助けられて、つい逆ギレしてしまった。
「そこまで頑張る必要はないと思うぞ。確かに勉強は大事だ。今後、大学へ行くためにも就職するためにも重要になる。だけど
「……一位を取りたいとか言った覚えないよ。より良い順位を取りたいってみんな思うことじゃない?」
「何言ってるんだ。
でも、これはなんのために集まったの? 私が過去の話をするためでしょ? 甘えるな、
「……『彼女』はいつだって一位だったから」
「彼女?」
これは私の逃げ場をなくすための言葉。私が『彼女』の話に入るために敷いたレールだ。もうこのレールに沿って話すしかない。
ゆっくりと息を吸う。しかし出てこない。いう言葉が決まっているのに喉に引っかかる。
これからの話は家族とさえ話さない。今の私が生まれた原因の人物。
だからか、先程のようにスラスラと声になってくれない。いくら逃げ道が消えても、レールを敷いても前へ進む勇気ある一歩を生み出せない。私は本当にダメな人間だ。
暑くもないのに変な汗が額に浮かぶ。こんな自分が腹立たしくて唇を噛む。でもこの話をスムーズにできそうなときがあった。確かあのときは……。
「あの、そっちのイスに座ってもいい?」
「あ、うん。じゃあ俺がそっち側に座るよ」
「そうじゃなくて、えっと」
自分から言うのが恥ずかしくて頬が火照る。それでも『彼女』の話をするためだ。やむを得ない。
「隣に座っても、いいですか?」
「隣……か。
承諾も頂いたので席を移動して
うん、やっぱりコレが一番落ち着く。独りじゃないって分かる。
すると先程まで喉で止まっていた言葉が流れてきた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます