第30話 スタンピード

 グランガルドでは、鐘の音が響いている。

 緊急事態を知らせる釣鐘が各地でならされ、けたたましく鳴っていた。住民の多くは教会やギルドへと避難をはじめていた。荷物をひとつにまとめ、皮のリュックを担ぎながら家族みんなで教会へと逃げる。教会は非難者の受け入れのために神官たちが慌ただしく動き回る。

 そんな避難の流れとは、異なる動きをした男たちがいた。

 完全武装した冒険者の集団は、ひとの波をかき分けてグランガルドの外へと向かう。〝猛獣の闘争〟をはじめとして、ギルドに所属する冒険者旅団のほとんどが立ちあがっていた。グランガルドの北門を抜けた先では冒険者たちが集団をつくる。その数は三千人にもなった。半数は、ライアの声かけで街に留まっていた腕利きの冒険者たちだった。これに教会の騎士団と国の騎士団を合わせると四千人の人間が集まっていた。

 どんよりと分厚い雲が空を覆った不気味な天気のしたに、魔物の軍勢がゆっくりと侵攻してくる。

 まるで黒塗りの絨毯が動いているかのよう。ゆっくり、ゆっくりとグランガルドへと向かってくる。


「うーんっ、あと十分ぐらいかもー」


 空を飛ぶ女冒険者が、ライアに言った。


「了解。なあ、アニキみたか?」


「ううん。おにい、いないみたい」


「いくつか聞きたいことあんだけど、しょうがねえか」


 ライアは頭の後ろを撫でながら、周囲からくる無数の質問に答えていた。そのほとんどは、ライアが指示を出すべきものではなかったが、それを言ってしまえばこの場は崩壊してしまうので、ライアは自ら指揮棒を振り続けた。


「はいはーい! シューターと魔法使いさん、戦うの苦手な冒険者さんたちー。リフト出すから、城壁にのろっか。戦うの苦手な子は、弓矢撃つひとに矢を運んだり、手伝ってあげてね。みんなで、がんばろーっ」


 戦場に咲くミーナは、持ち前の明るさで空気を変える。どこ吹く風という態度は、不安に駆られる駆け出しの冒険者たちに安心を与えた。

 ミーナは頭上から冒険者たちの交通整理を行い、三十人ほどを集めるとグランガルドの城壁のうえに運ぶ。


「ばびゅーんっ」


 風にまとわりつかれた冒険者たちは、足を不安げに動かしながらも、大人しく空中を運ばれてゆく。ミーナが持つ風のスキルで、冒険者や物資の運搬をひとりでこなしていた。


「ローエンのダンナ!」


 炎のような赤い髪を見つけたライアは、ローエンに話しかけた。となりにハイドがいないことに、肩を落とす。


「おう。悪ガキ、立派に冒険者やってんじゃねえの」


「ダンナこそ、いつも元気そうでなにより」


 ローエンは自分より背の低いライアの髪をガシガシと撫でると、ライアは嫌がって逃げた。


「ところで、ダンナ。アニキはどこに?」


「……ハイドは、敵に刺されて重体。クソ気味の悪い短剣で刺されて、信頼できるところに預けた」


「……どんな、剣でした?」


「こんぐらいの銅色の柄に不気味な色の石が仕込んであって、鍔の装飾が返しみたいになってる変な短剣だな。刃渡りは見えなかった」


「……あ、ああ。まさか、そんな」


 ライアは喉が熱くなり、心臓が張り裂けそうだった。

 ハイドが刺されたと聞いて、いやな予感がした。まさかとは思うも、自分が盗まれた魔剣で、恩人が刺されるだなんて思いたくもなかった。現実に起こってしまった悪夢のような出来事に、頭が真っ白になる。

 暗雲から雷の音が聞こえてきた。


「ダンナ、すみません。アニキが刺された剣、自分が盗まれた魔剣かもしれません。もし、そうだったら、アニキはもう」


 ライアは「すみません」と力なく謝った。ローエンはそれを聞いて「そうか」と頷いた後、笑って見せた。


「なに言ってんだ。あいつが死ぬわけねーだろ。もし死にかけてるなら、それもあいつの作戦じゃねーかな。だれよりも正義に熱い男がさ、こんなところで死ぬわけねえだろ。オレやライアが危なくなったら、憎たらしい顔をしながら現れる。まずは目の前の魔物を倒そうぜ。でないと、オレたちに明日はねえ。ハイドは、ライアやミーナに期待してたぞ」


