第17話 〝剣〟と〝炎〟と暗殺者

 ハイドはルイを連れて、古びた宿屋を出た。

 鍵を返すときに受付の台を銀貨で叩いた。コツコツと音をさせると、宿屋の男が奥から出てくる。ハイドが置いた銀貨を、男は懐にしまった。宿屋の男がハイドから受け取った銀貨は、前払いしていた分を合わせると低級冒険者の一月分の稼ぎほどあった。

 他言無用の口止め料。そして、ルイを三階の奥の部屋へ誘導してくれた対価。ハイドは、事前に宿屋の男を買収していた。

 ハイドはルイと、街の風景に溶け込む。

 頭のなかではアマネを襲った敵のことを考えていた。


 いったいだれが? 


 どのような目的で?


 口を割らせる前に逃がしてしまったことを自分の不手際とし、逃げた先がダンジョンの最下層だったことを考えると、なにか悪いことの前触れに感じる。


 ハイドがアマネの追跡者に気がついたのは、偶然だった。

 ギルド酒場に向かう途中、あきらかに怒った様子のアマネを見つけた。どうせローエンのせいで怒っているんだろうと思い、声をかけようとして――やめた。

 アマネが、だれかに見られている気配がした。

 ハイドはルイと共に街に溶け込むと、違和感の正体を探した。周囲の人間の顔をすべて覚える。だれがどこにいったか。どのような風貌でアマネとの距離感はどうだったかを、記憶する。

 浮かび上がるのは、奇妙な光景。

 アマネの後方で、ときおり起こることだった。

 路地の端で談笑している人間が、急に周りを見回しはじめる。

 屋台から立ち上る煙が、急に拡散する。

 舗装のされていない石畳の小石が勝手に動く。しかも、規則的なリズムで。

 あまりに下手くそすぎる追跡にハイドは目を疑った。

 追跡者が持つ目に見えないという技能が、台無しだった。

 繊細さに欠け、自分の能力に自信を持っているらしき透明な追跡者をあぶりだすべく、ハイドは一計を案じる。

 その結果、逃げられはしたが負傷させ撤退させることができた。


「わーいっ。ありがとうっ」


 ハイドは肉屋で肉を買い、ルイに渡した。

 ルイが気に入っていた屋台の豚の串焼き。そこの店主が構える肉屋だった。

 面倒ごとに、文句ひとつも言わず付き合ってくれたルイへプレゼントを贈る。

 リースメアとコルトから渡された大金は、まだ半分以上残っている。ハイドは、リースメアとコルトの金銭感覚について、計算ができないか、相場を知らないせいでバカになっていると決めつけていた。

 銀貨十一枚の値段がついていた骨付き肉のブロックを、ルイはうれしそうに抱きしめた。

 ハイドは先ほどコルトとニンファのお使いで買った、なにやらよくわからない木の根っこや乾燥させた植物や種、油などに比べれば有意義な買い物だと思っていた。


「きゃんっ」


 ルイの抑えきれない喜びを、ハイドが押さえた。尻尾をとられたルイは、大人しくなる。


「えへっ。ごめーんっ」


「構わないさ。そろそろ合流するか」


「うんっ」


 装備をつけたままのローエンとアマネは、着替えに帰っていた。

 集合場所は冒険者ギルド施設の前となっていたので、少しだけ買い物をして時間をつぶしたところだった。

 ギルドの前には、またしても喧嘩をしているふたりがいる。

 アマネはノースリーブの白いブラウスに着替えていた。黒いフレアスカートから覗く雪のような脚には、膝上までソックスを履いている。足元は、黒いショートブーツだった。美しい容姿とは異なり、目つきは鋭く、歯をむき出しにしていた。

 アマネに噛みつかれているローエンは、アマネの綺麗な格好とは対照的だった。黒いインナーに使い古した半ズボン、そして便所サンダル。ラフすぎるスタイルが、ローエンにはちょうどよかった。アマネの言葉には聞く耳を持っていないようで、耳に指を突っ込みながらあくびをしていた。


