第25話 天才

上空では衛宮姉妹が暴れまわっている。

流石レベル6といった所か。

デーモンは十数匹いるが、任せておいて全く問題なさそうだ。


「本当に下だけで良さそうだな」


俺は視線を上から前に向ける。

此方へと突っ込んで来るキマイラの数は3体だけ。


とは言え、その強さはデーモンより此方の方が上ではあるが。


「行く……」


姫宮はそう宣言すると、迷わず一番先頭のキマイラに突っ込んで行った。

武器がトラップ対策に出した物のままだが、どうやらそのまま戦うつもりの様だ。


キマイラが前に出た姫宮に、体格を生かしてそのまま体当たりをしようとする。

だが彼女はそれを舞う様に躱し、そして剣を振るう。


「――っ!?」


一刀の元、獅子とヤギの首が同時に落ちる。


だがキマイラは生命力が高い魔物だ。

頭部が一つでも残っていれば生きていられる程に。

残った尾の蛇が牙を剥き、姫宮に襲い掛かる。


が、それも彼女は一刀両断してしまう。


「まじか……」


最早美しいと言ってさえ良い、その凄まじい剣技に驚きから目を見開き、俺は思わず呟く。


異世界で剣術を学び、5年間剣を手に戦って来た。

フィジカル頼りで極めるには程遠い腕前ではあったが、それでも他者の技量を見極める事ぐらいは出来る。


――姫宮の剣技は、間違いなく達人級だ。


異世界で俺の知る、最高の剣術の使い手は二人。

俺の剣の師にあたる剣聖グラント。

そしてそのライバルとも言うべき存在、剣帝カリバル。


50年以上続く研鑽の果てに到達する技術は凄まじく。

2人の決闘は、今でも忘れられない程の名勝負だった。


そして姫宮の剣技は、そんな2人に匹敵する程の技量に達している。


彼女の年齢は俺と同じで21だったはず。

生まれて高々20年ちょっとの小娘が、師匠達と同じ領域に足を踏み込んでいるという事実。

正直、信じられない思いだ。


「天才って奴か……」


勿論、その強さは今の俺の敵ではないだろう。

基本となる身体能力に、余りにも差がありすぎるからな。

だがそれでも、彼女のその卓越した技量は称賛に値するものだった。


「ちょっとあんた!何サボって姫にだけ押し付けてんのよ!」


姫宮の卓越した剣技に見とれ、ついつい観戦するだけになってしまった。

戦闘を終わらせ降りて来た衛宮玲奈に、それを咎められる。


「余りにも見事な剣技だったので、つい……な」


「ふん、それじゃあしょうがないわね。なにせ姫は、姫宮流を14で免許皆伝してるから、剣の腕で右に出る者はいないもの」


もっと噛みつかれると思ったが、姫宮を褒めたら玲奈の表情から不機嫌さが吹き飛んだ。

そしてまるで自分の事の様に、彼女は誇らしげに胸を張る。


俺は別に、お前の事を褒めたわけではないのだが?


「14で免許皆伝か……大したものだ。まあ次の敵は私が相手をするから、それで勘弁してくれ」


まだ敵の殲滅は終わっていない。

その証拠に、この空間に入って来た時に感じた殺気――その中で一番大きな物は、消えていないからな。


「ふーん。まあいいわよ。あんたの実力がどの程度なのか、見せて貰おうじゃないの」


さて、どの程度まで力を出すべきだろうか。

姫宮や衛宮姉妹の力を基準に、それに合わせるべきか。

それとも、少し強めに見せるべきか。


一応彼女達と同じレベル6という事になっているので、弱く見せるのは論外だ。


……まあ強めにしとこう。


こう言う場合、ゲームとか漫画だと、ライバルキャラは大抵本気を出していなかったりするものだからな。

これが現実とは言え、衛宮玲奈は俺と同じくゲームの頂を目指す女だ。

そういったお約束を踏襲――手抜きを――している可能性は高い。


いや、きっとそのはず。


「殺気の主はあいつか……」


衛宮玲奈が腕につけたセンサーで魔物の位置を割り出し、其方へと向かう。

暫く進むと、巨大な悪魔を象った石像が見えて来る。


――勿論ただの石像ではなく、グレーターデーモンと言う魔物だ。


何故石化しているのかは分からないが、凄まじい殺気が放たれているので生きているのは確かだった。


「では、私が相手をするとしよう」


「え、ちょっと待ちなさい!あれは――」


衛宮玲奈が止めようとするが、俺は気にせず突っ込む。

まあ見るからに、先際程の魔物達より格上だからな。

俺が遅れを取るとでも思ったのだろう。


だがそれは余計な心配である。


「ぐおぉぉぉぉぉぉぉ!!」


俺が近づくと、石像の表面に罅が走り弾け飛ぶ。


「――っ!?」


雄叫びと共に動き出したその魔物は、俺の思っている物とは違っていた。

グレーターデーモンは紫の肌をしているが、そいつの肌は青黒い。

さらによく見ると、額に1対の目が付いている。


――全部で4つの目を持った青黒い魔物。


似てはいるが、どうやらグレーターデーモンではなかった様だ。

まあだが似たような物だろう。


俺は魔剣喰らう物グルメを引き抜き、止まらずそのまま奴に突っ込んだ。


「おおおおおぉぉぉぉぉぉ!!!」


魔物の目が紅く輝き、口から黒い炎が噴き出される。

俺は地を蹴り、除ける事無く真っすぐそれに飛び込んだ。


身に着けている魔鎧、漆黒の鎧ディープラックは外気の温度変化を完全に遮断する。

当然燃えもしないので、炎で俺がダメージを受ける心配はない。

炎が黒い事から闇属性も混ざっていそうではあるが、まあ気にする程の事ではないだろう。


「はぁっ!」


俺は魔物のブレスを容易く突っ切る。

そして目の前に現れた奴の顔面に向かって、魔剣を真一文字に薙いだ。


切断した、魔物の顔面が上下に分かれて切断面から滑り降ちる。

一応反撃も警戒したが、魔物はそのまま消えてしまった。


「ま、ざっとこんなもんだ……ん?」


急に目の前に青いパネルが浮かび上がる。

そこには――


ダンジョンボス討伐――クリア☆


と出ていた。


「どういう事だ?何故クリアに?」


意味が分からず、俺は顔を顰めた


Aランクダンジョンはかなり広いと、事前に聞いている。

最初の場所にボスがいたとは考え辛いし、以前のDランクダンジョンの様に盗掘屋がって事もないだろう。


地獄からの遣いヘルデーモンは、ランダムに転移するタイプのボスだから……」


俺が突っ込んだ際、直ぐに後を追いかけて来ていた姫宮が俺の疑問に答えてくれる。

どうやらランダム移動するボスだった様だ。

それが分かっていたから、手伝おうとしてくれたのだろう。


「あんた何者よ?Aランクボスを一撃だなんて……そんな真似、姫にだって無理よ。本当にレベル6なの?」


どうやら少しやりすぎてしまった様だ。

そのせいで遅れてやって来た玲奈に、疑わし気な眼差しを向けられてしまう。


ボスと分かってればもう少し苦労する演出をしたんだが、まあ知らなかったのだからしょうがない。


こういう時は――


「ふ、私の装備は特別だからな」


装備が凄かった事にする。

まあ実際異世界でも最強の装備だった訳だから、特別という言葉自体に嘘はないしな。


「成程……それで姫にも触らせなかった訳ね」


それに容易く玲奈が食いついた。

ふ、ちょろいぜ。

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