「……オスッ」


 ライアは腰を半分に折りローエンに謝った後、ローエンと簡単な打ち合わせをした。


「一番槍、自分にください。あいつらの三分の一、いや半分もらいます」


 人情に熱い元盗賊の男は、唇を噛みしめながらローエンに訴えた。


「いいぜ。〝雷帝〟の名を轟かせろよ」


「オスッ」


 ライアは即座に切り替えると、迫りくる数多の魔物の集団を睨みつけた。


「……許さねえぞ、魔王共」


 つぶやきは冒険者たちの熱気に消えてゆく。

 冒険者の集団を引っ張ろうとする小さな少年の肩には、怒りがほとばしり、雷を生んでいた。

 多くの冒険者にとっては、準備をする間もないまま、魔物の顔が目で判断できるくらいの距離まで近づいていた。

 いつ開戦するのかと待ちわびる者も少なくない。しかし、あまりに多すぎる魔物の軍勢に、冒険者がグランガルドの城壁外に布陣していることを危険とみなす者もでてきた。

 目に見える範囲すべてに、魔物が布陣している。

 ミノタウロスが斧を頭上にあげて、屈強な脚で地面を叩き威嚇してくる。

 オーガが丸太のようなこん棒を振り回しながら、うなり声をあげる。

 氷の巨人が地面を踏み鳴らすたびに、大地が悲鳴をあげる。

 ひしめく大型の魔物の間を、ワーコボルトやオオカミ、ゴブリンたちが駆け回る。なかには、ミノタウロスに運悪く踏みつぶされるものもいた。しかし、魔物の行進は止まらない。グランガルドを襲うというひとつの意思を持って、冒険者たちに迫ってきていた。


――ドンッ


 魔物の軍勢のなかで爆発音がした。

 見ると、氷のゴーレムが一体、体の半分を吹き飛ばされている。くだけちった氷の破片が、魔物たちに吹き飛んでいた。死体やケガを負った魔物が無数に存在していた。範囲は広く、数十メートルの穴があいたように、ぽっかりと空間ができていた。


「ミーナ、準備はいいか」


「ばっちり。いつでもオッケー。ライア、どしたの? 顔こわいよ。笑っていこ」


「かはは、そうか……そうだな。はじめようか。自分たちの戦争を」


 ライアは側の男に笑って言う。「旗を立ててくれ」言われた男は〝猛獣の闘争〟のシンボルマークである牙を見せ笑う狼のマークの入った旗を振りかざした。


「〝黒の騎士団〟も来てるけど、護衛に入ってる感じ。たぶん〝地の勇者〟についてる」


「あいつら、前に出る気はないんだろうな。ミーナ、なにかあったら自分かローエンのダンナか〝剣の勇者〟を頼れ。あとは、暴れろ」


「オッケー。おにいの敵討ちじゃん」


「勝手にアニキを殺すなよ!?」


「ごめーーっ」


 両手をあげて謝るミーナに、ライアは笑った。


「おーい。お前らーッ、待たせたな。暴れる時間だぞ。見ろよ、あの軍勢。自分ら相手に、どんだけ魔物引き連れてビビってんだって、笑わせるよな。自分の計算では、ひとりたったの二十体も倒せば勝てる。なあに、ダンジョンのフロアボス倒すより余裕だって。なあ?」