「……ルイ、帰るか」


「わふっ。いいよー」


 ハイドは本当に帰ろうとする。踵を返したとき、アマネが慌ててハイドの腕を掴みに走る。


「待って! 待て、待て。誤解だ。ちょっと言葉が過ぎただけなんだ」


「こいつ、まだ根に持ってんだぜ? ひでーよな」


「……このバカ。本気で斬るぞ」


 アマネは拳を震わせながら、ローエンを見つめていた。


「行こうぜ。部屋は押さえてあるってよ」


 ローエンはアマネに舌を出し挑発しながら言っていた。


「さも自分が手配したように言うな! その格好で来るのに、なぜ私より遅れるんだ」


「迷ったからに決まってんだろ」


「どうして迷う!?」


「グランガルドが広すぎる。近道しようとしたら、なぜか知らない場所にいくんだよ」


「するな! 大通りを歩けばわかりやすいだろうがーっ」


 ギルドのなかに入っても調子を変えないふたりに、ルイがくすくす笑っていた。

 教会にならぶほど立派な造りをしているギルドの建物に入る。冒険者ギルドの本拠地だけあって窓口のスタッフが多く、行き来する冒険者も後を絶たない。受付嬢に声をかけ、二階の応接室に案内された。ギルドは、教会と勇者に協力的だった。

 ローエンとアマネも、階層が多い大規模ダンジョンや大量発生したモンスターの討伐に向かうときには冒険者の手を借りることが多い。ギルドも、冒険者だけでは対応が困難なクエストには、教会を通して勇者に依頼を出すこともあった。

 応接室に入ると羊毛でつくられた茜色の絨毯を踏み、黒い革張りのソファに座る。ローエンとアマネは、それぞれ一人掛けのソファに座り、ハイドとルイは並んで座った。


「ごくろうだったな、ハイド。まず、礼を言わせてくれ。危険を教えてくれて、ありがとう。ふふっ、ようやく名前を呼べたよ」


 アマネは優しい声音でハイドを労った。


「そこまで気にしなくてもいい。顔も名前も、隠しているわけではない」


「アサシンと組むことはなかったが、お前の活躍をよく知っている。なにせ、この突撃することしか能のない男が〝炎帝〟――英雄と名を広めているのだ。手腕を含めて、評価をしている。だからこそ、ハイドがパーティーから抜けたのは残念だ」


「ローエン。アマネには、どこまで話した?」


「オレが魔王城でへたこいて、ハイドが捕まったっつーのと、オレがソロになったことぐらいは」


「そうか。なら紹介しておこう。魔王リースメアの城でよくしてくれる仲間のルイだ。いまは怪しまれないように村娘の姿で、俺の嫁として行動を共にしている」


 ローエンは「そういうことか」と納得する。アマネは、ほっとした自分がいることに気づき、慌てて取り繕っていた。


「わんっ。……あっ、ごめーん。名前よばれると、うれしくなっちゃうの。ルイだよーっ」


「ルイ、もう外していいぞ」


「いいのっ!? やったーっ」


 ルイは頭の頭巾を外し、耳をピコピコと動かす。長いスカートも嫌だったようで、すとんと落とした。スカートのしたに履いていたホットパンツがあらわれた。邪魔になったのか上着も脱ぐと、ぴったりとしたインナーだけになる。


「獣人族だったのか」


 気がつかなかったアマネが驚いていた。

 ハイドはルイが脱ぎ散らかしたものを畳むと、ルイの持っていたポーチへと投げ込んだ。

 ポーチの向こうで洗濯物を受け取ったメイドは、ハイドのベッドシーツと一緒に洗濯をしていた。無論、来客対応をこなしながら。だれにもバレないようにハイドを監視し、掃除と家事は魔法で行う。たったひとりで魔王城を管理するメイドの神業だった。

