第116話 火と風
自らの生み出した、訓練に適したダンジョン。
その低酸素高重力の環境のなか、俺は打倒魔王を誓って訓練を行っていた。
で、ふと思い出したのだ。
そういや精霊って、まだ二体いたな、と。
なので、風と火の精霊を一気に呼び出した。
今なら残り二体同時でも行けそうだなーと思って。
「お久しぶりですな。勇者殿」
「ふん……」
白髪の老人の様な姿をした精霊の方が、たぶん風の精霊フーガで。
そして小柄の赤毛――と言うか、髪が燃えてるから赤い感じ――で、痩身の女性の精霊の方が、火の精霊フレイスだろうと思われる。
なんか……フレイス、機嫌が悪そうに見えるな。
「あとはぁ、アクアスが復活すれば全員集合ですねぇ」
「ああ、そうだな」
ここ数日、クレイスには訓練を手伝って貰っている。
「所で……フーガはなんでそんな姿なんだ?」
他の精霊は全部女性なのに、フーガだけは男の姿をしている。
まあこのさい性別はいいとして、フーガだけやたらと年を食ってる姿なのが俺は気になった。
自然の一部である精霊には、年齢による加齢などはない筈である。
「勇者殿、風の精霊は自由を愛するものなのです」
「自由か……まあ確かに、そういうイメージはあるな」
だが、それと老人の姿に何の関係があるというのか?
「勇者殿、自由とは何物にも縛られない事」
「ああ、まあそうだな」
「そして自由という物は、他者を束縛する事でのみ得られる物です」
「え?そうなのか?」
なんで自分が自由になるのに、他人を束縛する必要があるのか?
それが分からない。
「ふぉっふぉっふぉ、腑に落ちないと言った感じですな」
「まあそりゃな」
「しかし考えてみてくだされ、自由に行動する際に最も大きな障害となるもの……それは他者に他なりません」
「うーん……まあそうとも言えるか」
自分しかいない世界ならともかく、他人もいる世界なら、相手からの干渉や摩擦が発生するのは必定だ。
街中で自由を叫びながら全裸で走り回ったら、おまわりさんに御用だされる訳だしな。
そう考えると、確かに他人は自由に行動する際の最大級の足かせではある。
「だから束縛する必要があるのです。自分以外の全てを。自らの自由に干渉させないために」
なるほど。
そう考えると、確かに間違った事は言ってないな。
極端ではあるが、何らかの手段で他人全てを支配下に置いて言動を制限してしまえば、自由を謳歌する事に妨げにはならなくなるのは事実だ。
「そしてこの世でも最も他者を束縛する存在、それが……老害です」
「ん……んん?」
まさかここで老害と来たか。
まあ確かに、一部迷惑なジジババは周囲を束縛して本人は自由っぽくはあるけども……どうなんだ?なんか違くね?
「なので、自由を愛する風の精霊であるわしは老人という訳です」
フーガが胸を張り、ドヤ顔でそう言ってくる。
「ああ、おう、そうか……」
まあ自由の是非はともかく、本人がそれで納得しているのなら別にそれでいいが。
「むむむ、反応が悪いですな。ここは笑う所ですぞ、勇者殿。なにせ今のは、精霊ジョークなのですからな。ふぉっふぉっふぉ」
フーガが楽しげに笑う。
どうやら冗談だったようだ。
精霊の冗談は、俺には高度過ぎて理解できないから困る。
つうか結局、何故老人の姿をしてるのかを聞けてないな。
まあいいか。
見た目に拘るルッキズムは、今の時代にそぐわないし。
ああ、もちろん。
ギャルゲーは見た目が重要だぞ。
ポリコレなんぞ糞くらえである。
「ちっ、何笑ってやがる。今の状況が分かってんのかよ。魔王の奴が……くそっ!」
フレイスが不機嫌そうに地面を蹴る。
どうやら機嫌が悪いのは、魔王の事でイラついているからのようだ。
まあ精霊から見ても、あいつは危険な存在なんだろう。
「イラついても仕方あるまい」
「そうですよぉ」
「ふざけんな!魔王の奴が何をしたか、お前らだって気づいてるんだろうが!」
宥めようとしたフーガとクレイスに対し、フレイスが激高する。
「む……」
「それはぁ……」
フレイスの言葉に、クレイスとフーガは苦い表情になる。
……魔王の奴が何をしたか、か。
この世界でダンジョンをばら撒いている事や、俺への強制限界突破ともとれるが、クレイス達の反応から見るに、違う気がする。
ひょっとして、俺の知らない何かを精霊達は知っているのだろうか?
「魔王の奴は、お前達に何かしたのか?」
「わしらが、というよりかは……」
「すいませぇん、それはお話しする事が出来んばいんですぅ」
「ちっ……」
「俺には話せないって訳か……」
「すいませぇん」
「色々と事情があってのう」
「そうか。まあ追求しないさ」
魔王が何をやらかしたのか、気にならないと言えば嘘になる。
が、精霊達が揃って口を
俺には話せない理由が。
「ただ、一つだけ聞かせてくれ……それは、知らなくても魔王討伐には影響しないんだよな?」
追求しないとは言ったが、魔王討伐に影響しないと言うのが大前提だ。
知らない事で魔王との戦いに不都合が生じるなら、流石に話は変わって来る。
「それは問題ねぇよ。けどな……」
フレイスが俯き、拳を強く握りしめる。
「分かった。それだけ確認できれば問題ない」
精霊達が俺に悪意を持っているとも思えないので、素直にその言葉を信じる事にする。
「ま、話せるようになったら言ってくれ」
「すいませぇん」
「勇者殿の寛大なお心に感謝じゃ」
「ふん……」
取りあえず、ここにアクアスさえ復帰すれば精霊集合だな。
今は余計な事は考えず、魔王を倒すための訓練に集中するとしよう。
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