 ライアの仲間たちは、雄々しく頼もしい声をあげる。


「「うおおおおおお!!」」


「どっちが魔物かわかんねえ声やめろって! かははっ、ビビってるやついねーのかよ。つまんねーな」


 からっと笑うライアは、冒険者たちの最前線で声を張り上げる。


「戦うぞ! 俺たちの街が襲われてる。俺たちの平和が、おびやかされてる。守れ! 守るための戦いだ!」


 全冒険者の目は、ライアを捉えていた。戦場が嵐の前の静けさをまとう。

 ただひとり、ライアの声だけが響いている。


「冒険者たちよ! グランガルドを襲うという、愚かな選択をした魔物共に思い知らせろ。グランガルドは、俺たちの街だ。われわれ冒険者の街だ。われわれがいる限り、この街は落ちない。城塞都市と言われた街の最高の防衛設備は、われわれ冒険者だということを魔王共に思いだしてもらわなければならない。武器を持て! 戦う準備はいいか!? 武器を取らねば、奪われるぞ! 戦え! 俺たちの街のために! 俺たちの平和のために! 俺たちの自由のために!」


 数万の魔物の地鳴りにも負けない、冒険者たちの歓声があがった。

 拳を大きくうえに突き出した少年は、戦いの最前線で笑う。


――なによりも自由に、囚われることなどないように


「全員、俺についてこい。勝利を見せてやる。完膚なきまでに叩き潰すぞ。ミーナッ、雲を退けろ」


「待ってましたーッ。〝晴天〟ぶおおーっ!」


 ミーナが雲を散らすほどの暴風を生んだ。分厚い雲の塊がちりばめられ、青く晴れた空が見える。

 カラッと晴れた空に、ライアの仕込んだ特大の武器が現れた。


「「「うおおおおおおおおおおお」」」


 戦い始める冒険者たちは、すでに勝利したかのような歓声をあげていた。

 対して魔物の軍勢は、空を見上げた。ただ、それだけで、武器を落とすものもいた。


「……マジかよ。これが〝雷帝〟」


「英雄スキル保持者って、災害じゃねえか」


「雷が、止まってやがる」


 さっぱりと晴れた空に広がる三千本の槍。槍は空をびっしりと覆いつくし、紫電をまき散らしながら落ちる瞬間をいまかいまかと待ちわびる。


「はじめようぜ〝暴食の魔王〟さんよ。冒険者、なめんじゃねえぞーーッ」


 雷を司る王が叫ぶと、空の雷が怒りに呼応して鳴り響く。


 ――〝暴食の魔王〟は〝雷帝〟の怒りに触れた。当然、怒りは雷となって襲いかかる


「〝青天の霹靂ライトニング・ヴァイオレーター〟」


 空から槍の形をした青い稲妻が降ってくる。魔物の体を貫き、広範囲に電撃を巻き散らす。触れたものは感電し、気を失い暴れ狂っていた。

 数万もの軍勢を単純に横に並べただけの布陣のうえから、絶えぬ雷が降り注ぐ。

 ライアの仕込んだトラップは、それだけでは終わらない。


――ドドドドドドッ、ズズンッ


 地面が揺れ、連続した爆発が鳴り、重い爆発音が響き渡った。

 スタンピードの存在を知っていたライアは、ハイドの提案で地面に爆弾を埋めていた。埋めた位置をめがけて、雷を落とす。それだけで、魔物の大半は吹き飛んでいく。


「おにいがくれた爆弾に、ばっちり当たってるじゃん」


「うおおおお、コントロール効かねえええええ」


 すさまじい雷光の数々を落としている男は、自分の力に振り回されていた。だれも、そんな声は聞こえない。ただ彼が成す英雄的戦果をすべて彼のものとして目に焼き付いていた。

 地面が陥没し、土煙があがり続ける戦場ではすでに魔物の死体が山となっていた。


「もーらいっ。気を抜いちゃダメじゃん。戦いになったら容赦できないし、しないじゃんね」


 〝風〟の英雄スキルを持っているミーナは、戦場を飛び回る。狙っているのは、空を飛ぶ魔物たち。地上の味方を狙う厄介な存在はいま、雷に打たれて地面に倒れていた。


「あーつまれっ」


 ミーナは空中に浮きながら、両手を大きく広げると、体を半分に折りながら前へと腕を伸ばす。


――暴風がふたつ、吹き荒れた


 ハリケーンを凝縮したかのような突風が、横向きに通過する。触れたものは吹き飛ばされるほどの威力を持ち、縦横無人に荒れ狂っていた。ひとたび走れば、魔物が数百単位で吹き飛び、氷の巨人さえも空中へと放り出されて落下死する。