 ルイは長い尻尾をハイドの膝に置く。ハイドは慣れたように手櫛で尻尾の手入れをはじめながら、ローエンとアマネに話す。


「アマネ、変な気は起こすなよ。ローエンとふたりがかりでも、ルイには勝てない」


「そう聞き及んでいる。もっとも、いまはさすがに武器を持っていない。やる気はないさ。そのために、着替えさせたんだろう?」


「さあな」


「やめとけ、マジで。オレは一発も当てられなかったし、必死で逃げ回ってた」


「あのね、炎のおにーさんはね、戦いかたが単純なんだよ。ぜんぶが全力だとね、リズムも呼吸もわかりやすいから、目を閉じてても避けられちゃうんだよ。ゴリ押しっていうのかな? それもいいけど、それは弱いものイジメまでだよ。小さく動くことを覚えないと、実力の近い相手との戦いに負けちゃうよ。わふっ」


 ハイドが撫でる尻尾に、ルイはくすぐったそうに身をよじる。

 ルイの話を聞いたローエンは真剣に頷いていた。


「わかりました。ありがとうございます」


「キサマが、ひとの言うことを聞いただと」


 アマネの紫色の瞳が大きく見開かれた。


「あまりオススメしないけどね、二対一とかの状況で戦うといいんだよ。ムダな動きができなくなるしね、自分がどうしたいかだけじゃなくて、相手にどうされたくないかって考えるから。そのうち相手はどうしてくるかって考えるようになって、戦ってるときの、ひらめき? んとねー」


「判断力」


 ハイドがルイの言葉に付け加えていた。


「そうそう。判断力がね、つくんだよ。ルイもね、炎のおにーさんみたいに自分の技に気持ちよくなっちゃってるときに、一回痛い目みて、死にかけてから気づいたんだよー」


 頷くローエンの姿を見て、アマネが言う。


「すこし、待ってくれ。ルイさんは、魔王の仲間なのだろう。なぜ、ローエンにアドバイスを?」


「俺たちは勇者の敵である魔王陣営だ。だが、俺は勇者の仲間でもある。バレてるスパイみたいなものだ」


「ルイは、おにーさんの味方だからだよ。あとね、うちにはね、もうひとり。シルフィっていうメイドさんが、おにーさんの味方だよ」


 ルイは、だれにも聞こえないように独り言を言った。


「……ホンモノの怪物がね」


 アマネの表情が柔らかくなる。


「ふむ、スパイか。ハイドがスパイなら、仕方が無い。利用してやろうではないか」


「ハイドが魔王の情報をくれるってことでいいのか?」


「そのつもりだ。今度、魔王が集まる機会があるらしい。そこに潜入してくる。敵の把握、居場所の確認ができ次第、伝えるとしよう。魔王の城がわかれば俺が潜入と脱出の手配を整えるつもりだ」


「ちがうよ。潜入と脱出なんかの後方支援は、魔法使いのシルフィに任せればいいんだよ。ルイも使っていいよ。おにーさんのためなら、炎のおにーさんと勇者のおねーさんに協力してあげる」


