第36話 「夜霧よ今夜もハンバーガー」の思い出
裕ちゃん(石原裕次郎)ファンか石原軍団マニアの人がこのタイトルを見たら「つまんねーシャレだなぁ」と思うかもしれないが、まぁ聞いてくれ(読んでくれ、の方が適切かもしれない)。
この「夜霧よ今夜もハンバーガー」は、確かにそれ自体はシャレのようなものではあるのだが、かつて実際に存在し販売されていた商品の、れっきとした正式名称でもある。
北海道札幌市の製パン会社「日糧製パン」が開発したスナックバーガー(こういうくくりがあるのかどうかは知らないが、要は普通のハンバーガーと比較して全体的にリーズナブルな材料で作られたハンバーガー)である「夜霧よ〜」は、かつて北海道と東北の一部で実際に販売されていた。
港のような背景と謎の淑女を背に、裕ちゃんチックな劇画調のキャラクターが「イカスぜ!」と喋っているパッケージで、力強い極太フォントでもって「夜霧よ今夜もハンバーガー」と描かれている。商品名で検索すれば画像を確認できるので、気になった人はぜひ見てみてほしい。一度見たらけっこう忘れられないタイプのパッケージである。
ハンバーガーのディテールとしては、コッペパン然としたチープなバンズに、てりやきソースとマヨネーズタイプのペーストが塗られた円形のハンバーグが挟んであって、あとはもうそれだけ、という感じで、ヤマザキの「てりやきハンバーガー」などを想像してもらえればそれがそのまま、という感じになっている。
サイズは小さいし、野菜も入ってないし、正直なところ食事としてはかなり物足りない分量だが、軽食やおやつとして考えるのであればじゅうぶん及第点で、おれはこれを部活の帰りなどに2個ほど調達し、食いながら帰宅するというのをよくやった。当時コンビニはまだ普及しておらず、個人の商店や雑貨店などで惣菜パンのくくりとして陳列されていた「夜霧よ〜」は、確か120円くらいではなかったかと思う。2個調達しても240円。消費税はまだなく、マクドナルドとは何ぞや、という少年だったおれにとってのハンバーガー原体験が、この「夜霧よ〜」だったのだ。
喫食時に「電子レンジでチンする」ことがまだ時代的に難しかったということもあり、だいたい食べるときは加熱もへったくれもなかったのだが、冷たいのは冷たいなりに(特にマヨネーズタイプのペーストが)絶妙な味わいでおいしかったのを記憶している。ハンバーガーなんて完全に冷めてたら味なんぞ如何なものか・・・という感じがしなくもないが、おそらくスナックバーガーはこの条件を克服しているというのが前提なのだろう、問題なく食べることができた。
ネットで調べると「2019年にセイコーマートで限定販売していた」という情報が出てくる。自分は道民ではないので、物理的に喫食することは難しいのが残念だが、セイコーマートは本当にコンビニという枠を超えて道民に愛される店なんだなと羨ましく思うかぎりである。限定復活するくらいなので「夜霧よ〜」のファンは意外と多いのかもしれない。事実、おれもこうやって文章にしたためているくらい思い入れのある商品ではある。
ヤマザキの「てりやきハンバーガー」も、あれはあれで素朴な感じで好きなのだが、記憶が確かであれば「夜霧よ〜」の方がハンバーグに塗られたソースが濃い目かつ多めになっていて、食事感が高かった記憶がある。おれはスナックバーガーに代表される自販機グルメも好きで、こういう「普通のそれとはちょっと違う食べ物」があると嬉しくなってしまうのだが、スナックバーガーの代表例は今のところヤマザキの「てりやきハンバーガー」くらいしかない。
日本全国どこでも手軽にハンバーガーが食べられるようになった昨今、あらためて「夜霧よ〜」や「てりやき〜」のようなスナックバーガーを買う機会もそうそうないが、あればあるで、結構腹の足しになる商品である。そりゃ普通のハンバーガーと比べたらチープではあるが、それはそれでそれなりにおいしいところもあるんじゃないだろうか。少なくとも、こうやって商品名を覚えていることが、なによりの証左だ。
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