 ふたつの暴風から逃れようと、魔物たちは固まっていた。やがてそれは、逃げ場を失っていたことに気づく。

 上空を飛ぶミーナは、風の通り道を作る。狙い落とすために両手を伸ばし前へ掲げると、舌足らずな声で叫んだ。


「いっくよっ〝暴風の矢ストーム・ブリンガー〟」


 ミーナの通り名にもなったその技は、荒れ狂う嵐のような暴風となって魔物に襲いかった。ミーナの両手から、風の矢が放たれる。秒間に十発ほどのペースで、永遠に打ち続けられる風の矢は、上空から魔物たちを斉射し、地上を制圧していた。余力のあるミーナは、さらに奥へと自分の矢が届く範囲ギリギリまで斉射し続ける。

 遠距離を狙う空中砲台として機能し、ひとりで空中と地上を制圧する女冒険者は、魔物からすれば悪夢のような存在だった。


「ヤー! バキューン」


 ひととおり撃ち尽くし、動くものがなくなるまで放った風の弾幕は、魔物の存在を許さなかった。

 ミーナは事前に地面を掘り隠しておいた爆弾をすべて起爆させながら、魔物を撃っていた。これで冒険者が通ったときに爆発するようなことはないはずだと、安心していたときだった。


――ドンッ


 ミーナのすぐ後ろで爆発音がした。


「ヤバっ」


 処理をしそこなった爆弾があったのかと、心配したミーナだった。すぐに杞憂になった。


「やるじゃねえか!」


 自分で起こした爆発で飛んできたローエンが、ミーナと同じ高さまで飛んできていた。


「ローちゃん。おっすー」


「おっす。じゃねえよ!? 緊張感を持てよ!?」


「ウチ、むずかしいこと言われてもムリー」


 目をバツにし、腕を目の前でクロスするミーナだった。


「わかったよ! 火を起こす。風をくれ!」


「ヤー。オッケーッ」


 ローエンは聖剣を抜刀したまま、空中で構えた。落下するさきは、魔物の最前線。ライアとミーナが押し込んだ前線を、さらに押し込もうとしていた。

 目指すは一体。この戦いを描いている敵のボスのもとへ刃を届かせようとする。ライアが魔物の絨毯を穴だらけにしても、すぐに間を埋められるほどの物量差があった。ふたたび火力でこじ開け、最奥部にいる戦場の指揮官であるハイオーガに狙いをつけていた。


「ハイド、見てろよ。オレの全力、いまここで見せてやるからな」


――ローエンは相棒を想い、情熱の炎を燃やした


 かつてローエンは、鍛冶屋の見習いとして村で働いていた。火の扱いは好きだったし、金属で形をつくるのは得意だった。その経験もあってか、炎を自在に操れるようになってからは、炎で形をつくり敵を攻撃することが多い。


――ローエンが描く、最強のイメージを顕現する


「すべてを食らえ、この世で至高なる存在よ」


 ローエンは剣から大炎を起こし、体を回転させながら炎を練った。やがて炎は戦場にいるだれもが目にできるほどの大渦へと育ち、ローエンは渦の頂点で剣を振りかぶる。


「〝永炎創操えいえんそうそう・ドラゴンツイスター〟」


――炎のドラゴン


 炎の渦の頂点で、鎌首をもたげた龍のアギトが開き、魔王の軍勢めがけて襲い掛かる。


「ヤー! 炎の通り道、いっけえええ!!」


 追い風を受けた炎のドラゴンは進むたびに巨大化する。やがてすべてを飲み込むほど大きな炎となり、巨大な体を回転させ、触れたものを燃やしつくして暴れまわる。龍が通った地面さえも、焦土に変えた。ドラゴンの通り道に命は存在しなかった。ただ灰が散り、気化した魔物の肉の脂がツンと臭った。


