番外六話 初デート
(なにも変わらないんだよなぁ……)
朝。目覚めて自室から出た五奇は、のんびりとそんなことを思いながらリビングに向かった。
「おはよう空飛君。今日は珍しく早いんだね?」
声をかければ、空飛は眠そうな顔で答える。
「おはようございますです、はい。今日は、朝からサーシャとの面会なのでございます」
「そっか、それで早起きしたんだ」
「はい、五奇さんはどうされたのでございますか?」
訊かれて思わず言葉に詰まってしまう。特に深い理由がなかったからだ。しばらく悩んでいると、空飛が何か察したかのように口を開いた。
「あ、もしや鬼神さんとデートでございますか! それはいいでございますね!」
「えぇ!? あ、いや……その……違くて……!」
弁明しようとしていた時、背後から声が聞こえて来た。
「……デートだぁ? おい、五奇……」
慌てて振り返れば、そこには顔を真っ赤にした鬼神がいた。彼女は身体を震わせながら、声を荒げる。
「てめぇ! なんでそんな大事なこと先に言わねぇんだ! 待ってろ! 準備してくっから! いいな!?」
「えっ! あ、ちょっと!」
完全にデートと思いこんだ鬼神が自室に急いで戻って行く。それとすれ違いに等依が不思議そうな顔でおいてきた。
「おっはー。って五奇ちゃん、どうしたん?」
「……等依先輩! 助けて下さい!」
事情を説明すると、等依はすぐさま理解し、五奇の両肩を二回軽く叩き、呟いた。
「五奇ちゃん、ここは男を見せる時っスよ……!」
「等依先輩まで!」
いよいよ逃げ場が無くなった五奇は、人生初めてのデートをすることになったのだった。
****
「……おい」
「……はい」
「ここをチョイスした理由を言いやがれ」
五奇はしばらく悩んだ末、五奇はゆっくりと口を開いた。
「色々悩んだんだけど……その、ここが一番かなって……思ったんだけど、どう……かな?」
二人が今いるのは、動物園だ。ちなみに、ここまで等依が車を出してくれた。ちなみに、このデートコースを考えてくれたのも彼である。
五奇は彼に感謝しつつ、鬼神の反応を伺う。
「……どうせ、てめぇが考えたコースじゃねぇんだろ……?」
あっさりと見抜かれて、五奇は潔く謝罪する。
「ごめん、鬼神さん! 俺じゃ、思いつけなくて……! 本当にごめん!」
「……乙女」
「えっ?」
下げた頭を少しだけ上げれば、鬼神は顔を赤くしながら五奇の方へ視線をやる。
「俺様のこと、ちゃんと『
予想外の彼女の言葉に五奇は目を瞬かせる。脳が理解するまで数分かかったが、理解すれば五奇の頬も赤く染まってしまう。
「あ、うん。その……行こう、か? お、
「……おう」
二人は手を繋ぎ、ゆっくりと動物園の門をくぐる。デートは始まったばかりだ。
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