第30話 フルーツサンドの誤解

 コンビニのサンドイッチコーナーの隅っこ、それがフルーツサンドの定位置である。これに異を唱える人はいないだろう。


 実際のところ、コンビニでサンドイッチを買うときに、フルーツサンドを率先して買う人はあまり居ないと思う。なぜそう思うのかというと、そんな感じで「コンビニのサンドイッチコーナーの隅っこ」にちょこんと鎮座していることが多いからである。


 結論から申し上げておくと、フルーツサンドはおいしいので、是非買ったほうがいい、いや、おれも買うので、おれが買うときは買わないで、それ以外の時に率先して買って欲しい。


 フルーツサンドは後述する理由で間違いなくおいしいのだが、おれはこのフルーツサンドに関して「売り方がよくない」と思っている。


 というのも、長らくサンドイッチは「軽食」、大分類としては「食事」としてのポジションに君臨しており、その具もツナマヨやたまごサラダなど、間違いなく「食事寄り」のものがメジャーであった。ハム、チキンカツ、チーズ、ベーコン・レタス・トマト、ハンバーグなど、横展開するにしてもだいたい「食事寄り」の具が多かったというのも、それを裏付けている。


 そこにきていきなりイチゴとかクリームとか、ブルーベリーなどのスウィーツ界隈でよろしくやっている具材がラインナップされてくるのだから、そりゃ混乱するのも已む無しだろう。人々がサンドイッチに期待するポテンシャルは「食事としてのポテンシャル」であり、デザートのポテンシャルではないのである。


 だいたい、サンドイッチのパンにフルーツやクリームが挟まれていて、果たしてうまいのか、という疑問だってある。特に店頭で購入する段階で口の中が「食事としてのサンドイッチ」になっている人はなおさらそう思うはずで、塩気がなく甘みしかないとなると、場合によっては間違えて買ってしまい、クレームになりそうな気配さえする。


 けだしコンビニのフルーツサンドは、そういうコンセンサスを破って「はいフルーツサンドが登場しました!」とばかりに、パッケージもサンドイッチの流用でもって、サンドイッチコーナーに陳列されてしまった。そのために混乱をきたしているのである。これは非常にもったいないと、おれは思う。


 結論に戻るが、フルーツサンドは間違いなくおいしい。正直言うとおれも最初は若干抵抗があったが、食べてみてわかった。


 フルーツサンドは、若干「ケーキ」の文脈が感じられるのである。


 スポンジがパンで、そこにクリームやフルーツがある。そういうのってなにか無かったっけ・・・ああ、ケーキか!という感じで、そういえば世の中にはケーキというのもあるな、と考えると、あまり抵抗がない。普通のスポンジケーキを手でつかんで食うのは難しいが、フルーツサンドはそもそもが手づかみでの喫食を想定しているため、難しさを感じなくとも喫食できる。


 サンドイッチよりもケーキの一種であると考えると、値段が少し高いのも、あまり違和感なく受け入れられるのではないかと思う。某コンビニで売っているイチゴのフルーツサンドは400円ぐらいするが、ケーキ2個と考えれば「まぁ、そんなもんでもいいよな」と思えてはこないだろうか。おれは思える。


 パッケージについても改善の余地がある。とりあえずサンドイッチのそれをただ流用するのはやめて、いかにもスイーツです、という感じのものに変えよう。で、サンドイッチは通常、断面が正面に斜め立った状態で陳列されるが、これを横に陳列できるようにするといい。要は実際に、ケーキのように陳列するのである。必要であれば、普通のサンドイッチとちょっと仕切りで分けて、化粧棚のようにしても良いかもしれない。


 陳列一つで、その商品のイメージもずいぶん変わる。フルーツサンドはサンドイッチではあるが、市井の人間にとっての「食事としてのサンドイッチ」というコンセンサスを打ち破るにはまだまだ時期尚早だし、そもそもフルーツサンド側にそういう意図が無い可能性だってある。であれば、もうバッサリ分けてしまって「はいこれはケーキです!サンドイッチっぽいけど」という切り口にしてしまうほうが、理解は早いのではないか。


 多くの人がフルーツサンドを誤解している中、おれはしめしめとばかりにフルーツサンドを味わっているので、皆さんもはやくフルーツサンドを購入し、喫食してみることをおすすめする。繰り返しになるが、フルーツサンドは間違いなくおいしい。ランチパックだって甘い味とそうでない味があるように、フレッシュフルーツが入っていたって、サンドイッチのパンとしてのポテンシャルはひとつも失われないのだ。このようなことに気づいている人がどのくらいいるか、おれはコンビニに行く度に、注意深くサンドイッチコーナーへ向かう人を観察している。

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