「どんなもんだ。さあて、見えたな。ハイオーガよ。最速で決着つけてやるよ」


 ローエンが食い破った魔物の陣形は、ようやく敵の大将の姿が見えるほどに近づいていた。ローエンの目には青い巨躯に骨の巨斧を持ったオーガの上位個体が見える。まともにやると手こずりそうな相手でも、戦場では悠長に戦う時間はない。乱戦になってもひとりで斬り込み、炎で周りを巻き込みながら倒そうと考えていた。


――この絶好のチャンスを逃すほど〝剣の勇者〟は甘くない


 桜花皇国の衣装をはためかせ、類まれな身体能力で姿勢を低く走るふたりの姿。低空を飛ぶツバメのような動きで、二対の翼はハイオーガへと接近する。


「キキョウ、たのむ」


「承知しました。お嬢さま」


 アマネが敵陣に切り込んだ。足は一切止めずにすれ違いざまに敵をすべて斬り伏せ通り過ぎる。縫うように敵陣を駆けまわり、あっという間にハイオーガへと接近していた。


「護封結界」


 キキョウのスキルによって桜色の結界が張られる。キキョウは鮮やかに、自分の結界のうえへと飛びのった。

 広大な戦場において、結界の内と外に分断された。

 結界の内に残るは、敵の大将であるハイオーガと剣の勇者。外にいるのは、その他の大勢。戦場で生まれた一対一の機会を〝首狩り姫〟と名高い剣の勇者が得た。


「悪いが気が立っている。その首、落とさせてもらう」


「ウオオオオオオオオ。叩き潰してやるぞ、小娘ガアアアアアアアア」


 通常の個体よりもはるかに大きいオーガは、巨大な力で骨の斧を振り回し、アマネを潰そうとする。


――ガンッ


 オーガが斧を振り降ろそうとすると、阻む壁があった。結界を張ったキキョウが、にやりと笑う。アマネには十分なスペースを、ハイオーガはその力が発揮できないようなスペースを。空間を掌握するキキョウは、手のひらのうえでオーガを転がしていた。


――スパッ


 アマネは上段から振り落ろし、突き出したオーガの左肘を切断する。

 振り降ろした刀をそのままに、地面すれすれで走らせる。左足を大きく引きながら、刀を左へと走らせる。


――スッ


 斬られたことも気づけないほど素早く、オーガが重心を置いていた右足首を斜めに切断した。ハイオーガの体は傾き、アマネへと倒れ込む。

 アマネは左足を半歩だけ踏み込みながら、左から刀を切り上げる。


――スパンッ


 流れるような動作だった。刃は円を描く銀閃となって空中に軌跡を残す。

 宣言通り。ハイオーガの首は重力に逆らえず、ボトンと地面に落ちた。

 たった一度の斬撃で、手首、足首、首を順番に落としていた。

〝首狩り姫〟と名高いアマネが得意とする技だった。

 アマネの紫色の瞳は、なおも敵をにらみつける。

 刀を鞘に戻すと、聖剣の名を口にする。


「〝聖剣抜刀・次元刀〟放つ斬撃、凶刃となりて、目に映るすべてを討たん」


 アマネは居合の型を取りながら「キキョウッ」と叫ぶ。名を呼ばれた従者は結界を解いた。自由落下に任せて、アマネの後ろへと着地する。


「白桜流剣術・太刀風〝次元斬・一文字〟」


 アマネは、神速の抜刀術で剣を横なぎに振るった。


――ズバンッ


 何重にも音が重なる鈍い切断音が一度だけ響く。

 たった一度の横なぎ。アマネの視界に存在していた魔物たちはすべて、上肢と下肢がバラバラに切断された。


「お見事です」


「追撃にでる。ついてこい」


「予定よりも斬りましたね」


「ふんっ」


 敵陣最奥部で振るったアマネの一撃は、残った敵の数を数百まで減らしていた。


〝雷帝〟の一撃がはじめた、この戦争。


〝ストームブリンガー〟ミーナが矢継ぎ早に繋いだ。


〝炎の勇者〟が炎の龍で一掃し。


〝剣聖〟が敵将の首を落とし、せん滅する。


 四人の英雄が協力した超火力で仕留める電撃戦。


 魔王からは〝グランガルドの悲劇〟と呼ばれ。


 人類からは〝グランガルドの栄光〟と称えられることになる。


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