第146話 顔合わせ

 それから何事も無く一週間後、朝のホームルーム。


「ええ、今月も残すところあと一週間だ。この一週間が終われば本格的に火王祭が始まる。それと隣国であるホイル王国からの交換留学が計画されている。今回の留学はお試しと言う事で期間は約三ヶ月、火王祭の期間留学される。彼方からはレーダス王子御一行が来る予定になっている」


 エドワードの話でクラスがざわめく。レーダス王子の評判は良く。才色兼備と声高い人物で主に女子生徒の声が大きい。


「そしてこちらからは、うちのクラスのジン、リナリー、ノア、イーサンが交換留学という形になる」


 その話をした途端、ざわついた教室が静かになる。


「これは武園祭の結果と家柄で選出されている。一切の異論等は認めないので、何かあっても私に言っても無駄だからな」


 こうして朝のホームルームが終わり、授業が開始される。

 ジンは最近謎の違和感に悩んでいた。それはあれだけ毎日毎日絡んで来ていたコールやドールが絡んでこなくなったからだ。

 平和で個人的には嬉しいが、急にそうなれば誰だって違和感を覚えるだろう。

 だからといって、何かできるわけでも無いので、割り切って平和な日常を過ごしていた。

 平和な日常を送れば日常とは早いもので、今月も残り四日になると同時に留学まで一週間を切った。

 そして本日はジンとリナリーにとって大事な日になるのだった。


「ジン坊ちゃん、リナリー様がご到着されたようです」


「......そうか」


 ジンはいつになく緊張していた。先日まで今日は楽しい一日になると思い、それを疑っていなかったが、ジゲンのあの言葉でその認識が覆った。


「坊っちゃま?」


「ああ、すまん。今行く」


 ジャスに顔を覗き込まれてジンは思考の海から帰ってくると心地ない笑顔でそう言った。

 ジンがジャスを伴って玄関に向かうと、もう既にジゲン、ルイ、リュウキと全員集合していた。

 ジンが全員の隣に並ぶとちょうどジョゼとリナリー、オードバルが玄関に入ってきたところだった。

 リナリーがオオトリ家の全員に気付く。


「お初にお目に掛かります。リナリー・フォルムです。本日はお招き頂き、ありがとうございます。後ろに控えるのはフォルム家家令のオードバルです」


 そう言い終えるとリナリーとオードバルが優雅に一礼する。それに倣ってジン達も一礼を返す。


「よく参られた。ジャス、頼む」


「はい」


 リナリーの礼はいつもに比べると少し固いなと思いながら頭を上げてルイを確認するが、いつもと変わらないニコニコしているルイにジンは少し胸を撫で下ろす。

 ジンがリナリーのそばまで歩いて行き、手を差し出す。


「歓迎するよ」


 ジンの手をリナリーが取ると、ジャスがすぐにこちらにと全員を誘導する。

 全員が応接室に着くと、いつもの席に座り、リナリーとジンが隣り合って座る。


「えっと」


 ジンは顔合わせといってもなにをすればいいのかわからないので少々考える。

 するとリナリーが最初に口を開いた。


「繰り返しになりますが、本日はお招き頂きありがとうございます。ジン様と婚約してからいつかはと思っておりましたが、挨拶が遅くなってしまい、誠に申し訳ありませんでした」


「気になさるな、リナリー嬢。わし達もバタバタしていて手が回らなかった。こちらにも多分の落ち度がある」


「そう言って頂けると幸いです」


「では、まず紹介をさせてもらう。わしはジゲン・オオトリ、リナリー嬢とは何度か会っているが、まだ小さかったからな、覚えてはおらんだろう。そして、隣にいるのが妻のルイだ」


「ルイ・オオトリです。よろしく」


「その隣は、次男のリュウキだ」


「お久しぶりです」


 リュウキはルシアンとよく遊んでいるので、リナリーとは何度か会ったことがある。

 それからジゲンはジャスとジョゼを紹介すると、一息ついて、咳払いをしてから喋り出す。


「オホン!ではわしたちは一旦退室させていただく。ではまた後ほど」


 そう言うとジゲンが立ち上がるのでリナリーは少し強張る。ジンもジゲンの行動の意味がわからずに待ったをかける。


「ちょ、まだ始まったばかりだぞ?」


「お前も来い、それとリュウキもだ」


「え?僕も?」


「ちょっと待ってよ。どういう事?」


 ジンは自分まで退室しろと言われて困惑する。

 だが、この時ジンはジゲンの目配せに気づく。ジゲンの視線はルイをチラチラと見ていた。


「これは母上の差し金なの?」


「......」


 ジンがそういうとルイは今までの笑顔を消してジンと視線を合わせる。


「ジンちゃん。リュウキちゃん。少しお父さんと外に出ていなさい」


「でも」


「でもはありません。これは譲れない事なのです」


 ルイのキッパリと言い切る態度にジンはルイがこうなった時は何を言っても無駄であることは知っているのでどうするか悩んでしまう。するとここでジンの袖を引っ張るリナリーに気付いて、リナリーと目を合わせる。


「ジン様、ここはルイ様の言う通りにしましょう。男性には男性付き合い方があるように、女性には女性のそれがあるのです」


「しかしな」


「ジン様!私を信用できないのですか?」


「うっ!わかった」


 ジンはリナリーにそう言われればなにも言えないので、立ち上がる。珍しくヒヤヒヤしているジゲンとなにがどうなっているかわからないリュウキを伴い、リナリー、ルイ、ジョゼを残して、ジン達、オードバル、ジャスは応接室から退出するのだった。

 ジンはゆっくり閉まる扉の間から向き合う二人を見て、頭を抱えそうになるのだった。

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