第4話 ようやくオッサンがタピオカミルクティーを飲むことを許可された

 あまり知られていないかもしれないが、2021年も終わりを迎え、タピオカブームが一段落し、タピオカ自体がコモディティ化したおかげで、ようやくオッサンがタピオカミルクティーを飲んでもよくなった。


 いや「自分オッサンですが別に出たときからバンバン飲んでましたけど・・・」という意見があることは承知しているし、それはおれも同じなんだけど、体裁としては、オッサンが今までタピオカミルクティーを飲むことは、それとなく社会的に許されていない状況だったのだ。


 どういう事なのか順を追って説明する。2019年、ものすごい流行に乗って、原宿駅前に「東京タピオカランド」が出来たことは、まだ読者諸兄の記憶にも新しいところかと思う。この2019年の爆発的タピオカブームは「第三次タピオカブーム」と呼ばれており、第二次は2013年、第一次は2003年にそれぞれ端を発している(それぞれの詳しい経緯はここでは省く)。


 タピオカに限らず、どのブームでもそうなのだが、スイーツの流行は基本的にオッサンではなく若年層の女性によって引き起こされるものが多い。パンケーキなんかもそうだけど、もともとあったものが若年層の女性に「再発見」されることで、一旦イニシアチブは若年層女性のものとなるのである。


 そのあいだに男はどうしているのかというと、彼女と一緒に食べに行きましたとか、一部の芸能界におけるスイーツの権威みたいな人たちが「うん!これはおいしい!男性にもオススメ!」などと嘯きながらも、実際お店は若い女性ばっかりだし、店で買ってもなんかニヤニヤされるし、いやこれオッサンとか食いに行けねぇじゃんという感じになって、よっぽど甘いものが好きなクラスタ以外のオッサンは、基本的にはすぐにありつけないという期間が続く。


 ところで、歌手の華原朋美が、昔とある歌番組で「牛丼が好きで、吉野家とか行くと、つゆだくで食べる」と言及したことで、それまでほぼオッサンのオアシスと言い切っても過言ではなかった吉野家に、あれよというまに若い女性が押し寄せ、一気にゲームの流れが変わったことがあった。1990年代に起こった吉野家ブームの一環であり、若年層の女性が吉野家で「つゆだく!」などと言いながら牛丼を食べる姿が、その当時あったのである。


 パンケーキ屋にオッサンが突撃するのと、牛丼屋にギャルやJDが突撃するのは、本質的な文脈としてはほとんど同じであるように思うんだけど、前者はあまり許容されない。もしかしたら後者もオッサンから白い目で見られていたのかもしれないが、それでもオッサンがパンケーキ屋やタピオカ店に突撃するそれよりかは、社会的には許容されていたように思う。


 こういう現象は他にも色々な場面で確認することができる。女子トイレが満員のときに、強めのおばさんが男子トイレの個室を使うといったようなアレとか、ああいうのもこの現象にだいたい近いと言ってよいだろう。


 おれ個人としては、別に女性が吉野家で牛丼をかき込んでいても、箱根そばで豆腐一丁そばをすすっててもなんの感想も持たないが、パンケーキやタピオカなど「女性によって再発見されたもの」に対するオッサンのそれは、必ずしも同じように許容されないだろうという思いがずっとある。これは妬みや嫉みではなく、ある種の諦めのようなものであり、その時は無念に思うが「まぁいずれオッサンも食えるようになるっしょ」と楽観的に考えている、というのも正直なところであったりする。


 そういうわけで基本的にはオッサンというのは、新しいグルメに対してイニシアチブを握れるタイミングが遅く、常に不利な状況にありがちなんだけど、タピオカに関しては第三次ブームから2年ほど経過したという事実も踏まえ、そろそろ召し上がらせて頂くことが可能になっただろうと思い、この散文をしたためるに至った。


 ちなみに2021年現在でブーム進行中のマリトッツォだが、これは出た瞬間からいきなりコモディティ化していたので、オッサンも遠慮なく食べてよい。マリトッツォについては別な機会にまた書こうと思う。

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