第18話 反ココア派
ココアという飲み物に関して、おれのもっとも古い記憶がまだ正確に残っているとすれば、小学校低学年の時だかに母が買ってきたものを作って飲んだ「ミロ」の粉末タイプがそれになるかと思う。
勿論、ミロを愛してやまないミロガチ勢の皆さんから「ミロは厳密に言えばココアじゃねえよ」というツッコミが入ることは承知している。だが、いちおう原料にココアは入っているし、麦芽飲料だよねという理解はあるので、どうか許してほしい。
気軽に鉄分が採れるというSNSの投稿をきっかけに爆売れしたのも記憶に新しいが、実のところおれはミロをはじめとした「ココア飲料」があまり好きではない。
それは同じく小学校低学年の時だかに、同じく母が買ってきた「森永 純ココア」を「砂糖・牛乳なし、お湯で溶いただけで飲んだ」経験による。
これが仮に「森永 ミルクココア」であれば、最初から甘いので、裏面の作り方にも言及されているようにお湯だけで作ることもできる。ホットミルクを用いる場合と比較してストレートに甘味が感じられるのが白眉で、子供にとってのココアといえば「甘いココア」で大正解というのは、誰でも理解いただけるのではないかと思う。
だが「森永 純ココア」に関しては、その名前が示すとおり「ピュアなココア粉」なので、少なくとも子供が好むようなわかりやすい甘みはない。裏面の作り方に関しても「砂糖とか牛乳を用いよ」と記載されている。
いるのだが、子供にとっては「ココア=甘い」なので、砂糖が入っているものだという決めつけをどうしてもしてしまう。その時はたまたま「ミロ」も「ミルクココア」もなかったので「純ココア」をお湯でこうやって溶いて飲んだのだが、当たり前に苦くて、うぇ~となった記憶がある。
いちど苦い飲料を飲むと「砂糖を足せばいいや」という気持ちになかなかなりづらく、また子供でもあるので、おれはココアを放置し、帰宅した母に見つかって笑われた。なんとも「にがい」経験であった。
お菓子作りに用いたり、甘味を調整できるという点においてはピュアココアの出番もあろうが、すくなくとも飲料としての「ココア」の出番はおれにはない。というか、この出来事があったおかげで、おれはあまりココアを飲まなくなってしまった。それまでは甘くておいしいなと思っていたのだが、なんとなく「甘くない場合もある」という経験が、飲みたい欲にブレーキをかけてしまうようになったのではないかと感じている。
オッサンになった今、ブラックコーヒーを飲むことにはなんの躊躇もないし、むしろ好きなほうなのだが、やはりどうも「ココア」はなじめない。そもそもココアに甘みを足さずに飲む派閥があるというのも大人になってから知り、やってみたこともあるのだが、なんというか、苦さのジャンルがコーヒーのそれと若干異なるため、いまいちハマらなかった。コーヒーだって最初はミルクコーヒーあたりから入ったはずだし、ブラックコーヒーだって間違えて飲んでみたこともあるはずなのだが、この違いはなんなのだろうか。
そんなこんなで、冬の寒い時期に自動販売機で「あったか~いココア」があったとしても、おれは素通りして「つめた~いブラックコーヒー」を買うような人間になってしまった。栄養価やカフェインの有無で考えればココアにも良い点はあると思うんだけど、無糖で飲む文化が缶飲料、特に自販機に波及してきていないということは、やはりブラックコーヒーのそれとはジャンルが違うのだろう、などと思ったりもする。
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