第145話 理由
リナリー達がノアの家に行っているちょうどその日、ジンの家にも来客が来ていた。
「そんなに周りを見たって何も珍しいものなんてないぞ?」
「う、すまん」
ジンがそう言うと来客であるテオが謝るが、謝る程のことでもないとジンが言って、ある一室に案内する。
ジン達が部屋の前に着き、ジンがドアをノックすると中から男性の声で入れと返ってくるのでジンがドアを開けて部屋に入る。
ジン達が入ると正面に書類に目を通しているジゲンがおり、いつも通りジゲンの前に向かうジンを追ってテオがギクシャクしながらついていく。
「ごめん、仕事中。この前言ったテオを連れてきた」
ジンが紹介するとテオは両手両足を同時に出しながら二歩前に出て頭を下げる。
「テオといいます!救国の英雄であるジゲン様とお会いできて光栄です!!」
「む」
この時初めてジゲンが資料から顔を上げてテオを見る。
「おお!君がテオ君か!よくきた!そっちに座ってくれ。ジャス、一度休憩にしよう」
「はい、旦那様」
ジゲンが嬉しそうに立ち上がると、書斎にある椅子へテオを誘導する。
「いやぁ、息子が友達を連れてくるのは初めてでな、いやはや、こんなに嬉しいとはな」
「親父殿恥ずかしいから、そんなにはしゃがないでくれ」
「なに?」
そしてジンとテオが長椅子に隣同士で腰掛け、その対面にジゲンが座る。
暫くして、ジャスが紅茶を人数分用意すると、ジゲンの後ろに控えた。
「さて、珍しくジンが友人を連れて来たわけだが、どうやらわしに用があるとか」
「は、はい!その俺、じゃ無くて、私強くなりたくて!」
「がはは、いつも通りで構わんよ。それで強くなりたいとな?」
「はい!」
「ふむ、なぜそう思う」
「え?」
「強くなりたいと言うのは簡単な事だとは思う。が、強くなるには理由がいる。それが強くなっていく過程で力にもなり、苦しい時に踏ん張る事ができる。だから聞こう、強くなりたいと思う理由を」
「えっと......ジゲン様も知っての通り、この前の遠征で俺たちの隊は盗賊の襲撃に遭いました。隊長を目の前で殺され、ここにいるジンも怪我を負いました。正直その時は混乱で思考が回らず、なんの役にも立ちませんでした。しかも怪我を負ったジンがノア様を救出するために盗賊のアジトにイーサンと行く背中を見送るしかできなかった。その背中を見て思ったんです」
「ふむ」
「せめて、せめて足手纏いにならないだけの強さが欲しいと。友人の背中を見送るのは嫌なんです!」
「そうか」
そう言ってジゲンが黙るのでテオも黙る。ジンもテオがなぜ強くなりたいかまで聞いておらず、今のが初耳だったので、驚きはしたが、なにも言わずジゲンの答えを待つ。
「......あい、わかった。わしに任せておけ」
「っ! ありがとうございます!」
「すまんがわしが教えるわけでは無いが、信頼のできる者に紹介しよう」
「ありがとうございます!!」
「よかったな」
「ああ!」
顔を輝かせるテオにジンは自然と笑みが漏れてしまう。
ジゲンが紅茶を口に含み、一息着く。
「それで?用というのはそれだけか?」
「えっと、はい」
「そうか、名残惜しいが、まだ仕事があってな、そろそろ」
「あ!はい!すみません!」
「じゃ、行くか」
「ああ!」
二人が立ち上がり、テオはジゲンに頭を下げると出口へと向かう。
「ああ、そうだ」
二人が部屋から出ようとした時、何か思い出したようにジゲンが声を上げるので、二人が振り向く。
「ジン、お前は少し残れ。ジャス、テオ君を少しの間、応接室でおもてなししてさしあげろ」
「はい」
そういうと、ジャスがテオに手招きをして、応接室まで誘導して、部屋から出ていくのだった。
部屋に残ったジンが体ごとジゲンに向き直る。
「用って?」
「いい友だな。また連れて来い」
「なんだよ、急に」
「テオ君は見込みがあるな!うん!」
「??」
「そのな、リナリー嬢が今度うちに来るだろう?」
「え?ああ、うん」
「リナリー嬢とルイは初対面だったな」
「それがどうしたのさ?」
「まぁ、なんだ」
「どうしたのさ」
「覚悟しておけ、それだけだ」
「え?」
「テオ君を待たせるな。ほれいけ」
「ちょ、どういう意味さ!」
「いいから、去ね去ね!」
そう言って、止めた本人にも関わらず、ジンの背中を押して、部屋から無理やり出すのだった。
ジンは音を立てて閉まったドアを眺めて、ジゲンが言っていた事の意味を考えるのだった。
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