「らしいぞ。いつの間にやら、俺のネットワークは、とんでもないことになってたらしい」


「いったい何人いるか知らないが、魔王たちもどうやら一枚岩ではないようだな」


 背後に見えた魔王同士の力関係を、アマネは指摘する。


「七だよ。わふっ……ひとり、暴れすぎて魔王の座を追放された王がいるけどね」


「なんだ、そいつ。とんでもねえな」


「うん。その気になったら魔族も人間も半分以上死ぬんじゃないかなあ」


「魔王よりも優先度が高くないか?」


 アマネが眉間にしわを寄せて言う。


「だいじょーぶ。まおーさまとルイがちょっかいかけてるから、一番に襲われるのはまおーさまだよ」


「俺は、そんなところに帰るのか」


 はじめて聞く話にハイドは世界を知らなさすぎると、痛感した。


「わふっ。まおーさまがね、すぐにわからないかもしれないけど、まおーさまはまおーさまで頑張ってるんだって!」


「うちの魔王から、よろしくだそうだ」


 アマネは聞いた話を整理すると、眉をさげた。


「困ったな。単純に魔王を倒せばよいという話ではなくなる。教会への不信感が、さらに高まったぞ」


 勇者としても、ひとりの人間としても正義を常に考え続けているアマネらしい発言だった。


「もともとオレらは教会のこと嫌いだろーがよ」


 神を信じないローエンの、勇者らしくない発言であった。


「……それはそうだが。それに、教会と仲良くする勇者なんて、アイツ以外いないだろう」


「オレはあいつが嫌いだ。以上」


「同感だ」


 この場に居ない三人目の勇者の話だった。


「でも、聖女ちゃんとは仲良くしたい!」


「聖女さまは、勇者総会以外には姿をあらわさないと聞いている。仲良くなるのは、むずかしいのではないか?」



「聖女ちゃん集会で仲良くなればいいんだぜ」


「あの淀んだ重い空気を知っていて、よくそんなことをいえるものだな。感心する」


「ロメオのところのうるせえ賢者に言え。あいつが口を開いている間は、聖女ちゃんを見て心を癒すようにしてんだ」


「……ほとんどの時間ではないか」


「イラついたハイドがよ、集会のときにあいつの飲み物に腹をくだす毒を入れたことあんだぞ」


「時間を有意義に使うためだ」


 ハイドの膝のうえでルイの尻尾が踊っていた。


「おまえーーーーーーっ。あんなやつでも、味方だぞ! 味方に毒を盛るなあ!?」


「無能な味方ほどやっかいなものはない。なあ、ローエン」


「なあ、それって同意求めてる? オレのこと非難してる?」


「どちらでもいいぞ」


「オレそういうの気にするから、やめてくんない!? ふとしたときに思い出してへこむタイプだから!」


「秘密にしておこう」


「性格わりいって! ハイドの秘密主義は、いまにはじまったことじゃねえんだぜ。村に住んでたときもよ、毎日遊んでたのによ、いつの間にかオレに黙ってオオカミ飼ってやがったんだ」


「ローエンに言うと食われると思ってな」


「食わねーよ!? 犬は食わねーよ! あんなでけえ狼、食うどころか食われるぜ。きれいな白い毛並みの狼を村のはずれで飼ってやがったんだ。ケガしてたところを拾ったとか言ってな」


「ハイドらしいな。……狼は、簡単にはなつかないのではないか?」


「それがよお、なついたんだよ。村が飛竜に襲われたときに、狼が一蹴して去ってくんだぜ。村が祭りになったのによ、ハイドだけ落ち込んでて、なんて言ったと思う? 『あのまま狼を飼いたかった』ってへこんでんだぜ。村の空き家で拾った犬を育てるなんていうスケールじゃねえんだよ、あのでけえ狼」


「何を言っている、ローエン。俺はまだ、あきらめていない」


「あきらめとけよ!? 食費が大変でしょうが!?」


「あの賢い狼ならば、俺のことを覚えているはず。そのうちどこかで運命的な再開をするはずなんだ」


「夢を見るな!? あのころと姿も変わってんだろ!」


「くすくすッ。ハイドにも、かわいいところがあるのだな」


「……例えはじめは敵として出会っても、なにかの拍子に気がついて和解できるような未来を想像しているんだが」


「ねえよ! 塔に幽閉された女の子のもとに王子様が迎えに来てくれるぐらいねえよ!」


「そうか」


 ハイドは見ただけでわかるぐらい落ち込んでいた。


「……いや、それはあってほしい」


 アマネはもごもごと言っていた。女勇者も乙女であった。

 ルイは落ち着かない様子で自分の尻尾を抱きしめて、ソファに横になり頭をうずめている。


 他愛のない時間こそが、かけがえのないものだった。

 ふたりの勇者、暗殺者と獣人族の少女の憩いの時間は過ぎていく。


「もう外が暗くなるのか。すまないが、そろそろ私は戻らせてもらおう。キキョウが心配でな」


「おう。キキョウにだけは、すまなかったと伝えてくれ」


「キサマっ!? 私にも言えっ!」


「ごくろうッ!」


「扱いの差がおかしいだろうがーーーーっ」


「やれやれ。またな、アマネ。すこし遠いところにいてすまないが、一緒に戦っているつもりだ。くれぐれも、背後には気をつけろ」


「ありがとう、ハイド。今日もまた助けられた。ハイドの助力は頼りになる。頼ってばかりですまないが、これからも頼らせて欲しい。では、失礼する。ルイさんも、今日はありがとう」


