第42話 炎の魔人
「まるで灼熱地獄ね」
「アツソウダヨー」
ゲートを超えると、そこは灼熱の世界だった。
至る所から溶岩が噴き出し、マグマ溜まりを形成している。
遠くでは火山から大量の噴煙が上がり、粉塵が空を覆い隠していた。
「へっ。マグマ如き、俺と姐さんからすれば市民プールみたいなもんだぜ」
「じゃあ一人で勝手に泳いで来い」
「へい!」
言ったら本当にマグマに突っ込もうとしたので、膝の裏を蹴って止める。
「何で止めるんですか?」
「お前は大丈夫でも、備品が燃えるだろ」
実際、レベル7の身体強化能力者の台場なら飛び込んでも死にはしないだろう。
だが奴の身に付けている物は別だ。
支給品が全部パアになってしまう。
「あの!魔物がたくさん寄ってきます!」
探索能力持ちが警告を発する。
どうやらお出迎えの様だ。
能力者からマッピングイメージが脳内に送られてくるが、相変わらず全部透明のまるだった。
実に紛らわしい。
ま、自前の察知能力があるから別にいいけど
「嫌な感じね」
敵は此方を囲む様に近づいて来る。
偶々か、もしこれが意図した動きなら指揮官を務める魔物がいるかもしれない。
「円陣で対応するわよ!レベル5は遠距離攻撃主体!接近系は飛んで来た攻撃や近づいて来た奴の対処!遠距離能力者を守りなさい!」
玲奈が素早く指示を出す。
溶岩地帯である以上、敵はその地の利を生かして来るのは目に見えている。
低レベルが地形を無視して接近戦を仕掛けるのは無謀なので、遠距離能力者のカバーに徹させる様だ。
「レベル7は各自の判断で敵の殲滅よ!味方からの誤射に気を付けなさい!」
普通は遠距離攻撃組に言う言葉なのだが、玲奈はその対応を打たれる可能性のある側に求める。
レベル7なら、それぐらい自分で何とかしろって事なんだろう。
まあ俺や姫宮はそんな物は絶対喰らわないし、衛宮姉妹はバリアフィールドがある。
台場は頑丈だから、多少喰らっても問題ない。
支障があるとすれば――
「グエン。自信がないなら下がっていてもいいぞ」
レベル7に上がったばかりのグエンだ。
能力的にも、味方の攻撃を無効化できたりする訳じゃないからな。
「ダイジョウブダヨ!グエンモキョウキャラダカラネ!ムソウスルヨ!」
本人は自信がある様だ。
なら心配は余計か。
「来るわよ!」
まるで玲奈の言葉に反応するかの様に、目の前の溶岩から灼熱の炎を纏った人型の魔物が大量に姿を現した。
「ラヴァデビルか……」
マグマを纏った悪魔。
それは俺の知る魔物だった。
くそっ……
こいつらは、異世界では奴が好んで使役していた魔物だ。
奴らを見ていると、嫌な相手を思い出してしょうがない。
「攻撃が来るわ!迎撃しなさい!」
ラヴァデビルが一斉に溶岩弾を吐き出す。
飛んでくるそれを、遠距離攻撃で迎撃。
しきれなかった分は、近接タイプが対応する。
「攻撃よ!」
初激を凌ぎきった所で、玲奈の号令で反撃開始だ。
俺は迷わず敵に突っ込む。
そこまで積極的に動くつもりではなかったが、こいつらを視界に収め続けるのは不快極まりない。
――さっさと終わらせる。
「エギールハ、ムテキサイキョウダヨー」
「やばいっすよ姐さん。まさか一人で半分以上倒しちまうなんて」
敵の殲滅は短時間で問題なく終了。
此方の被害は0だ。
「余りの感動に、俺の筋肉が震えてやがりますぜ」
「それは単なる筋肉疲労だ」
感動したからと言って、そんな物が震えたりする訳などない。
もし本当に震えているなら、それは間違いなく病気だ。
「あんた本当に化け物ね」
「姉さん。その言い方は失礼よ」
「誉め言葉なんだから良いのよ」
「……想像以上。私も……もっと強くなる」
不快感があったとはいえ、少しばかりやり過ぎた様だ。
ま、やってしまった物は仕方がない。
今更力を押さえるのもあれなので、今ぐらいの感じで戦うとしよう。
その方がサクサク進むだろうし。
「さて……被害もないし。それじゃあ探索に――」
突如、玲奈の言葉を遮るかの様に地面が大きく揺れ、遠くにあった火山が大きく噴火する。
それは周囲の物より一際大きな山で、空へと吹きあがるマグマは、まるで俺達にここまで来いと言っている様に見えた。
「流石に、ここまで分りやすいと行くしかないわね……あそこに向かうわよ!」
「へっ。手間が省けて良いぜ。姐さん、ここのボスに俺達のパワーを見せつけてやりましょう」
「まあそうだな」
罠の可能性も十分にある。
だがまあ、仮にそうだったとしても、探索系の能力者がいれば問題ないだろう。
玲奈もそう判断したからこそ、迷わずそこへ向かって攻略隊を進めるのだ。
途中何度か敵襲があったが、特に問題なく処理しながら俺達は目的の火口へと進む。
「ここね……レベル5は少し後ろに下がってなさい!」
噴火自体は少し前に止まっている。
下がらせたのは、噴煙の中からの不意打ちを警戒しての事だ。
レベル5がボスの攻撃を喰らえば、最悪即死もあり得るからな。
「さあ!来てやったわよ!姿を現しなさい!」
玲奈の大声が響き渡る。
普段アイドルとして歌ってるだけあってか、大した声量だ。
それに応えるかの様に、火口から火柱が上がる。
噴火ではなく、火柱だ。
その炎は立ち昇る噴煙すらも焼き尽くし、中から一体の魔物が姿を現した。
「――っ!?」
炎を纏ったその姿。
それは――
「久しいな……勇者よ」
「イフリート……」
かつて俺が倒した炎の魔人。
イフリートだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「ふふふ……面白い勝負になりそうだ。そうは思わんか?グヴェイン」
異形の主が、目の前に映し出された光景を楽しげに眺めている。
それは黒衣の勇者と、炎の魔人が睨みあう姿だった。
「は……お言葉を返すようですが、イフリートと勇者では戦いにはならないかと」
主の問いかけに、配下の魔人は苦し気に返事を返す。
何故なら結末が見え切っていたからだ。
「まあ今のままならそうだろうな。だが、奴には私の血を持たせてある」
「マスターの血を……」
「勇者が来ると分かっていて、何の歓迎の準備もしないのは失礼であろう?」
「おっしゃる通りです」
主の言葉に、影の様な姿の魔人が感服したと言わんばかりに頭を下げる。
「まあだが、それでもイフリートの敗北は変わらないだろう。私が楽しみにしているのは勝ち負けではなく……あいつがどうやって勝つか、だ。地力を上げて何とかするのか。それとも――」
「仲間が全滅する事になっても、あの力を使うか……ですね」
異形の王は、配下の言葉に口を嬉しそうに歪める。
その目はこれから起こりえる惨事を想像し、狂気の色に染まっていた。
「くくく……楽しみだ」
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