第36話 舎弟
「レーンさん……大丈夫だとは思いますけど、気を付けてくださいね」
「ああ、任せておけ」
凛音が少し心配そうに声をかけて来る。
それに俺は力強く返事を返した。
「俺は一切心配してないぜ」
「だろうな」
悪友からの心配など一切期待していないし、されたらされたで逆に戸惑う
「ま、適当に終わらせるさ」
ここはSランクダンジョン――正確にはそのクリスタルだが――のある、封鎖された広場だ。
今日、これから俺はSランクダンジョンを攻略する。
面子はレベル7の姫宮、衛宮姉妹、台場、そして俺――レベル7扱い――の5人。
それに海外からの助っ人であるレベル6が3人に、レベル5が日本と海外合わせて60人の大所帯だ。
その攻略のメンバーの中に、日本人初のレベル7である遠間紫電――雷帝の名はなかった。
どうやら姫宮グループと、SDCの母体である遠間グループはあまり仲が宜しくないらしい。
レベル7が5人もいれば攻略可能だと判断した姫宮は、遠間には声をかけなかった様だ。
んで、その遠間は中国に渡り、中国で出現したSランクダンジョン攻略に参加する予定との事。
以上!
ネット情報!
「あねさーーーーん!」
台場が大声を上げ、笑顔で手を振りながら此方に突っ込んで来た。
その土煙を上げる爆走に、止まる様子は微塵も感じられない。
まあ止まる気がないのだろう。
仕方がないので、俺は目の前に迫った肉達磨を蹴り飛ばして止めてやる。
「人をブレーキ代わりにするな」
「ははは、さっすが姐さんでさ。いい蹴り、ありがとうございます!」
奴は蹴り飛ばされたにも拘らず、即座に起き上り、体育会系丸出しで勢いよく頭を下げた。
この前、目を覚ましてからこの調子だ。
パワーで圧倒されたのは生まれて初めてだったらしく、そこに感動してか、それ以来台場は俺の舎弟を勝手に名乗っていた。
迷惑極まりない。
「ちょっとお兄ちゃん!何やってんのよ!」
茶髪で釣り眼気味の女の子が走ってきて、台場の尻に勢いよく蹴りを入れる。
中々いい蹴りだ。
……お兄ちゃんと呼んだという事は、この子は台場の妹って事か。
全然似てねぇな。
肉達磨の怪獣である台場に対し、妹の方は普通に可愛らしい女の子だった。
顔に幼さがあるので、多分俺より3つ4つぐらい歳下だと思う。
「どうもすいません。家の兄が迷惑かけちゃって。あ、御挨拶が遅れました。私は台場豪気の妹で、
話なっが!
初対面でどんだけ話すつもりだ。
大阪のおばちゃんかよ、この子は。
「蘭ちゃん、流石に長いよ」
後からやって来た赤毛の男――
そういやこいつ、台場と同じグリードコーポレーションだったな。
「あっと、つい嬉しくて喋りすぎちゃったみたいですね。まあとにかく、気が向いたら是非うちに!私達グリードコーポレーションは、エギールさんをいつでもお待ちしております!福利厚生や待遇なんかも応相談でして――」
「蘭ちゃん……」
「おっと私とした事が。失礼しました。普段から言葉の通じない兄と話してばっかなので、話の通じそうな人を見るとですね――」
「嫌だから長いって」
「ぬ……ちょっと自重します」
3度目にして、やっと台場の妹さんの口が閉じられた。
恐るべき人物だ。
だがインパクトはある。
ゲームを作る際、こういう喋りまくる少しウザ目のキャラを出すのも悪くないかもしれない。
ま、あくまでもサブでだが。
ひたすら喋りまくるメインヒロインとか、流石に変化球がすぎるからな。
「相変わらずよくしゃべるわね」
台場蘭がまくし立てているうちに、衛宮姉妹と姫宮がやって来ていた。
相変わらずとい言っているので、玲奈とは顔見知りの様だ。
「お久しぶりです。姫宮グループの皆さん。今回はダンジョン攻略にお誘い頂き、誠にありがとうございます。今回はその期待に沿える様――」
「ストップだ」
また喋り出した蘭を、台場の奴がそのデカい手を彼女の口にあてて物理的に止める。
「姫宮。それに衛宮。姐さんの一番の舎弟は、テメーらじゃなくこの俺だ。それをこのダンジョンで思い知らせてやるぜ」
「はぁ!?何で私がエギールの舎弟になんなきゃならないのよ!?バッカじゃないの!」
「お前ら姐さんに負けたんだろうが」
「どういう理屈よ!」
脳筋は清々しいまでの脳筋だった。
戦って負けたら舎弟とか、俺はそんなシステム導入してないんだが?
モンスター収集ゲームかよ。
「勝ち負けなど時の運だ。そんな物で上下を決めるなど下らない。後、私はお前を舎弟にした覚えはないぞ」
「何言ってるんですか姐さん!俺はアンタの強さにほれ込んだんだ!どこまでも付いて行きますよ!」
うん、ウザい。
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