第148話 確実に動き出す

 ジンはジゲン達と応接室を退室した後、庭で刀を振っていた。


「兄さん、その辺にしときなよ。せっかく正装してるのに、汗なんてかいたらジャスにどやされるよ」


「これがっ!落ち着いてっ!いられるかっ!」


 ジンは刀を振りながら、リュウキにそう返答すると、リュウキが声を上げる。


「あ!リナリーさんだ」


「なに!?」


 ジンはすぐに素振りを止めるとリュウキの見ている方向に顔を向ける。そこには和かにこちらに手を振るリナリーの姿があった。

 和かなリナリーにひとまず安心したジンは、ため息を吐くと刀を鞘に仕舞い、リナリーの側まで歩いていく。


「母上との話し合いは終わったの?」


「はい」


「そうか」


 何事もなく終わったことに再度胸を撫で下ろす。

 一度ほっとしたらルイとリナリーがなにを話していたか気になり、素直に聞くことにした。


「母上となにを話してたんだ?」


「......」


 リナリーがジンの問いかけに黙ったのでジンはリナリーの顔を覗き込みながら確認する。


「リナリー?」


「内緒です」


「え?」


「女性同士の話し合いの内容を聞きたがるなんてジン様はハレンチです」


「そうなのか!?」


 ジンはまさか女性同士の話し合いの内容を聞くことがハレンチな行為であると言うリナリーの言葉を間に受けて、衝撃を受ける。

 単にリナリーは話の内容をジンに伝えるのが恥ずかしくてそう言ったのだが、ジンはハレンチと呟きながら、今までの自分の行動を振り返り、同じことをしていなか、記憶を探っていた。

 リナリーは頭を抱えるジンに少しだけ罪悪感を抱いて、ジンの腕を取る。


「ジン様、それよりもリナリーは少々、緊張で気疲れました。一緒に休憩しましょう!」


「ん、ああ、そうだな」


 二人は比較的日当たりの良い芝生に二人で腰掛ける。リュウキを探したがどうやら空気を読んでリナリーがこちらに来た時点で、どこかに行ったようだった。

 ジンはそこまで気を使わなくても良いのにと思いながら、風になびくリナリーの髪を右手で軽く弄る。

 特に理由のないその行動は、昔では無かった行動だ。ジンが訳も無く、人に触れると言うのはジンなりに心を開いている証拠だった。それを理解しているリナリーはくすぐったそうに、ジンの右手を受け入れている。

 結局そのあとは何事もなく。二人は穏やかな時間を過ごして、その日は解散となるのだった。

 ちょうどその日の夜。別の場所。ある部屋の一室ではジンについて話している男達がいた。


「おい、貴様の言った通りにしたが次はどうするのだ」


「はい。今回の留学の件はロイ殿下の生徒会長と言う立場にはどうあっても手出しが難しいですからね。なので今回はこちらの地盤を固めることに注視しましょう」


「っち!こうしている今も、俺のリナリーが奴のそばにいると思うと......ああ!腹立たしい!しかも、奴と一緒に留学だと?この俺を差し置いて!何様だ!」


 そう言うと男は近くにあったゴミ箱を蹴飛ばすと、ゴミ箱は音を立てて転がると、カーテンを巻き込み、カーテンの隙間から、月の光が差し込み、ドールの怒り狂った顔が月明かりに照らされる。


「まぁ、落ち着いてください。婚約というだけなら純血を失うことはしないでしょう。リナリー・フォルムは侯爵家令嬢です。家がそれを許さない」


「そんなことはわかっている!だがな!」


「落ち着いてください殿下。このままうまく行けば、いつかは手に入る存在です。我々の大義の為に今はどうかご辛抱ください」


「......っち!」


「今回のこのタイミングを逃す手はありません。この前お伝えした通り、彼らをこちらに取り込む為、ことを進めましょう。殿下、お願いします」


「.......」


「殿下」


「わかった!だが、約束は守れよ!」


「必ず」


 ドールは自分が蹴ったゴミ箱で、少し開いたカーテンを不機嫌そうに戻すのだった。

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