「またねーっ」


 アマネは背筋をのばし腰をおると、退出していった。

 私服でいながらも、帯剣していることをハイドは気づいていた。律儀で実直なアマネが休まるときがあるのかと、ハイドはいらぬ心配とわかっていてもしてしまう。


「俺たちも帰るか」


「そだねーっ」


「ハイド、ひとつだけいいか?」


「どうした」


 ローエンが真剣な表情でハイドに聞く。


「今日の敵は――見えない敵はだれだったんだ? 気づいてるんだろう」


「おそらくはな。だが、それが正しければ少々厄介な話になる。次の聖女ちゃん集会に、俺も参加していいか? アマネが気がかりだ」


「オレはバカだからわかんねえけどよ。アマネが狙われてるのは、やべえって気づいてる。あいつは剣を握ってれば誰にも負けない。けどな、ひとが良すぎるんだよ。むかしのピリピリしてたアマネより今のほうがアマネって感じはするけどな。なあ、ハイド、あいつを守ってやってくんねーか?」


「引き受けよう。ひとが良いのは、だれだろうな」


「ちゃかすなよ。それを言うなら、お前が一番だろうよ」


「さあな。俺は悪人だ。なにせ、魔王陣営のアサシンだぞ」


「よく言うぜ。……任せるぜ、ハイド」


 ハイドとローエンは拳をぶつけ合う。男同士の約束だった。


「オレは強くなる。いずれ、正面から迎えに行くからよ。待っててくれよな」


「また生きて会おう。いずれ死ぬことを忘れるな」


 死ぬんじゃないぞと、ハイドは言った。


「シルフィア、迎えを頼む」


 ハイドがつぶやくと、即座に門が現れる。門から、リースメアの城のキッチンが見えていた。


「炎のおにーさん、ヒントだよ」


 ルイは去り際にお土産を置いた。ルイにとって、いいことがあったからだ。


「ルイと戦ったときの動きで、すっごくいいなって思ったの。逆立ちの状態からね、剣で起こした爆風でバックステップしたでしょ。あれ、すっごく良いよ。飛べるよ。もっと飛べる」


「あれは、夢中で……」


「サービス」


 ルイはローエンに拳を向けた。右の拳を脇腹の位置で構える。


 ――ピッ


 予備動作はない。最速で最短の突きがローエンの鼻先で止まる。ローエンは回避行動すらも起こせなかった。

 ハイドは、その突きに込められたてつもない技術に胸をうたれた。ローエンはそれ以上の驚愕と感動を得ていた。


「おいでよ、もっと先に。また遊ぼうね」


 ルイは武芸者としての顔を止め、いつもの柔らかで元気な表情を浮かべる。


「えへっ。おにーさん、かえろーっ」


「ルイ、あとで俺とも遊んでくれるか?」


「うんっ」


 ルイの見せた一面にハイドは興奮を抑えきれなかった。

 全身を鳥肌で震撼させたローエンは、目に浮かんだ炎の輝きを強くする。


「炎のおにーさん、またねっ」


 ルイがさきに門を通った。それを待っていたハイドは、ふり返る。


「ローエン、見つけたぞ。紫色の髪をしたヴァンパイア」


「なんだと!? そうか、ということは骸骨の骨を持ったお嬢ちゃんか?」


「ああ、どうする?」


「ヘヘッ、ハイドを迎えに行く理由が、また増えた」


「さすが勇者だ。ではな」


「また集会でなーっ!」


 少年の頃と変わらない笑顔。「また明日」というような気心の知れた言葉でローエンはハイドを見送った。

 ハイドは後ろ髪をひかれながらも、魔王城へと帰還した。

 男には、まだ魔王城でやるべきことがあった。勇者のために。


 ふたりの男は、今日よりも明日すこしでも世界が平和になるように。それだけを願ってそれぞれの戦いに身を投じる。

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