番外六話 初デート

 五奇いつき鬼神おにがみが付き合いはじめて一週間が経った。その間……特になにも起こらず日々が過ぎて行った。


(なにも変わらないんだよなぁ……)


 朝。目覚めて自室から出た五奇は、のんびりとそんなことを思いながらリビングに向かった。等依とういと乙女はまだ降りてきてないらしく、珍しく空飛あきひが朝からリビングにいた。


「おはよう空飛君。今日は珍しく早いんだね?」


 声をかければ、空飛は眠そうな顔で答える。


「おはようございますです、はい。今日は、朝からサーシャとの面会なのでございます」


「そっか、それで早起きしたんだ」


「はい、五奇さんはどうされたのでございますか?」


 訊かれて思わず言葉に詰まってしまう。特に深い理由がなかったからだ。しばらく悩んでいると、空飛が何か察したかのように口を開いた。


「あ、もしや鬼神さんとデートでございますか! それはいいでございますね!」


「えぇ!? あ、いや……その……違くて……!」


 弁明しようとしていた時、背後から声が聞こえて来た。


「……デートだぁ? おい、五奇……」


 慌てて振り返れば、そこには顔を真っ赤にした鬼神がいた。彼女は身体を震わせながら、声を荒げる。


「てめぇ! なんでそんな大事なこと先に言わねぇんだ! 待ってろ! 準備してくっから! いいな!?」


「えっ! あ、ちょっと!」


 完全にデートと思いこんだ鬼神が自室に急いで戻って行く。それとすれ違いに等依が不思議そうな顔でおいてきた。


「おっはー。って五奇ちゃん、どうしたん?」


「……等依先輩! 助けて下さい!」


 事情を説明すると、等依はすぐさま理解し、五奇の両肩を二回軽く叩き、呟いた。


「五奇ちゃん、ここは男を見せる時っスよ……!」


「等依先輩まで!」


 いよいよ逃げ場が無くなった五奇は、人生初めてのデートをすることになったのだった。


 ****


「……おい」


「……はい」


「ここをチョイスした理由を言いやがれ」


 五奇はしばらく悩んだ末、五奇はゆっくりと口を開いた。


「色々悩んだんだけど……その、ここが一番かなって……思ったんだけど、どう……かな?」


 二人が今いるのは、動物園だ。ちなみに、ここまで等依が車を出してくれた。ちなみに、このデートコースを考えてくれたのも彼である。

 五奇は彼に感謝しつつ、鬼神の反応を伺う。


「……どうせ、てめぇが考えたコースじゃねぇんだろ……?」


 あっさりと見抜かれて、五奇は潔く謝罪する。


「ごめん、鬼神さん! 俺じゃ、思いつけなくて……! 本当にごめん!」


「……乙女」


「えっ?」


 下げた頭を少しだけ上げれば、鬼神は顔を赤くしながら五奇の方へ視線をやる。


「俺様のこと、ちゃんと『』って呼んで……今日一日……俺様に時間捧げるんだったら赦してやるよ」


 予想外の彼女の言葉に五奇は目を瞬かせる。脳が理解するまで数分かかったが、理解すれば五奇の頬も赤く染まってしまう。


「あ、うん。その……行こう、か? お、


「……おう」


 二人は手を繋ぎ、ゆっくりと動物園の門をくぐる。デートは始まったばかりだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る